筆者:修理室にて
保存修復課保存修復室の鈴木晴彦です。
私は博物館における保存修理技術者として作品の保存と活用の両立を
考えながら本格修理・対症修理を行なっています。
また一方では作品との関わりの中で、
文化財を伝え護るための予防的な保存処置対策を検討していくように努めています。
作品の状態と状況は一つとして同じものがありません。
目の前に在る複数の作品は、私の先生です。
すべての作品から多くのことを教えられ、育てられてきた気がします。
すべての作品には、それに関わる人やそれらを支えて来た人の心が、
必ずそこに込められています。
そうした人の心を忘れてはならないと思います。
振り返ってみますと、これまでに数多くの人や作品との出会いがありました。
あらためて出会いの大切さを強く感じます。
それら多くの出会いがあり、恩師や仲間、そして皆様に支えられて今日があります。
出会いに感謝です。
一期一会を大切に、これからも「ありがとう」と感謝の心をもって、
学び歩んでいきたいと思っています。
2011年の東日本大震災で津波などにより貴重な作品が大きな被害を受けました。
私も被災した作品の救援活動に参加させて頂きました。
救援活動を通じて多くの仲間と出会い 、助け合いながら作業を共に進めて参りました。
まだまだ救出しなければならない作品がたくさん残されており、
救援活動を必要としています。
この場を借りて皆様にも救援と修復にご協力をお願いしたいと思います。
本館展示室
本格修理を手がけた作品である。
思い出深い作品(先生)のひとつ
桜山吹図屏風 6曲1双 江戸時代・17世紀 田沢房太郎氏寄贈
屏風:伝俵屋宗達筆、色紙:本阿弥光悦
(展示予定は未定)
カテゴリ:2012年6月
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posted by 鈴木晴彦(保存修復室) at 2012年06月08日 (金)
デザイン室長の木下史青です。
平成24年度から使用されることになった、中学3年生・国語の教科書に、
『光で見せる展示デザイン』という随筆を書かせていただきました。
2006年に開催された『プライスコレクション 若冲と江戸絵画展』に出品いただいた、
作品のご所蔵者であるプライス夫妻と展覧会に関る東博スタッフとの、
展示を作り上げるまでのプロセスについての内容です。
プライスコレクション 若沖と江戸絵画展「光と絵画の表情」 のテーマ展示
この写真のタイトルからおわかりかもしれませんが、僕は展示の仕事の決め手はライティングだと考えています。
ランプや照明器具を的確に選定し、照明手法を考え、現場でのフォーカシング(調整)をすることで、
作品を生き生きと楽しく見ることができるようにもなるし、圧倒的な存在感を示すように見せる事もできるのです。
光の効果でモノの持つ美的本質や精緻な技、造形的な魅力を引き出せたかな、
と思える瞬間は他の何事にも変えられない喜びがあります。
蛍光灯、スポットライト2種(左:LED、右:ハロゲンランプ)を駆使して、
《国宝 千手観音像》の照明を調整 (注・作品は写っていません)
国宝 千手観音像 平安時代・12世紀 (展示予定は未定)
もちろんそれが独りよがりにならないように、
この仕事は学芸的な専門の研究員からモノの見方を教えてもらいながら、
常に試行錯誤があり、同時にそれは終わりのない学びの連続であります。
そんな新しい展示がオープンして、モノや作品をじーっ、と見つめているお客様を、展示室の隅からうかがいつつ、
伝わっている!と感じる瞬間に“ありがとう”
(撮影:今井隼人)
画像の《菩薩立像》は、2013年1月2日リニューアルオープン予定の東洋館に展示予定。
現在、展示・照明デザイン検討中です。
(菩薩立像 パキスタン・ガンダーラ クシャーン朝・2世紀(2013年1月2日(水)~2013年4月7日(日)東洋館・インド・ガンダーラの彫刻にて展示))
カテゴリ:2012年6月
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posted by 木下史青(デザイン室長) at 2012年06月04日 (月)
皆様、こんにちは。
トーハクの事務局全般を担当している田浦です。
トーハクでの展覧会や様々なイベントをお楽しみいただいていますか。
私はこの4月にトーハクに赴任しました。
旧文部省に奉職し、最近十数年ほどは大学で教職と大学の運営に携わってきました。
文化行政については25年ほど前、文化庁でオーケストラ、オペラ、バレエ、舞踊、絵画、茶道、華道、琴・三味線・尺八などの邦楽、能といった多彩な文化団体のお手伝いをしていましたので、日本が海外に誇る文化活動の一端に久しぶりにたずさわれることを喜んでいます。
私がトーハクで一番好きな景色は、平成館三階の窓から見える表慶館の緑色の屋根です。
表慶館は明治33年、後の大正天皇ご成婚を記念して計画され、明治42年に開館しました。
国宝迎賓館の設計者、片山東熊の作です。
明治末期の洋風建築を代表する建物として重要文化財に指定されています。
トーハクのゆりの木と表慶館の前で
私は、海外の恵まれない子どもたちを支援するためにベートーヴェン第九交響曲「合唱」のチャリティコンサートを行う合唱団に所属しており、昨年はチェコのプラハ・スメタナホールで演奏会を開催しました。
プラハの街並みはヨーロッパの中でもことのほか美しく、そのときに眺めた教会の屋根の色が表慶館の屋根の色とそっくりだ、とトーハクに着任してすぐに気づきました。
トーハクを訪れてくれたお客様にも見ていただいたところ、まったくそのとおりと驚いていました。
(左)プラハ旧市街広場の街並み、(右)表慶館の緑色の屋根
プラハでたまたま一緒になったシンガポール人が「シンガポールは三年で変わるが、プラハは三百年たっても変わらない」と言っていました。
文化財の保存と展示にかかわる私たちにとっても含蓄の深い言葉だと思います。
140周年を迎えたトーハクへの皆様のご来場をお待ちしています。
カテゴリ:2012年6月
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posted by 田浦宏己(総務部長・本部事務局長) at 2012年06月01日 (金)