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1089ブログ

中国書画精華(前期) 宋画のひみつ

トーハクで中国書画の展示担当、塚本です。
1089ブログでは、中国書画について、その魅力や見どころをご紹介したいと思います。
私ごとで恐縮ですが、学生時代は仙台に住んでおり、毎年、中国書画精華を見に上野にやってくるのがとても楽しみでした。
当時は立ち食い蕎麦屋でバイトしていて、お金を貯め、在来線や高速バスを使ってやって来ました。
今回、初めて中国書画精華(前期:2011年10月18日(火)~11月13日(日)後期:2011年11月15日(火)~12月11日(日)、本館特別1室)の展示担当になりました。
今回の中国書画精華では、前期には宋代絵画の名品を元代絵画と比較しながら展示しています。

さて今回は宋代絵画について考えてみましょう。
宋代絵画の特徴はその高度な画面描写にあります。
あたかも鑑賞者の心を映し出すかのような写実性こそは、宋画のみにゆるされた高い精神世界と言えます。
それでは宋画はどのように描かれているのでしょうか。


国宝 紅白芙蓉図
国宝 紅白芙蓉図 李迪筆 南宋時代・慶元3年(1197)
~2011年11月13日(日)展示


大半の宋画は画絹(がけん)と呼ばれる絹に描かれます。
画絹は半透明性のシルクで織られた繊維なので、そこに顔料や様々な表現の工夫をすることによって、実に多様な描写ができます。
まず「紅白芙蓉図」の拡大写真を見てみましょう。

紅芙蓉図(部分) 
(左)紅芙蓉図(部分)、(右)一般の画絹(目が粗く裏が透けているのがわかります。)

顔料が絹目に食い込み、不均一にひろがることで、まるでパステルのパウダーを塗ったような質感が表現されているのがわかります。
ゆっくり変化するピンク色と白の色面が、実に美しいですね。
これが展示場で離れて見てみると、ふわっとした芙蓉の存在感として表現されているのです。
一般に宋画の絹はとても細かく、現在市販されている絹とは全く別のものです。
このような目のこまかい絹こそが、宋画の神秘的ともいえる存在感の表現を可能にしていると言えます。


重要文化財 猿図
(左)重要文化財 猿図 伝毛松筆 南宋時代・13世紀
(中)頭部分の拡大。
(右)画像(中)の赤で囲んだ部分の拡大。墨線に交じって金泥線が見えます。
~2011年11月13日(日)展示


絹は半透明ですから、裏から彩色をしたり(裏彩色(うらざいしき))、裏から金を貼ったり(裏箔(うらはく))したりすることで、直接的ではない、微妙な色感を表現することができます。
猿図」(南宋時代)は、ただのサルではなく、まるで考え事でもしているかのような猿の図として有名です。
拡大してみると体毛は金泥で表現されていることがわかります。(右図)
これが、ふんわりとした毛のひみつ。
次に、眼を拡大してみましょう。

重要文化財 猿図(部分)
(左)猿図(部分、眼の部分を拡大)、(右)(左)の画像の青で囲った部分の拡大。金色の部分がはみ出ているのが確認できます。

眼球の後ろにキラキラしたものが見えませんか。
眼上の線(画像、右の赤丸で囲った部分)から絹下にややはみ出ていることからみても、おそらくこれは絹の下に金箔を貼っているのだと思われます。
絹の表から金を使うと、金色が目立ちすぎてつり合いがとれずに俗っぽくなり、「考えるサル」にはなりません。
でもサルのきらっとした眼球の質感は表現したい・・・。
絹裏から金を使うことは、画家のこの相反した二つの表現の欲求をかなえてくれるものだったのでしょう。


現在、このブログでご紹介した「紅白芙蓉図」の制作工程模型を作製しています。
東京芸術大学の学生ボランティアの協力を得て、エックス線撮影などの科学技術を使って研究を進めながらの作業です。
来年3月頃には完成予定で、2012年度中に本館20室にて展示される流れとなっています。
東洋絵画の最高峰とも言われる宋画のひみつを解くためには、まだまだ時間がかかりそうです。


本館で中国書画精華が展示されるのは、これで最後。
トーハク全体でも、東洋館が開館するまでの間、中国書画の展示はありません。
前期は国宝「紅白芙蓉図」をはじめ、国宝「夏景山水図」(山梨、久遠寺蔵)など、2件の国宝と6件の重要文化財が並ぶ、超豪華ラインナップ!
前・後期ともに、どうかお見逃しなく。


中国書画にご興味のある方に耳より情報!
中国の花鳥画-彩りに込めた思い-」(黒川古文化研究所にて2011年11月13日(日)まで開催)
この展示は「関西中国書画コレクション展」の参加展示です。

カテゴリ:研究員のイチオシ

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posted by 塚本麿充(東洋室) at 2011年10月23日 (日)