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六波羅蜜寺の2体の地蔵菩薩像

特別展「空也上人と六波羅蜜寺」(本館特別5室)も会期が残すところあと2週間となりました。
本ブログでは、2体の地蔵菩薩像について解説します。

六波羅蜜寺の近くには鳥辺野(とりべの)という埋葬地がありました。
ここを死後の世界とみなし、隣接する六波羅蜜寺のある地域は冥界に通じる道とされていました。
冥界で死者は裁判を受け、生前の行ないに応じて、六つの世界のどれかに生まれ変わりますが、この六つの世界いずれにも現れて救いの手を差し伸べる仏が地蔵菩薩です。
そのため、この地域では地蔵菩薩が厚く信仰されてきました。



六波羅蜜寺 本堂
六波羅蜜寺にも2体の地蔵菩薩像が伝わっています。

1体は平安時代中期に活躍した定朝(じょうちょう)の作と伝わる地蔵菩薩立像。


重要文化財
 地蔵菩薩立像 平安時代・11世紀 京都・六波羅蜜寺蔵
定朝の雅で穏やかな作風は貴族を中心に受け入れられ、やがて全国へ広まり、定朝様(じょうちょうよう)と呼ばれます。

もう1体は、鎌倉時代初期を中心に活躍した運慶(うんけい)の作とされる地蔵菩薩坐像。


重要文化財 地蔵菩薩坐像 運慶作 鎌倉時代・12世紀 京都・六波羅蜜寺蔵
運慶は慶派仏師の棟梁(とうりょう)として多くの造仏を手掛け、その天才的な作風は高く評価されてきました。

平安時代と鎌倉時代のそれぞれを代表する仏師が作った、または作ったと伝わるこの2体の造形には、それぞれの作風が反映されています。
いくつかのポイントを比べてみましょう(以下、伝定朝作の地蔵菩薩像を「伝定朝作像」、運慶作の地蔵菩薩像を「運慶作像」とします)。

まずは顔立ちです。


「伝定朝作像」 頭部

「運慶作像」 頭部

  • 「伝定朝作像」 頭部

  • 「運慶作像」 頭部
「伝定朝作像」は、伏し目がちで頬がほっそりとし、鼻や口は小ぶりに表わされ、落ち着きのある穏やかな印象です。
体に比べて小顔につくられているのも、その穏やかさをより一層際立たせています。
一方、「運慶作像」は、正面を見据えた目や、張りの強い頬など、人間に近いような写実的な表現です。また、眉や鼻梁をはっきりと刻み、メリハリのある立体感が伝わります。

次に横から見てみましょう。


「伝定朝作像」 上半身左側面
 

「運慶作像」 上半身左側面

  • 「伝定朝作像」 上半身左側面

  • 「運慶作像」 上半身左側面
「伝定朝作像」は奥行きがとても薄く、肩も華奢(きゃしゃ)です。立体感よりも正面から見たときの美しさ、バランスの良さを重視したのでしょう。
「運慶作像」は対照的に、奥行きを十分にとった量感があります。胸や肩もがっしりとしていますね。

そして、衣の襞(ひだ)の表現に目を移してみます。

「伝定朝作像」 脚部周辺
 

「運慶作像」 腹部周辺

  • 「伝定朝作像」 脚部周辺

  • 「運慶作像」 腹部周辺

「伝定朝作像」の同じ方向になだらかに表わされた襞は、彫りが浅く、数も少なく、衣の薄さが伝わってきます。
「運慶作像」は襞を深く彫り、数も多く、本物の衣を意識した表現です。

以上のように、同じ地蔵菩薩像ながらこの2体にはそれぞれの仏師の作風が反映されています。展示会場で、ぜひ他にも違いや特徴を見つけてみてください。

「運慶作像」は、これまでに実施されたX線調査やCT調査によって、像内に大量の紙束や巻物、水晶製とみられる容器を納めた宝塔などが納められていることがわかりました。
紙束や巻物には経典の文章や造像に関わった人の名前などが書かれていると考えられ、水晶製の容器には舎利(釈迦の遺骨)が納められているかもしれません。
 

「運慶作像」 X線断層(CT)画像(上下方向の断面)
大量の紙束や巻物があることがよくわかります。

 
「運慶作像」 X線断層(CT)画像(左右方向の断面)
円筒の上に屋根をのせた宝塔があります。

  
「運慶作像」 CT三次元画像(宝塔)                                                     
宝塔や丸い容器のかたちが立体的に把握できます

詳しくは、当館の研究誌『MUSEUM』696号(2022年2月発行)に掲載されていますので、そちらもぜひご覧になってみてください。

カテゴリ:「空也上人と六波羅蜜寺」

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posted by 増田政史(平常展調整室) at 2022年04月22日 (金)