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1089ブログ

柳瀬荘をご存知でしょうか?

トーハクには、本館、表慶館、平成館、法隆寺宝物館、東洋館(現在休館中)、黒田記念館の展示館に加え、
黒門や校倉などの屋外展示庭園・茶室資料館があることをご存知の方は多いかと思います。

では、「柳瀬荘」をご存知でしょうか?

「柳瀬荘」は、埼玉県所沢市にあります。
この建物は、電力事業に生涯を捧げ「電力の鬼」といわれた実業家でもあり、茶人としても名高い松永安左エ門氏(1875-1971)の別荘だったものです。
昭和23年(1948)3月にこれまでに収集した美術工芸品とともに、柳瀬荘が当館へ寄贈され、現在は週に1回一般公開をしています。

荘内の主要建物である「黄林閣(おうりんかく)」は、天保15年(1844)、現在の東京都東久留米市柳窪の地に大庄屋の住居として建てられたものを 昭和5年(1930)に故松永氏が譲り受けてここへ移築しました。
そして昭和53年(1978)に江戸時代の民家の特色をよく示すものとして、重要文化財に指定されました。
そのほかに、書院造りの「斜月亭(しゃげつてい)」や茶室の「久木庵(きゅうぼくあん)」などが残されています。

当館では、「黄林閣」の茅葺屋根の保存のため、かまどを使った燻煙を年に3回実験的に行っています。
煙に含まれる化学成分が茅に浸み込んで害虫を駆除する働きがあります。


重要文化財 黄林閣

8月31日燻煙実験が行われたので、その様子を皆様にご紹介したいと思います。

燻煙を行う前には、消防署への事前連絡を忘れずに!火事と間違われては大変です。

そして、いよいよ作業開始。
まず、敷地内でかまどにくべる薪を集めることから始まります。


木を切り、集め、黄林閣まで運ぶ、この作業を繰り返します。大変な重労働です。

こちらがかまど。以前は毎日火が入っていたはずですが、今は、燻煙の時だけしか使用していません。

今回で5回目の燻煙ですが、燻煙史上初の4つのかまど全て使用することになりました!
当館の保存修復課と環境整備室の職員4名がひとり1つのかまどを担当します。

さあ火入れです!緊張が走ります。かまどには枯れた松葉を焚き口に詰め、新聞紙で着火します。



初めは勢いよく燃えるのですが、ここからじっくり火がまわるよう調整していきます。


今回初めて燻煙実験に参加した職員は一番大きなかまどを担当することになり、煙り出しに少し苦戦しています。



4つのかまど全てに火が入り、しばらくすると部屋中に煙がまわりました。



燻煙では、ただ薪を燃すだけでなく煙を出して天井にある茅葺を炙らなくてはなりません。
そのためには、不完全燃焼させてより多くの煙を発生させる必要があります。それがこの作業の難しいところです。
外に出てみると、屋根裏からも煙が出ていました。順調に煙が上がっていることがわかります。



ここから約3時間ほど燻し続けます。かまどのある部屋には煙がかなり充満し、目や鼻がつんとしてきます。


隣の部屋では、合間を縫って保存修復課の職員のミーティングが行われています。



3時間たち、かまどの木はほとんど燃え切り、最後の片付けに入りました。


今回の燻煙実験は夏の暑い時に行いました。特に火のそばで作業をしていた職員は
大変暑かったと思いますが、無事に終了しました。


黄林閣も上野にある文化財同様大切な文化財です。

茅葺屋根は、かつての日本の暮らしの中で守られてきたものです。
以前と同じ環境には出来なくても、これまで人の手で守られてきた文化財を今後も人の手で守っていかなくてはなりません。
様々な技術が発展してきている今、化学薬品を使う燻蒸方法も一つにあるのかもしれません。
しかしながら、古くからのやり方をうまく使いながら行うのが黄林閣には最適だと、研究員は言います。
「燻煙実験」と呼んでいる理由は、今はまだ試行錯誤中だからです。
文化財を守るために実験をくりかえし建物にとって良い方法を考えていきたいと思っています。

また、このような実験を通して、職員自らの手で文化財を守ることで、各々の意識が高まると考えており、
当館ではこれからも燻煙実験を続けていきたいと考えています。

柳瀬荘の公開日は通常毎週木曜日のみですが、10-11月は「柳瀬荘 アート教育プロジェクト」を行います。
当館と日本大学芸術学部の共催による作品展やワークショップを開催するため、公開は木曜日から日曜日となります。
天井の高い座敷など格調高い雰囲気と共に、どこか懐かしさも感じる数少なくなった武蔵野民家をぜひご覧いただきたく思います。

おまけ:燻煙後は数日燻した匂いが取れず、カメラもすっかり匂いがついてしまいました。
かまどの火を担当していたもの曰く、洗濯をしたら水が黒くなったとのことです。

カテゴリ:news

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posted by 江原 香(広報室) at 2011年09月20日 (火)