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「陶磁」と「染織」について

特別展「工藝2020ー自然と美のかたちー」では様々な工芸分野の作品が出展されています。
今回はその分野の中から「陶磁」と「染織」についてご紹介し、あわせて展示作品もピックアップしてご紹介します。


陶磁は、陶土や陶石を主原料とする土器や陶器、磁器などの総称です。
ろくろによる成型やひもづくり(その名のとおり、土をひも状にして積み上げて成型する方法)、型を用いる成型など、形をつくる上でもその手法は様々です。
陶器は原料となる陶土の産地によって、その色やきめの細かさ、粘りなどが異なります。
中世から現代へ続く瀬戸焼や信楽焼、備前焼や、桃山時代以降の樂焼や萩焼の茶陶などが有名です。
磁器は陶石を細かく砕き、粘土状にして成形されます。焼成後は白くて硬く、あまり吸水性のない器胎となります。
磁器の中でも特に有名な有田焼は、佐賀県有田町とその周辺の地域で製造される磁器です。日本で初めて磁器が焼かれた産地でもあります。その他にも石川県の九谷焼、愛知県の瀬戸焼などが知られています。

陶磁は近代に入って西欧の窯業科学や技術がもたらされ、多くの作家が新しい技術と伝統をふまえて、原料の土石や素地の成形、加飾、施釉、焼成などにそれぞれの創意と技術を工夫した多様な制作がおこなわれています。


扁壺「松籟」 森野泰明作 2015年 個人蔵

第3章5室に展示されている森野泰明氏の作品「扁壺「松籟」」は手びねり手法によって成型されており、緑と淡い黄緑の模様は一見すると抽象的ですが、松の梢を吹きぬける風を自然の囁きと感じ取った作家のイメージが表れており、自然の風景を想起させます。


色絵雪花薄墨墨はじき雪松文蓋付瓶 今泉今右衛門作 2019年 個人蔵

第2章4室に展示されている今泉今右衛門氏の作品「色絵雪花薄墨墨はじき雪松文蓋付瓶」は江戸期から伝わる「墨はじき技法」に白の微妙な「雪花墨はじき」と不思議な輝きの「プラチナ彩」をとりいれて制作されています。「墨はじき」とは、墨を用いた白抜きの技法です。


部分図

松の芽の部分には特徴的なプラチナ彩が使用されています。見る角度によって輝きが変化し、作品の色々な表情が楽しめます。
雪の結晶の薄墨墨はじき紋様を背景に、堂々と描かれた常緑の黒松に純白の雪が降り積もり、荘厳かつ清澄感のある作品となっています。


染織は一般的には絹や麻、木綿などの布を染めたり織ったりすることです。身体にまとう衣類や調度類にかぶせる布、空間を彩る掛物、また現代では糸や布によって空間を造形するといった芸術表現の分野にもなっています。
染は布に糊や蠟を塗る、あるいは絞り括って防染し、藍などの染料で染める技法です。手描きの友禅や型を用いた小紋染や型絵染、また蠟染などがあります。
織は木綿や麻、絹、化繊などの糸をたてとよこに交互に組み合わせて布をつくるものです。
真綿から手紡ぎした糸で絣や縞の模様を織り出す紬織や、ところどころ白く残して染めた木綿や麻の糸を組み合わせて織り文様をあらわす絣織などがあります。
染織は日本においては奈良・平安時代には中国や西域アジアの影響を受け、明治以降の近代には西欧やアメリカの影響を受けるなどして、糸や染料の素材や染織の技法に地域的な特色をつくりつつ、特有の染織文化が連綿と形成されてきました。


蒼風 小林祥晃作 2015年 個人蔵


第4章8室に展示されている小林祥晃氏の作品「蒼風」は伝統的な技法である蠟けつ染(とかした蠟で文様を描き、染液に浸したあとで蠟の部分を洗い流し、文様をあらわす染色技法)によって制作されており、遥か彼方に吹く風をモチーフとし、その空間に存在するであろう生命や魂などを心象風景として表現されています。


友禅着物 緋格子文 森口邦彦作 2019年 個人蔵

第3章5室に展示されている森口邦彦氏の作品「友禅着物 緋格子文」は伝統的な友禅の技法で、黒と白の格子が交互して立体感を創出し、上品で鮮やかな緋色が空間を有機的に彩ります。

展覧会では上記でご紹介した作品以外にも、多様な分野の工芸作品を82件展示しておりますので、ぜひ会場にて実物の作品をご高覧ください。

カテゴリ:2020年度の特別展

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posted by 特別展「工藝2020」担当者 at 2020年10月07日 (水)