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法然と親鸞展 研究員おすすめのみどころ その1(書跡)

特別展「法然と親鸞 ゆかりの名宝」(~2011年12月4日(日))が開幕して早いものでもう3週目に入りました。

今回はこの展覧会のワーキンググループのチーフをつとめています、
好きな作品と展覧会でこだわった点について、高橋裕次博物館情報課長にインタビューしたいと思います。


高橋 裕次課長 専門:書跡 所属部署:学芸企画部博物館情報課
いつも朗らかで、楽しそうに作品の魅力を語る高橋さん。
「こう見えて、学生時代は柔道部でした。今はもう無理かな・・・」

江原(以下E):では、高橋さんよろしくお願いします。
この展覧会は36日間という短い期間の中、189件(展示替含み)の作品が出ます。
その中で、高橋さんが好きな作品をご紹介していただきたく思います。

高橋(以下T):そうですね、今回はこの展覧会のために多くの方からご協力を賜りました。
この場をお借りして、関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。
私の好きな作品・・・どれも好きなので悩みますが、ではその中から2点ご紹介します。
まず一点目ですが、「源空(法然)書状」です。

 
重要文化財 源空(法然)書状 法然筆 鎌倉時代・13世紀 奈良・興善寺蔵
(2011年11月15日(日)~12月4日(日)展示)

E:こちらは、後期展示の一つで11月15日より出る作品ですね。
この作品名は「源空(法然)」とありますが、「法然」は房号、「源空」は諱ですよね。
意外と「法然」と「源空」が同じと知っている方は少ないのではないかと思います。
ではこの書状が好きな理由を教えて下さい。

T:この書状は昭和37年4月に興善寺の阿弥陀如来立像の像内より発見された書状類の一つです。


重要文化財 阿弥陀如来立像 鎌倉時代・12~13世紀 奈良・興善寺蔵 
(~2011年12月4日(日)展示)


T:法然が正行房に宛てたものと弟子からの書状と合わせて、これらの紙背にはおよそ1500人にのぼる名前が記されています。

E:法然と正行房はどのような関係だったのでしょうか。

T:正行房は法然の弟子というよりは親しい友人のような存在でした。身辺に弾圧の危機が迫ってきたので弟子たちに京都から離れ地方で活動するよう伝えます。
この書状では、正行房が無事に奈良に到着したのを喜びながらも 少し寂しくなったと書いています。
このように正行房との交流をとおして、法然の危機管理に対する意識の高さと温かい人柄を感じることができるのが好きな理由です。

E:友人や弟子たちを遠くに行かせるのは心寂しくても、弾圧から守り、それぞれの場所で布教することによって万人を救おうとお考えになったのかもしれませんね。
先ほど、これらの書状の紙背には1500人の名前があるとのことですが、それはこの薄く写っている部分(写真)のことでしょうか。
この部分だけでも8人の名前があるように見えます。



T:そのとおりです。裏に薄く書かれている名前が見えます。これまで法然や弟子からもらった手紙の裏に結縁した人々の名前を書いて入れたのです。

E:なぜもらった手紙の裏に結縁した人々の名前を入れたのでしょうか。

T:それは法然と弟子たちと交わした手紙を後世まで残したいという思いと、法然、弟子、またこのお像を作るにあたって関係したおよそ1500人皆が極楽往生できるようとの思いが込められていたと考えられます。

E:正行房の法然や弟子に対する思い、また結縁した人々への思い、いろんな思いが込められた書状なのですね。
ではもう一点はどの作品でしょうか。

T:西方指南抄です。

 
国宝 西方指南抄 親鸞筆 三重・専修寺蔵
(~2011年12月4日(日)展示、この画像のページは2011年11月13日(日)まで展示)

E:この作品の好きな点はどういったところなのでしょうか。

T:この作品は、法然の言行録として最古のもので、法語、書状、行状など全二十八篇を収録する六冊は、すべて親鸞が書写しています。

E:では法然に関わることがぎっしり書かれているということなのですね。

T:そうです。内容もさることながら、これを書写したのは晩年、親鸞が84歳の時で、康元元年(1256)10月から翌正月までのわずか3ヶ月間で、6冊(およそ900ページ)を書写したことが奥書によってわかります。

E:そんな短い期間で、およそ900ページを書写しているとは親鸞の強い想いを感じます。

T:そうなんです。こうした親鸞の精力的な執筆の背景には、親鸞が20年間の布教を行った関東では次第に親鸞の教えを誤って理解する人々があらわれ、京都に戻ってからはこれが深刻化しまして、沈静化するために実子の善鸞を関東に送りますが、反って混乱が起きてしまい 親鸞は善鸞を勘当します。
その義絶事件が起こったのが康元元年五月ですが、十月にはこの本の書写をはじめています。
親鸞は関東の状況を安定させるためにも法然の法語、書状、行状をまとめ、 正しい教えを弟子に伝えようとしたのではないかと考えられます。

E:親鸞にとって我が子を勘当することは大変辛かったと思いますが、弟子たちへの思い、教団への思いなど様々な思いの中で決断され、執筆活動に集中されたのですね。

T:また、この作品を読むと親鸞が法然への敬慕の気持ちが深かったことを感じますし、他の活動を行いながら執筆された親鸞の驚異的な精神にも惹かれます。

E:親鸞は九十歳の入滅直前まで教行信証(浄土真宗の根本聖典)の改訂を続けられていたことがわかっています。それと合わせても親鸞の熱い思いを感じます

E:それでは、次に今回の展覧会でのこだわりを教えて下さい。

T:まず何よりも、わかりやすく、見やすさを考えました。また、ご覧いただいた方に法然と親鸞の気持ちが伝わってくるような会場にしたいという思いがありました。
今回の特別展を担当している横山さんが 書いているブログにもご紹介していますように、色やマークも工夫しています。
法然は「緑」、親鸞は「青」と色分けをして、どちらに由来した文化財かがわかるようにしています。

 

E:ではこちらも注目していただきたいですね。
気になったのですが、二室の巻物類を展示している部屋は少し導線に違和感を感じました。
手前から奥に進んでまた手前に戻ってきます。

T:そこもこだわった点です。巻物は右から左に見るものですから、そのような導線になるよう、また、お客様がま迷わずにご覧いただけるよう考えました。
先日、都内で講演をした時、お客様より“巻物が右から左に見ることができとても見やすかった”と おっしゃっていただき嬉しかったです。

E:今回の作品は、どれをとってもお二人のゆかりの名宝なだけに貴重な作品がそろっています。
それらは、各宗派それぞれ伝来されてきているものですが、この作品がなぜここに伝わったのかと思うことがあります。

T:実は私は、作品の伝来や作られた背景、またどうして現在の形態で存在するのかを突き詰めていくことが研究のテーマなんです。

E:えーっそうだったのですか!!高橋さんは書跡のご専門で文字はもちろんですが、紙の素材分析をするための顕微鏡などがお部屋に置いてあり、研究内容は伺っていましたが、 そのような思いで研究されているとは知りませんでした。

T:なので今回の作品もいろいろな思いで見ています。

E:そうだったのですね。では最後に一言お願いします。

T:展覧会にまだお越しいただいていない方はもちろん、もうすでにお越しいただいた方でも 11月13日で前期展示が終了し、大きな展示替を行います。
15日からの後期展示作品もおすすめのもがたくさんありますので ぜひお越しいただければと思います。

E:ちなみに後期のおすすめ作品はどれでしょうか。

T:たくさんあるので困ってしまいますね。
山越阿弥陀図、当麻曼荼羅縁起(来迎場面)、親鸞聖人像(鏡御影)、恵信尼自筆書状類、その他たくさんあるんですけど・・・
(その後、次々と作品名がでてきましたが、書ききれなくなってしまうので省略します)

E:それだけおすすめが多いということですね。私もこの4点だけでも今からとても楽しみにしています。
ではこちらはぜひごお越しいただき見ていただきたいですね。 高橋さんどうもありがとうございました。

次回は絵画担当研究員よりみどころを紹介します。
お楽しみに。

カテゴリ:研究員のイチオシ2011年度の特別展

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posted by 江原 香(広報室) at 2011年11月12日 (土)