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造営・遷宮の歴史から「巨大本殿 出雲大社」を見てみよう

出雲大社はこれまで多くの造営(ぞうえい)・遷宮(せんぐう)を経ています。
現在の国宝の出雲大社本殿は延享元年(1744)の造営によるものです。

日本書紀成立1300年 特別展「出雲と大和」では、第1章「巨大本殿 出雲大社」において出雲大社に伝わる多くの御神宝などを紹介していますが、これを造営・遷宮といった切り口から見てみましょう。


国宝 出雲大社本殿

まず鎌倉時代、宝治(ほうじ)2年(1248)の造営です。この造営に関しては多くの貴重な史料が残されていることなどから、後に紹介する寛文(かんぶん)7年(1667)の造営の際には「宝治二年御造営の記録守候ハん」とその造営遷宮の参考とされました。また宝治2年の造営以後、戦乱などの理由により出雲大社の本殿規模が小さくなったとされますが、寛文度の造営の際には、中世最後の正殿式(寛文度の造営以後、8丈・約24m以上の高さを持つ本殿を正殿式と規定)の造営と位置づけられました。その意味で、宝治度の造営は出雲大社にとって重要と考えられます。

この宝治度の本殿を支えていた柱が、平成12年(2000)に出土した「心御柱(しんのみはしら)」・「宇豆柱(うづばしら)」(ともに重要文化財)です。直径約1.3mの杉の大木3本をまとめて、直径約3mの1本の柱としています。


重要文化財 心御柱(左)・宇豆柱(右)
鎌倉時代・宝治2年(1248) 島根県出雲市 出雲大社境内遺跡出土
島根・出雲大社蔵(宇豆柱は島根県立古代出雲歴史博物館保管)


重要文化財 心御柱 ※3本のうち1本は複製


重要文化財 宇豆柱

この柱の構造は、出雲国造家(いずもこくそうけ・出雲大社宮司家)の千家家(せんげけ)にいにしえの本殿の平面図として伝わる「金輪御造営差図(かなわのごぞうえいさしず)」(模本を展示中)に一致します。従来、この図面は誇張を加えたものとされてきましたが、柱の発見によって再評価されることとなりました。図面には、本殿に至る引橋(ひきはし)の長さが1町(約109m)と記されており、古代には48mの高さを誇ったとされる巨大な本殿が存在していた可能性がさらに高まったのです。


金輪御造営差図(模本)
原品:鎌倉~室町時代・13~16世紀 島根・千家家蔵

 


模型 出雲大社本殿 平成11年(1999)
島根・出雲市蔵
出雲大社本殿の1/10スケールの模型。10世紀ごろ(平安時代)を想定

この宝治度の造営の際に奉納されたと伝わるのが、国宝の「秋野鹿蒔絵手箱(あきのしかまきえてばこ)」です。蓋表(ふたおもて)には水辺に憩う鹿の親子、今を盛りに咲き誇る萩、萩に群がる小鳥が描かれています。鎌倉時代の手箱(化粧道具や身のまわりのものを納める箱)を代表する優品です。


国宝 秋野鹿蒔絵手箱
鎌倉時代・13世紀 島根・出雲大社蔵


横道にそれますが、大和といえば鹿が有名ですが、第3室に展示されている「埴輪 見返りの鹿(はにわ みかえりのしか)」(重要文化財)とともに、出雲の鹿もお楽しみください。


重要文化財 埴輪 見返りの鹿
古墳時代・5~6世紀 島根県松江市 平所遺跡出土 島根県教育委員会蔵

次に寛文度の造営です。この造営では、8丈(約24m)の高さを持つ白木造り(しらきづくり)の簡潔な本殿が実現されるとともに、神仏混淆(しんぶつこんこう)の状態にあった境内から、仏教的な要素が排除されています。現在に直接つながるという意味で重要な造営です。
この造営にあたって、豊臣秀頼による慶長14年(1609)造営の出雲大社とその周辺の姿を記録に留めたのが「杵築大社近郷絵図(きづきたいしゃきんごうえず)」です。本殿は現在とは異なり、朱塗りで描かれています。また本殿南側には三重塔・鐘楼などが描かれており、神仏混淆の状況を伝えています。


杵築大社近郷絵図
狩野(西山)久三郎筆 江戸時代・17世紀 島根・北島家蔵

白木造りの簡潔な本殿を後世に伝えていくために、規範として製作されたのが1/30の本殿模型「出雲大社本殿木形(いずもたいしゃほんでんきがた)」です。この模型に表された屋根構造は、現在の本殿にも踏襲されています。


出雲大社本殿木形
江戸時代 寛文4年(1664)頃 島根・出雲大社蔵

この造営の際に奉納されたと伝わる化粧箱が「御櫛笥(みくしげ)」です。これには出雲大社神紋の一つとされる「亀甲に有字」紋が蒔絵で表されています。「有」という字は分解すると「十月」となります。旧暦十月といえば、出雲に神々が集うとされる月ですが、この神紋はこのことが意識されていると伝えられています。


御櫛笥および内容品
江戸時代・17世紀 島根・出雲大社蔵

本展では、ここで紹介した作品以外にも造営・遷宮に関連した貴重な作品を多く展示しています。造営・遷宮という切り口から第1章「巨大本殿 出雲大社」をご覧いただいてはいかがでしょうか。出雲大社についてより理解が深まるかもしれません。

日本書紀成立1300年 特別展「出雲と大和」

平成館 特別展示室
2020年1月15日(水) ~ 2020年3月8日(日)

 

カテゴリ:2019年度の特別展

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posted by 品川知彦(島根県立古代出雲歴史博物館学芸企画スタッフ調整監) at 2020年02月25日 (火)