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特集 おひなさまと日本の人形

着物を着かえて 帯しめて
今日は私も 晴れ姿
春の弥生の このよき日
なにより嬉しい ひな祭り


都内は寒さ厳しい日々が続いておりますが、トーハクでは一足早く恒例の特集「おひなさまと日本の人形」(本館14室、~2019年3月17日(日))が始まりました。
おひなさまやその御道具を眺める心地は、華やかで楽しいものですが、トーハクでお人形を担当する私としては、毎年展示に苦労する季節でもあります。

企画展示の陳列作業は、だいたい午前中に撤収があり、午後から新しい展示の陳列作業が行われます。
こまごました人形や御道具は、どれも一つ一つ丁寧に包んで収蔵庫に納められていますが、午後の1時から陳列をはじめて、休憩を入れつつ5時には空箱の返却も含め全ての作業が終了していなければなりません。
とても壊れやすい作品を安全に扱いつつ、時間内に終えることができるのか・・・。陳列に携わるスタッフ一同の大変な思いは、おひなさまを展示している全国の美術館・博物館において、担当者共通の思いでしょう。

さて、こうして出来上がった今年の展示は、江戸を代表する金物商であった三谷家(みたにけ)伝来の雛飾りを中心として、御所人形の名品も一堂に集めました。
三谷家の雛飾りの中心は、豪華な御殿に収められた雛人形。牙首雛(げくびびな)というもので、頭部をはじめ、手足など肌を表す部分を象牙で作っています。全国的にも類例が少ないなかで、特にその代表作と言える貴重なお人形です。


牙首雛(内裏雛) 江戸時代・嘉永3年(1850)頃 三谷てい氏寄贈


この牙首雛の表情は雛人形には珍しいほど個性的。特に仕丁(しちょう)という役目で庭を掃除しているお爺さんは、顔のシワや手の指の節だった様子などが、わずか身長10センチ程のなかで精緻に表現されており、驚異的とも言える出来映えです。


牙首雛(仕丁) 江戸時代・嘉永3年(1850)頃 三谷てい氏寄贈


お雛さまの御殿は、京都御所の正殿である紫宸殿(ししんでん)に倣った造り。
正面の軒下には「紫震殿」の額が掲げられています(「震」の字を使ったのは天皇の住まいを指す「宸」の字に遠慮したからでしょうか)。


紫宸殿(雛用御殿) 江戸時代・嘉永3年(1850)頃 三谷てい氏寄贈


江戸時代、京都を中心に関西地方ではこうした紫宸殿に倣う雛御殿が飾られていましたが、江戸の地においては、飾ること自体遠慮されるものだったようです。
それというのも、高価な雛道具が競って作られた江戸後期、安永八年(1779年)に日本橋の十軒店(じっけんだな)に店を開いて以来、江戸一番の売れっ子職人だった初代・原舟月(はら しゅうげつ)は見せしめの意味もあったのか捕らえられ、江戸の地から追放されます。
その時の罪状の一つが紫宸殿に倣った御殿を作ったのが不敬にあたるというものでした。
本質的には関西の雛御殿に倣った飾りを江戸でも売り出したというだけの話で、全くの言い掛かりですが、その後江戸では紫宸殿型の雛御殿は見られないようになります。
しかし、三谷家の雛飾りにあっては、堂々と御殿に「紫震殿」と掲げられています。そこには三谷家の持った社会的力の強さが表れているのではないでしょうか。

展示室中央の独立ケースには、三谷家伝来の紫檀象牙細工蒔絵雛道具(したんぞうげざいくまきえひなどうぐ)を展示しています。高価な材料を駆使して緻密に造り上げた作品であり、トーハクの雛人形コレクションを代表する雛道具です。


紫檀象牙細工蒔絵雛道具 江戸時代・嘉永3年(1850)頃 三谷てい氏寄贈


金物を表す部分は象牙で出来ているのですが、長持の四隅の部分など、丸みのある形に添うようピシッと収められており、さすがの出来映えと感心します。
今回は箪笥の扉を開いた状態で展示しましたので、中の引き出しに施された蒔絵にもご注目ください。そこには婚礼を象徴するは蝶々が舞い遊ぶという華やかさで、粋な遊び心を見ることができます。

また今回は、日本の人形文化を代表する作品として、御所人形(ごしょにんぎょう)を展示しました。
御所人形は京都の御所を中心として、公家(くげ)や大名家(だいみょうけ)などの間で好まれた人形です。宮中では、ご下賜(かし)をはじめとした贈答に用いられたため、お土産人形とも呼ばれています。まるまると肥えた男の幼児を表しており、胡粉(ごふん)を塗って作られた肌は白く艶やかに輝いています。
枕草子に「ちごどもなどは、肥えたるよし」とあるように、健康的に育つ赤ん坊の姿はめでたさに溢れています。こうした吉祥性を高めるため、御所人形にはさまざまな意味を持つ見立てが行われました。
その代表が能の見立てで、今回は「羽衣」に取材した天女の姿と思われる御所人形と、「鶴亀」の御所人形を展示しています。
どちらも高さが70センチ程もある超大型のお人形で、大名家の雛飾りなどでも、こうした人形が活躍しました。


御所人形 見立て鶴亀 江戸時代・19世紀
※この写真はトーハクにある九条館の床の間で撮影したものです。


「鶴亀」は、春を迎えた唐の宮廷で、皇帝の長寿を祈って鶴と亀が舞い踊り、これに感じ入った帝も踊りだすというお目出度い演目です。
見立て鶴亀の御所人形は、手足を動かしてポーズをとらせることが出来るので、今回の展示では、実際に踊っているような姿にしましたのでご注目ください。

日本は諸外国では全く例を見ないほど、人形制作を芸術に高める文化が発達しました。
本来子供の遊び相手である人形の制作に大変な手間隙をかけ、気品高く可愛さを表現してきた歴史は、今日国際的にも用いられる「カワイイ」という美的価値観の源流をなすものでしょう。
おひなさま巡りが盛んとなるこれからの季節、是非トーハクにも江戸時代の「カワイイ」に会いに来てください。 

特集 おひなさまと日本の人形
本館 14室 2019年2月5日(火) ~ 2019年3月17日(日)

 

 

カテゴリ:研究員のイチオシ特集・特別公開

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posted by 三田覚之(工芸室研究員) at 2019年02月13日 (水)

 

 

はじめに

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