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1089ブログ

みちのくの仏像・私のイチオシ 雪ん子の像

東京国立博物館がある上野公園は、桜の名所として知られます。
今年もすでに咲き始め、4月の初めに満開になるのではないでしょうか。
特別展「みちのくの仏像」の会期は4月5日(日)までなので、これから来ていただければ桜も楽しんでいただけます。

展覧会の準備のためには、作品の所蔵先に足を運びます。
本展覧会でも東北の各地を訪れましたが、昨年は宮城県の給分浜観音堂(4月18日)、岩手県の黒石寺(同23日)、秋田県の小沼神社(同27日)でも桜を見ることができました。
小沼神社の最寄り駅は角館ですが、武家屋敷に咲く桜は、観光ポスターなどでしばしば見かける桜の名所で、いつか行きたいと思っていた場所でした。


角館・武家屋敷通りは東北屈指の桜の名所です

さて、小沼神社からは聖観音菩薩立像を出品していただいていますが、この像が広く知られるようになったのは、1989年に出版された本に紹介されたためです。
その執筆者が行った調査に、まだ学生であった私も参加させていただきましたが、神社に向かって徒歩で山を登っていくと木立に囲まれた小さな沼が目の前に突然現われ、そのほとりに堂がありました。
そのときの神秘的な光景はずっと記憶に残っていましたが、こういった場合、記憶が美しく膨らみすぎたり、景観が変わってしまったりして、再び訪れると大概がっかりすることになるものです。
ですが、25年以上たった今も同じ風景が残っていました。

江戸時代の紀行家の菅江真澄(1754-1829)は、文政11年(1828)に小沼神社を訪れていますが、同じ景色を絵に残しています。

 
菅江真澄が描いた小沼神社(左)と現在の小沼神社周辺の様子(右)。
江戸時代からほぼ変わらない風景が広がります


また、秋田県出身の矢口高雄さんの『釣りキチ三平』という漫画には秋田県の自然が描かれますが、そこにもでてきそうな風景です。秋田らしい風景といえるかもしれません。

小沼神社の聖観音菩薩像の頭上には愛らしい顔が表わされていて、展覧会の見どころのひとつですが、その姿は雪国で伝承される雪の精、雪ん子を思わせます。
風景ばかりでなく、そこにまつられるこの作品も秋田らしい像といえそうです。

 
(左)聖観音菩薩立像
平安時代・10世紀 秋田・小沼神社蔵
(右)聖観音菩薩像の頭上の像。この愛らしい表情をお見逃しなく!


特別展「みちのくの仏像」の会期は、残すところ約1週間。
春の盛りを、そして東北の仏像のあたたかさを見に、ぜひご来館ください。

カテゴリ:研究員のイチオシ2015年度の特別展

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posted by 丸山士郎(平常展調整室長) at 2015年03月27日 (金)