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1089ブログ

博物館でアジアの旅―空想動物園― 魅力あふれる空想動物たち

「博物館でアジアの旅」(通称「アジ旅」)は、さながら時空を越えてアジア各地を旅するように、トーハク東洋館の各展示室を巡りながら、そこに散りばめられた様々な対象作品を探しつつご観覧いただく、という趣旨の企画です。

「空想動物」をテーマとした今年のアジ旅は、企画名称を「博物館でアジアの旅 空想動物園」(10月17日(日)まで)といたしました。近くの上野動物園に行くと、園外にも動物たちの鳴き声が聞こえてきます。大人も子供も入園前から心が躍り、普段は見られない多くの動物たちに実際に出会うと感激もひとしお。アジ旅での空想動物たちとの出会いも、ぜひ動物園のようにワクワクしながら楽しんでいただきたい、企画名称にはそのようなメッセ―ジも込められています。
企画をより楽しんでいただくために、今年はアジ旅専用の「調査ノート&シール」をご用意しました。イベントページをご参照のうえ、ぜひご利用いただけますと幸いです。

 

さて、前回のアジ旅ブログでは、主役級の空想動物「龍」と、龍とは異なる運命をたどった「饕餮」に注目して、それぞれの歴史的な歩みをご紹介しました。
今回は登場する残りの空想動物をできるだけ多くご紹介し、その魅力についてお伝えできればと思います。


 

鳳凰
龍と並ぶ主役級の空想動物として、真っ先に思い浮かぶのは鳳凰かもしれません。東アジアでは、慶事を告げる(象徴する)瑞鳥の総称として、鳳凰はさまざまな場面に登場します。
また中国や日本では、すぐれた人物のことをたとえて「龍鳳」とも言うように、古来、鳳凰は龍とともに尊い存在(イメージを共有できるという意味では、尊くも身近な存在)と考えられてきたのでしょう。
生活を彩る器物にあしらった模様は、当時の人びとにとって鳳凰が身近な存在であったことを想起させます。

 

 
 
五彩龍鳳文面盆 中国、景徳鎮窯「大明万暦年製」銘 明時代・万暦年間(1573~1620年) 横河民輔氏寄贈 東京国立博物館蔵 東洋館5室にて通期展示

どこかシュッとした印象のこちらの鳳凰。白地に、下絵付の青と上絵具の赤・緑・黄によって、華麗な姿が浮かび上がります。陶磁器の色鮮やかな五彩の表現は、中国古代の字書『爾雅』の注釈書に「五彩(色)」と記される鳳凰の色味にピッタリの技法と言えそうです。
同書は鳳凰の形状について、鶏の頭と蛇の頸、燕の頷と亀の背、魚の尾をもつ、と記しますが、文献によって記述内容には異同があり、美術作品に表された形もまた然り。これは他の空想動物にも言えることで、多様な表現に人びとの想像の広がりを感じることができます。



青花鳳凰形皿 中国、景徳鎮窯 明時代・17世紀 横河民輔氏寄贈 東京国立博物館蔵 東洋館5室にて通期展示

こちらは、天空を優雅に舞うかのような姿の鳳凰。つぶらな眼や丸みを帯びたシルエットは、愛嬌たっぷりです。お皿として実際に使用されているところを想像すると、食べ物を置いたそばから食べられちゃいそうな、、、躍動感ある表現です。



白玉鳳凰合子 中国 清時代・18~19世紀 神谷伝兵衛氏寄贈 東京国立博物館蔵 東洋館9室にて通期展示

打って変わって、白い鳳凰には、どこか神聖な趣が漂います。古来、神聖視され珍重されてきた、美しい石の代表とも言うべき玉で作られています。鳳凰をかたどった、この白玉製の蓋付き容器に、清時代の人びとは何を収めたのでしょうか。


これらの器物から1500年以上遡った後漢時代。当時の画像石や揺銭樹にも鳳凰がみられます。


画像石 鳳凰 中国山東省孝堂山下石祠 後漢時代・1~2世紀 東京国立博物館蔵 東洋館6室にて通期展示

こちらの鳳凰は、故人が仙界に昇る手助けをするものと考えられており、当時の人びとにとって神聖な存在であったことが想像されます。




  
揺銭樹 中国四川省あるいはその周辺 後漢時代・1~2世紀 東京国立博物館蔵 東洋館5室にて通期展示

仙人がまたがる羊をかたどった陶製台座の上に、青銅製の樹木がそびえ、そこに神仙や龍鳳、そしてたくさんの銅銭など、神聖でおめでたいものがあしらわれています。鳳凰は樹木の頂に。その姿は実に悠然としています。よくよく見ると、クチバシで玉のようなものをくわえ、めでたさ倍増の感があります。故人が死後の世界で豊かな暮らしを送れるようにとの祈りは、今も昔も変わらないようです。

 
 
飛び立つ四足獣
鳳凰のように、人びとは鳥の様々な特徴を、ときとして他の動物のそれと合わせて意匠化してきました。鳳凰の形状が鳥の要素が主体であるのに対して、グリフィンのように他の動物の要素が外見に強く表れた空想動物もいます。
 

グリフィン像飾板 イタリア、タラント出土 前4世紀 谷村敬介氏寄贈 東京国立博物館蔵 東洋館3室にて通期展示

「五彩龍鳳文面盆」の鳳凰に負けず劣らず、シュッとした姿のグリフィンです。ライオンの体に、鷲の頭部と翼をもつグリフィンは、天地それぞれの王者をかけ合わせた最強の容貌で表されます。グリフィンは古代神話に登場し、アジアの広い地域でも人気を博したようです。


 
有翼ライオン文高坏 イタリア、キウージ(クルシウム)出土 前6世紀 イタリア国立東洋美術館寄贈 東京国立博物館蔵 東洋館3室にて通期展示

こちらもライオンの体に翼をもつ空想動物。ですが、「グリフィン像飾板」とは対照的に、猫のような何とも愛らしい表情です。ケイタイの待ち受けにして和みたいなあ、と思わせる魅力たっぷりのゆるカワ表現です。


 
重要文化財 如来三尊仏龕 中国陝西省西安宝慶寺 唐時代・8世紀 東京国立博物館蔵 東洋館1室にて通期展示

こちらはグリフィンと馬の合成獣、ヒッポグリフ。仏様の両脇で、その上に顔を覗かせるインド神話の水棲怪物、マカラとともに侍従します。



有翼人物と人面をもつ鳥
鳥と合成されたのは、四足の獣たちだけではありません。鳥の翼をもつ人物や、人の顔をもつ鳥などのように、人の要素もまた鳥に合わせられ、空想動物の世界に広がりをもたらしています。

 
舎利容器 中国・伝スバシ 6~7世紀 大谷探検隊将来品 東京国立博物館蔵 東洋館3室にて通期展示

鳥の翼や虫の翅(はね)をそなえた人物が、宝飾を着けて楽器を演奏する様子が、舎利容器の蓋に描かれます。天使や妖精のような姿が、周囲の鮮やかな色彩とともに眼を奪います。この舎利容器は、現在の新疆ウイグル自治区の中央あたりに位置するクチャ市のスバシという寺院遺跡で出土したと伝えられます。



迦陵頻伽像 韓国、慶州出土 統一新羅時代・8世紀 小倉コレクション保存会寄贈 東京国立博物館蔵 東洋館10室にて通期展示

人の顔をもつ鳥の代表格が、極楽浄土に住み、美しい声をもつという迦陵頻伽(かりょうびんが)です。こちらの像では、手にシンバルのような楽器を持ち、枝にとまるかのように足を曲げ、足先を丸めています。細かく彫りわけられた羽毛とともに、実にリアルな表現です。



ガネーシャ
人と四足獣が合わさったような空想動物、あるいは同じような容貌の神々もみられます。象の頭をもつガネーシャはその代表格。ヒンドゥー教ではシヴァ神の子とされます。富と知恵をつかさどるとして、インドを中心に広く信仰を集め、絶大な人気を誇る神様です。
 

ガネーシャ坐像 カンボジア、ブッダのテラス北側 アンコール時代・12~13世紀 フランス極東学院交換品 東京国立博物館蔵 東洋館11室にて通期展示

人びとの願いを受け入れ、幸せをもたらしてくれそうな、立派なお鼻とふくよかなお腹。その存在感と招福度は、アジ旅メンバー随一かもしれません。いや、存在感と言えば、もうお一方、、、



謎の生き物
文献や美術作品などには、様々な空想動物が登場しますが、なかには、はっきりとはわからない謎の生き物もみられます。アジ旅空想動物園では、あえてそのような作品もメンバーに加えました。


石彫怪獣 伝中国河南省安陽市殷墟出土 殷時代・前13~前11世紀 東京国立博物館蔵 東洋館4室にて通期展示

ずんぐりむっくりとした体に、まんまるの目玉が印象的なこの怪獣。正体は不明ですが、とても魅力的な容貌で、存在感の大きさは「ガネーシャ坐像」に匹敵します。中国、殷(商)の王墓で、建築装飾などに用いられた可能性があるようです。



空想動物は、形状などが一つに定まらなかったり、何を示しているのかよくわからなかったりすることが多々あります。このことは、それぞれの時代・地域で、人びとが様々に想いをめぐらし、形にしてきた証と言えるのかもしれません。空想動物園、その洋々たる世界をお楽しみいただけますと幸いです。
博物館でアジアの旅  空想動物園

編集・発行:東京国立博物館
定価:550円(税込)
全24ページ(オールカラー)

1089ブログでご紹介できなかった作品を含む、全出品作品55点の画像を掲載。
東博に集まった世界各地の多彩な空想動物について、くわしく解説したガイドブックです。

カテゴリ:博物館でアジアの旅

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posted by 六人部克典(東洋室研究員) at 2021年10月06日 (水)