「みちのくの仏像」展覧会ウラ話
彫刻を担当しております、研究員の西木です。
特別展「みちのくの仏像」は、おかげさまでこれまでに12万人を超えるお客さまにご来館いただいております。
東北6県を代表する仏像に遠く東京までお出ましいただいている本展覧会、この機会にひとりでも多くのお客さまにご覧いただき、展示を通してみちのくの文化や歴史に思いを馳せていただきたい! というのがスタッフ一同の想いです。
「三大薬師」はじめみちのく各地の仏像が、展示室でみなさまをお待ちしております!
ところで、美術館・博物館ならどこの館でもアンケート用紙が用意されていると思いますが、当館でも特別展ごとにアンケートを実施しております。
さまざまなご感想やご要望が寄せられていますが、本展覧会に限らず、遠方から貴重な作品を集めてもらえてありがたい、というコメントをいただくことがよくあります。
本展覧会でも、担当研究員が各地にうかがい、責任をもって大事な仏像をお借りしてまいりました。
通常、展覧会の開催1ヵ月前が作品借用のピークですが、このたびは多くの作品を11月にお借りしました。
それは、(もちろん)借用先がすべて東北だからです。
12月に入ると、地域によっては雪のシーズン。
お寺によっても、冬季は拝観を停止しているところもあるので、できれば避けたいところ・・・。
行く先々で「なぜこの時期に?」といわれましたが、本展は、2011年3月11日の東日本大震災から4年を迎え、あらためてその復興を祈念して開催するもの。
やはりこの時期でなければなりませんでした。
そこで、雪の時期を避けて前倒しで11月から借用にうかがっていた訳です。
秋のみちのくはすばらしく、見事な紅葉にみとれることもありました。
山形・吉祥院の観音堂。イチョウが鮮やかです
(左から)菩薩立像(伝阿弥陀如来)、重要文化財 千手観音菩薩立像、菩薩立像(伝薬師如来)は奥にある収蔵庫に安置されています
千手観音菩薩立像は平安時代・10世紀、他2件は平安時代・11世紀 山形・吉祥院蔵
ただ、お正月は一年でもっとも大事な日ですから、ご本尊にはお寺にいてもらわなくては、というご希望もあります。
とはいえ、開会式は1月13日(火)。
展示作業も考えると、なるべく早くうかがわねば、ということで、無理をお願いして正月明けの1月5日(月)から手分けして借用にお邪魔したお寺もありました。
なかでも印象深いのは、1月7日(水)の岩手・黒石寺です。前日の深夜、最寄りの水沢駅に降りた目に飛びこんできたのは一面の雪景色。
やはり・・・と思いながら、翌日晴れることを願うもむなしく、当日も雪が舞い、最高気温はマイナス1.3度!
雪の降りしきる黒石寺本堂
寒さはともかく、薬師如来坐像が安置されるお寺の収蔵庫から近くで待機するトラックまで、屋根のないところを運ばなければならないので、雪は本当に困ります。
一時でもやんで欲しいという願いも空しく、まったくやむ気配はなし。
しかたなく、お像を入れた箱を厳重にビニールで覆ったうえ、えいや! の勢いで運び出しました。
(左)「雪やまないかなあ」と外の様子をうかがう我々
(右)やまない雪のなか仏像(台座)を運び出す様子
ちなみに、左の写真中央、仁王立ちになって作業を見守る人物は、黒石寺の藤波洋香ご住職。
「冬は寒いんだから、寒いといっても仕方ない」と笑うご住職が、関係者のなかでいちばん薄着でした・・・
ご本尊の薬師如来坐像は、体内に「貞観四年」(864年)の墨書きがあり、制作された年のわかるたいへん貴重な仏像です。貞観11年(971)に東北を襲った貞観地震と、このたびの東日本大震災、2度にわたる大地震を経験し、そのたびにひとびとの祈りをうけてきました。
重要文化財 薬師如来坐像
平安時代・貞観4年(862) 岩手・黒石寺蔵
このたび真冬の集荷で、震災に加えて、毎年の厳しい冬を耐え、春を待つ人々も見守ってこられたのだとあらためて思います。
薬師如来は、左手に持つ薬壺が病気を癒す効能ををわかりやすくあらわしますが、もともと寿命をのばし、死者の魂を弔うに至るまで、願い事はなんでも叶えてくださる仏です。
黒石寺のお像は「厳しい」と評されることの多いお顔ですが、それだけ真剣にひとびとに向き合ってこられたからかも知れません。
カテゴリ:研究員のイチオシ、2015年度の特別展
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posted by 西木政統(絵画・彫刻室アソシエイトフェロー) at 2015年03月20日 (金)