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歌川一門の三羽烏―国貞・国芳・広重

本館A室では、特別展 内山晋コレクション受贈記念「歌川広重 江戸のベストアングル」を開催中です。

江戸時代後半、浮世絵界を代表する一派、歌川一門の三羽烏として知られるのが、歌川国貞(のちの三代豊国、1786〜1865)、歌川国芳(1797〜1861)、そして歌川広重(1797〜1858)です。三人はいずれも歌川一門に属しながら、それぞれが際立った個性を打ち出して、江戸後期の庶民文化を刻明に表現しました。

まず国貞は、美人画や役者絵を得意とした絵師です。当時人気を集めていた歌舞伎役者(図1)を華やかに描き、とりわけて役者の表情やしぐさを巧みに捉え、色彩豊かな衣装表現もあいまって、多くの人々を魅了しました。

(図1)三代目沢村宗十郎の大星由良之助 歌川国貞(三代豊国)筆 江戸時代・文久3年(1863) 田畑大藏氏寄贈
10月27日(火)~11月29日(日)本館20室にて展示予定

江戸の町人文化がいっそう成熟し、歌舞伎が庶民の娯楽として広く浸透した時代に、国貞は流行を取り入れ、当時のファッション(図2)や江戸の都市文化をとりあげました。

(図2)江戸名所百人美女 東本願寺 歌川国貞(三代豊国)筆 江戸時代・安政4年(1857)
(注)現在は展示されておりません

歌川国芳は、武者絵や戯画に優れた絵師として知られています。国芳の出世作である豪傑たちを描いた『通俗水滸伝豪傑百八人之一個(つうぞくすいこでんごうけつひゃくはちにんのひとり)』(図3)に代表される武者絵では、筋肉質で動きのある人物表現と大胆な構図によって、力強く迫力ある世界を描き出しています。

(図3)通俗水滸伝豪傑百八人之一人・花和尚魯智深初名魯達(かおしょうろちしんはじめろたつ) 歌川国芳筆 江戸時代・19世紀
(注)現在は展示されておりません

猫や妖怪を題材にしたユーモラスな作品(図4)も多く、庶民の遊び心を巧みに刺激したといえるでしょう。また、天保の改革(1841~43)によって、厳しい風俗統制がとられた時期には、当時の社会や政治を風刺したものと読み解かれてきた作品もあります。国芳は娯楽性だけでなく、時代への鋭い視点をもった絵師でもあったともいえます。

 (図4)金魚づくし 百ものがたり 歌川国芳筆 江戸時代・19世紀
(注)現在は展示されておりません
 
これに対して歌川広重は、風景画によって浮世絵における新しい境地を切り開きました。広重以前にも名所絵は描かれていましたが、広重はとりわけて気象の移ろいや旅情を繊細に表現し、風景版画を新たな領域へと高めたといえます。
代表作『東海道五十三次』は、江戸と京都を結ぶ東海道の宿場町を描いたシリーズです。江戸後期には日本の交通網が整備され、伊勢参りなど庶民の旅行が盛んになりました。そうした時代背景のなかで、人々は旅への憧れを抱くようになります。広重は単なる名所案内としてではなく、雨、雪、夕暮れなど気象の変化を巧みに取り入れ、旅先で感じる情緒や空気感を描きました。たとえば「庄野 白雨」(図5)では斜めに降りつける雨の中、坂道を駆け上る人と、下っていく人がすれ違います。雨そのものには形がありません。画面を斜めに横切る無数の直線と雨を避けようとする人々の姿によって、その激しさを表現しています。ここでの主役は、あくまで突然の雨にあった人々の体験を表現しているのだと思います。
(図5)東海道五拾三次 庄野 白雨 歌川広重筆 江戸時代・19世紀 内山晋氏寄贈
特別展「歌川広重 江戸のベストアングル」にて10月25日(日)まで展示中

さらに『木曽海道六十九次』では、中山道の山間風景を題材とし、東海道とは異なる静けさや雄大な景観を描き出しています。険しい峠道や山村の景観には、人間と自然との深い関わりが感じられます。
晩年の代表作『名所江戸百景』では、その革新性がさらに発展します。橋や木、鳥などを画面いっぱいに大胆に配置し、その奥に遠景を描く構図は非常に斬新でした。「亀戸梅屋舗」(図6)や「大はしあたけの夕立」などでは、近景と遠景を劇的に組み合わせることで、見る者の目を画面の中へ引き込みます。また、四季や天候の変化を通して、江戸という大都市の魅力と生活感を叙情的に表現しているともいえます。

(図6)名所江戸百景 亀戸梅屋舗 歌川広重筆 江戸時代・安政4年(1857) 内山晋氏寄贈
特別展「歌川広重 江戸のベストアングル」にて11月25日(水)~12月20日(日)展示予定
 
このように、国貞は都市文化の華やかさ、国芳は力強さと社会への批評的精神、そして広重は旅情と自然表現を特色としていました。なかでも広重は、名所絵に気象表現や感情表現、大胆な構図を取り入れることで、風景版画を新しい表現の世界へと高めたのです。
 
 

公式図録

本展の公式図録をミュージアムショップで販売しています。

特別展 内山晋コレクション受贈記念 「歌川広重 江戸のベストアングル」

監修:東京国立博物館
著者:松嶋雅人、村瀬可奈、土屋貴裕
発行:株式会社 東京美術
印刷・製本:株式会社 東京印書館
定価:5,940円(税込)

ミュージアムショップのウェブサイトに移動する
特別展「歌川広重 江戸のベストアングル」公式図録表紙

 

カテゴリ:絵画、「歌川広重 江戸のベストアングル」

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posted by 松嶋雅人(副館長) at 2026年10月16日 (金)

 

シリーズで楽しむ「東海道五拾三次」

 
この展覧会は、内山晋氏(1893~1980)旧蔵の浮世絵1,025点を受贈したことを記念して開催するものです。
内山氏は、歌川広重を中心とする質の高い浮世絵コレクションを築いた蒐集家です。出版物や展覧会を通してその魅力を広く紹介するなど、浮世絵の研究と普及に大きな足跡を残しました。受贈した作品はいずれも保存状態が良く、長年にわたり大切に保管されてきたことがうかがえます。
 
本展のみどころの一つは、この内山コレクションの魅力を存分にご堪能いただけるよう、会期を3期に分け、広重を代表する三大シリーズをそれぞれ全点公開することです。
会期と展示作品は、以下のとおりです。

1期 「東海道五拾三次」と江戸名所
9月29日(火)~10月25日(日)
 
2期 「木曽海道六拾九次」と諸国名所・花鳥画
10月27日(火)~11月23日(月・祝)
 
3期 「名所江戸百景」の世界
11月25日(水)~12月20日(日)
 
現在開催中の1期では、「東海道五拾三次」を中心にご紹介しています。
「東海道五拾三次」は、広重といえばまず思い浮かぶ有名なシリーズですが、意外と全図をまとめてみる機会は少ないものです。
そこで本展では、本館A室の会場全体を使い、まるで東海道を旅するように作品をめぐっていただきます。シリーズを通して見ていくと、さまざまな発見があります。
 
特別展 内山晋コレクション受贈記念「歌川広重 江戸のベストアングル」会場風景
 
なかでも注目したいのが、広重の巧みな構図感覚です。広重は遠近法を用い、視点の位置を自在に操りながら、見る人にまるでその場にいるかのような感覚にさせる画面をつくり出しています。そこに天候や時刻の移り変わりを重ねることで、土地の空気までも感じさせる風景を描き出しました。
 
旅の始まりは、早朝の「日本橋」から。開け放たれた木戸から大名行列が出立する、シリーズの幕開けにふさわしい、臨場感あふれる一枚です。
東海道五拾三次之内 日本橋 朝之景 歌川広重 江戸時代・天保4~6年(1833~35)頃

つづいて、日が昇り始める「品川」へ。品川宿へと進む大名行列の最後尾が見えています。こうして並べてみると、日本橋から品川へ、広重が時間の経過まで描いていることが分かります。
   
東海道五拾三次之内 品川 日之出 歌川広重 江戸時代・天保4~6年(1833~35)頃
 
さらに進むと、東海道屈指の難所「箱根」が見えてきます。高い視点から箱根の山々を迫力いっぱいにとらえ、険しい山道を登る行列を小さく描き込んでいます。
東海道五拾三次之内 箱根 湖水図 歌川広重 江戸時代・天保4~6年(1833~35)頃
 
箱根を越えて現在の静岡県に入ると、「三島」に着きます。ここでは一転して、朝霧が立ち込めるなかを出発する旅人にぐっと近寄っています。このような大胆な視点の切り替えも、見る人を飽きさせない工夫でしょう。
東海道五拾三次之内 三島 朝霧 歌川広重 江戸時代・天保4~6年(1833~35)頃

また、作品をたどっていくと、当時の旅の険しさも伝わってきます。街道が整備されていたとはいえ、東海道には箱根越えのような難所がいくつもありました。その一つが、大井川の徒歩渡しです。
大名行列ともなると荷物も多く、無事に川を渡り終えるまで、どれほどの時間がかかったのでしょうか。裸の人足たちが荷物を担いで慎重に川を渡っていく様子を、空高くから見下ろすアングルでとらえています。
 
東海道五拾三次之内 嶋田 大井川駿岸 歌川広重 江戸時代・天保4~6年(1833~35)頃
 
ただ、描かれているのは厳しい旅の場面ばかりではありません。シリーズの随所には、旅人たちがひと息つく場面も織り込まれています。「浜松」では、旅人たちが焚火を囲み、暖を取っています。街道を画面と平行にとらえることで、旅の途中でふと立ち止まったかのような感覚にさせます。

東海道五拾三次之内 浜松 冬枯ノ図 歌川広重 江戸時代・天保4~6年(1833~35)頃

東海道の旅は陸路ばかりでなく、愛知県の「宮」から三重県の「桑名」へは、伊勢湾を船で渡ります。「桑名」には、桑名城を望む船着場に二艘の船が到着し、帆をおろす様子が描かれています。船頭は鉢巻を締め直し、船内では大勢の乗客が到着を待ちわびているようです。解放的な眺望と、日光を受けてきらめく海面が爽やかな一枚です。
東海道五拾三次之内 桑名 七里渡口 歌川広重 江戸時代・天保4~6年(1833~35)頃
 
そして終点、京都の三条大橋に到着です。
東海道五拾三次 大尾 京師 三條大橋 歌川広重 江戸時代・天保4~6年(1833~35)頃

ここで紹介した作品のほかにも、雪景色で知られる「蒲原(かんばら)」や激しい夕立を描いた「庄野(しょうの)」といったよく知られた名作が並びます。シリーズ全体を通してみることで、構図や視点、天候や時刻を次々と変化させながら、広重が見る人を飽きさせない工夫を凝らしていたことがわかります。
 
こうしてシリーズを一続きに並べる今回の展示は、刊行当時の鑑賞方法にも通じます。「東海道五拾三次」は全図が刊行された後、画帖仕立てで販売されたと考えられています。現在では一図ずつ鑑賞する機会のほうが多いかもしれませんが、当時の人びとはアルバムをめくるように作品をたどりながら、シリーズごと楽しんでいたようです。ちなみに、内山コレクションには、販売時に画帖を包んでいた貴重な「絵袋」が残されているのも必見です。
真景 東海道五十三駅 続画(東海道五拾三次 絵袋) 歌川広重 江戸時代・天保4~6年(1833~35)頃
 
ぜひ会場内で、広重が描き出した東海道の「ベストアングル」をお楽しみください。
 

公式図録

本展の公式図録をミュージアムショップで販売しています。

特別展 内山晋コレクション受贈記念 「歌川広重 江戸のベストアングル」

監修:東京国立博物館
著者:松嶋雅人、村瀬可奈、土屋貴裕
発行:株式会社 東京美術
印刷・製本:株式会社 東京印書館
定価:5,940円(税込)

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特別展「歌川広重 江戸のベストアングル」公式図録表紙

 

 

カテゴリ:絵画、「歌川広重 江戸のベストアングル」

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posted by 村瀬 可奈(日本絵画) at 2026年10月06日 (火)

 

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