明治から昭和にかけて活躍した横山大観(1868~1958)は、現在でも高い人気を誇り、「国民的画家」ともいわれています。その大観が、香り立つほどに紅白の梅を華やかに描いています。画面からは春ののどかな陽気が感じられるほどです。
梅図襖 横山大観筆 大正15年(1926) 団体所有
梅図襖(部分)
この襖絵は香淳皇后(昭和天皇の皇后)の父、久邇宮邦彦王(くにのみやくによしおう、1873~1929)が大正13年(1924)に建てた御常御殿(おつねごてん)と呼ばれる建物を飾った襖絵です。御常御殿は、東京都渋谷区広尾にあった旧久邇宮邸に建てられた千鳥破風入母屋造りの日本建築で、一階の居間、寝室の襖絵を大観が担当し、大正15年に完成しました。梅図の裏には隣接する居室の襖絵として、金泥の絵具で松と竹が描かれています。
松図襖 横山大観筆 大正15年(1926) 団体所有 ※こちらは展示されません
竹図襖 横山大観筆 大正15年(1926) 団体所有 ※こちらは展示されません
多くの日本画家たちが制作に参加して、御殿はさながら美術館のように彩られました。これらの襖絵は、昭和5年(1930)の第2回聖徳太子奉讃展覧会で一部が展示されて以来、長らく公開されたことのない大観の力作です。
大観はその長い画業のなかで、さまざまな絵画表現を試みました。明治時代には西洋油画にみられる輪郭線を使わない新たな日本画を描き、そして大正時代には、この襖絵にみられるように江戸時代に興隆した琳派風の画風を取り入れています。横方向に枝が長く伸びる梅の樹は、自然のままの梅のかたちを写しとったものではなく、梅花は型紙であらわした図案のようなものとなっています。このような絵画表現を特徴とした尾形光琳(1658~1716)や酒井抱一(1761~1828)など琳派の絵師たちは、日本古来の「やまと絵」の表現からさらに平面性や装飾性を強調して鳥獣や草花、山水を描いています。大観は琳派の絵画表現を、日本絵画の神髄として蘇らせているのです。
この襖絵が描かれた時期には、大観の代表作といわれる作品が集中していますが、この梅図襖もそれらの一つといえます。また大画面の作品として、大観は屏風形式の作品を数多く手がけていますが、襖絵の作例はほとんどありません。
左から、水芭蕉 小川芋銭筆、紅梅 荒井寛方筆、椿 北野恒富筆、牡丹に雀 下村観山筆 すべて聖心女子大学蔵
旧久邇宮邸の敷地は、戦後に聖心女子大学のキャンパスとなり、御常御殿は大学によって管理されていて「パレス」と呼ばれています。今回の展示には御殿にそのまま残った天井画も合わせて展示される、またとない機会です。87年ぶりに広く公開される知られざる大観の大作をぜひご覧ください。
展示情報
近代の美術(本館18室)
展示期間:2017年1月24日(火)~3月5日(日)
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posted by 松嶋雅人(平常展調整室長) at 2017年01月24日 (火)