本館 13室
2006年9月20日(水) ~ 2006年12月17日(日)
秋の七草(ななくさ)といえば、萩(はぎ)・芒(すすき)・葛(くず)・撫子(なでしこ)・女郎花(おみなえし)・藤袴(ふじばかま)・桔梗(ききょう) のこと。蒔絵の作品には、なぜかこれらの草花や菊など、秋の植物や風景をモチーフとするものが数多く見られます。かつて秋が日本人に最も愛され、心待ちにされた季節であったことを示しているのかもしれません。空調のない時代、厳しい夏の暑さを乗り越え、ようやく心地好い秋風を感じた時のうれしさは、ひとしおだったことでしょう。また秋は、穀類や草木の実りの時期、喜びに満ちた収穫の季節でもありました。蒔絵でのびのびと描かれた秋草には、植物の生命力が感じられ、こうした秋の喜びや豊穣のイメージが投影されているかのようです。
また菊は古来、中国や日本では不老長寿(ふろうちょうじゅ)の象徴です。菊の花に降りた露を飲んだ童子が不老不死となったという菊慈童(きくじどう)の故事は、謡曲(ようきょく)や能楽(のうがく)となって広まり、大変よく知られていました。そのため菊花や菊と流水の組み合わせは、蒔絵の代表的な文様(もんよう)の1つになったのです。