記念シンポジウム「中国皇帝コレクションの意味-書画における復古と革新-」が開かれました
歴史的大展覧会・特別展「台北 國立故宮博物院-神品至宝-」の開催を記念して、国際シンポジウム「中国皇帝コレクションの意味」-書画における復古と革新-」が、7月5日から6日の2日間にわたって開催されました。
まず、銭谷眞美 東京国立博物館長からご挨拶を申し上げたあと、馮明珠 國立故宮博物院院長からのメッセージが代読され、基調講演が行われました。
何傳馨氏(國立故宮博物院副院長)「國立故宮博物院書画コレクションの淵源」
草書書譜巻(そうしょしょふかん)(部分) 孫過庭筆 唐時代・垂拱3年(687)
~8月3日(日) 東京国立博物館のみで展示
最新の光学的調査の結果を踏まえながら、故宮コレクションの歴史が、書画に捺されている収蔵印と、貴重な画像から解き明かされていきました。書法史を中心としたひろく中国文化史を研究する何副院長のご講演は、書画の伝来を通じて中国の歴史や思想にまで及ぶ、広範な内容を扱うもので、現在の故宮コレクションがどのような意味を持っているのかを、何先生独自の典雅な口調で教えていただきました。
セッション1は「唐から宋へ、中国から日本へ」と題して、日本と中国の文化交流に焦点をあてた内容です。
丸山猶計(九州国立博物館)「王羲之と小野道風」
定武蘭亭序巻(ていぶらんていじょかん) 王羲之筆 原本:東晋時代 永和九年(353)
10月7日(火)~11月30日(日) 九州国立博物館のみ展示
王羲之書法の特質である流麗な筆法は古くから日本でも愛された過程について、細かな文献的な例証と実例をもとに述べられました。王羲之の書法が、先般おこなわれて大好評を博した「和様の書」の源流でもあったなんて、日本と中国の深い縁を感じますね。
塚本麿充(東京国立博物館)
「皇帝コレクションにおける模写・模造事業―乾隆帝の書画コレクションと狩野派―」
桃花図頁(とうかずけつ) 南宋時代・13世紀
全期間 東京国立博物館のみ展示
杏花図頁(きょうかずけつ) 馬遠筆 南宋時代・13世紀
全期間 東京国立博物館のみ展示
18世紀における清朝宮廷と狩野派の模写事業のそれぞれの特質が明らかにされ、この展覧会を機会に同じアジアの博物館としての東博と故宮のコレクション比較研究が進展していくことへの希望が述べられました。
畑靖紀(九州国立博物館)「徽宗と義満―日本における皇帝コレクションの意味―」
子穌鐘(しそしょう) 春秋時代・前7~前6世紀
全期間 東京国立博物館・九州国立博物館で展示
楷書牡丹詩帖頁(かいしょぼたんしちょうけつ) 徽宗 北宋時代・12世紀
~9月15日(月・祝) 東京国立博物館のみ展示
足利将軍家のコレクションである東山御物の成立と、北宋の徽宗コレクションが密接な関係をもっていることが述べられました。日本でも国宝になっている多くの中国書画ですが、そのコレクションの淵源は北宋にあったんですね。今後、ますます研究の進展が期待されます。
弓野隆之氏(大阪市立美術館)
「蘇軾「寒食帖」と米芾「草聖帖」―台北と大阪を結ぶ縁」
行書黄州寒食詩巻(ぎょうしょこうしゅうかんしょくしかん) 蘇軾筆 北宋時代・11~12世紀
8月5日(火)~9月15日(月・祝) 東京国立博物館のみ展示
草書論書帖頁(草聖帖)(そうしょろんじょじょうけつ(そうせいじょう)) 米芾筆 北宋時代・11~12世紀
~9月15日(月・祝) 東京国立博物館のみ展示
本展覧会の後期の目玉作品である「寒食帖」がもとは日本にあったこと、それを仲介したのが同じ原田悟朗という人物であったこと、そして、米芾「草聖帖」が現在、台北と大阪市立美術館に分蔵された経緯についての研究発表でした。この時期に成立した阿部コレクションを所蔵する大阪市立美術館の学芸員としての説得力あるお話しに、聞き入ってしまいました。作品の伝来には必ずそれを伝えようとした人々の歴史があることも、あらためて認識させられました。
二日目はセッション2「元代書画の世界」からはじまりました。
湊信幸(東京国立博物館客員研究員)「元末四大家―文人画の確立―」
漁父図軸 呉鎮(ごちん)筆 元時代・至正2年(1342)
~9月15日(月・祝) 東京国立博物館のみ展示
具区林屋図軸(ぐくりんずじく) 王蒙(おうもう)筆 元時代・14世紀
8月5日(火)~9月15日(月・祝) 東京国立博物館のみ展示
今回その代表作が一挙に来日している元四家の山水画について、日本にはほとんど伝来していない最も中国絵画らしい中国絵画であること、そしてその美的特質が語られました。東博の中国絵画担当として本展の開催にも長年努力されてきた湊氏の研究発表は、ようやくこの日を迎えることの出来た喜びを感じさせるものでした。湊氏がはじめて台湾に行かれたのはまだ大学院生であった1973年のことだったそうです。その日から今日の日が来ることを心待ちにしていたという言葉は、私たちの心を打つものでした。
陳韻如氏(國立故宮博物院書画処)「公主の雅集:モンゴル皇室と書画鑑蔵活動」
羅漢図 劉松年(りゅうしょうねん)筆 南宋時代・13世紀
10月7日(火)~11月30日(日) 九州国立博物館のみ展示
雲横秀嶺図軸(うんおうしゅうれいずじく) 高克恭(こうこくきょう)筆 元時代・14世紀
~8月3日(日) 東京国立博物館のみ展示
いままで文化的暗黒時代と考えられていた元時代でしたが、実は活発な書画鑑賞活動が行われていたことを、皇帝の姉であった祥哥刺吉(センゲラギ)のコレクション活動から述べるものでした。湊氏の発表された文人画の成立とともに、北京でも書画が鑑賞され、それらのうちの何点かがいま日本でも展観されようとしているとは、驚きです。
竹浪遠氏(黒川古文化研究所)「乾隆帝が見た江南山水画―伝巨然「蕭翼賺蘭亭図」を中心に―」
蕭翼賺蘭亭図軸(しょうよくたんらんていず) 巨然(きょねん)筆 南唐時代・10世紀
~9月15日(月・祝) 東京国立博物館のみで展示
明皇幸蜀図軸(めいこうこうしょくずじく) 唐時代・10世紀
~8月3日(日) 東京国立博物館のみ展示
「江南山水」とは中国の江南地方に源を発する山水画で、文人画の基礎ともなったものです。黒川古文化研究所に所蔵される董源「寒林重汀図」とともに、今回展示されている巨然「蕭翼賺蘭亭図」について、その清宮における受容史にまでおよぶ内容でした。実際に故宮で調査された詳細なデータをもとにした緻密な考証は、さすがとうならされました。
つづいて、セッション3「乾隆帝の書画コレクション」です。
何炎泉氏(國立故宮博物院書画処)「乾隆帝と澄心堂紙」
行書澄心堂帖頁(ぎょうしょちょうしんどうじょうけつ) 蔡襄(さいのう)筆 北宋時代・嘉祐8年(1063)
~9月15日(月・祝) 東京国立博物館のみで展示
行書千字文冊 高宗筆 南宋時代・紹興23年(1153)
~9月15日(月・祝) 東京国立博物館のみで展示
伝説に覆われた名紙「澄心堂紙」について、出品作である蔡襄「行書澄心堂帖頁」がまさにその名紙にふさわしいこと、そしてその名紙が清時代にも模倣されて作られていくことが、具体的な作例から示されました。故宮で日々作品に接しているからこそ出来る緻密な材質研究に、すぐに展示場に駆け込んで各々の紙質を見比べた気持ちにさせられました。
富田淳(東京国立博物館)「徽宗の7璽と乾隆帝の8璽について」
草書遠宦帖巻(そうしょえんかんじょうかん) 王羲之筆 (原本)東晋時代・4世紀 ~8月3日(日) 東京国立博物館のみで展示
紫檀多宝格 清時代・乾隆年間(1736~1795) 全期間 東京国立博物館・九州国立博物館で展示
「古稀天子之宝」「八徴耄念之宝」玉璽 清時代・乾隆45年・55年(1780・1790) 全期間 東京国立博物館・九州国立博物館で展示
研究発表の最後は、今回の展覧会のワーキングチーフでもある富田からの革新的な学説です。徽宗と乾隆帝の鑑蔵印の押方が、それぞれの歴史性を意図していること、そして天円地方という伝統的な中国の世界観を反映しているのではないかという説でした。「神品至宝」展でも多宝格をかたどった会場構成になっていますが、まさに展覧会の構成やその意味を総括する研究発表でした。
続いて、総合討論が行われました。
何傳馨 副院長と富田による司会で、「皇帝コレクションの意味」について活発な議論が行われました。何氏は皇帝コレクションが単なる美術コレクションではなく、中国の歴史、文化、思想そのものであると述べられ、弓野氏からは、皇帝コレクションを今こうして見ることのできる時代になったことを喜びたいとの発言がありました。また湊氏からは、これから全アジア的な視点から日本や故宮コレクションの研究が進んでいくことへの期待が述べられました。
最後に、島谷弘幸 東京国立博物館副館長から閉会の辞があり、二日間にわたる書画シンポジウムは無事に終了しました。
最後に、ここにつどった内外の研究者、そして聴衆の方々には一つの共通点があります。それは皆が、故宮コレクションに感動し、それによって育てられ、そしてこれからも守り伝えて行こうとしている人々だということです。この素晴らしい二日間を提供いただきました皆様に、そして、ご参加いただいた皆様に心よりお礼を申し上げます。まことにありがとうございました。
記念シンポジウムは、九州国立博物館でも「中国皇帝コレクションの意味―工芸における復古と革新―」と題して、10月25日(土)に開催予定です。
カテゴリ:news、2014年度の特別展
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posted by 広報室 at 2014年07月24日 (木)