本館 特別1室・特別2室
2024年10月29日(火) ~ 2024年12月8日(日)
明治8年(1875)創業の大彦(だいひこ)は、初代・野口彦兵衛(のぐちひこべえ、1848-1925)の手がけるきものデザインや染(そめ)の技術によって一世を風靡(ふうび)した呉服の名門です。「きものは美術的な価値を持つ」という意識から、ひとつひとつに作品名を付けたきものは大彦染とよばれ、東京名物のひとつとして親しまれました。
初代の次男である野口眞造(のぐちしんぞう、1892-1975)は、大正14年(1925)に大彦二代目を継いだのち、父の仕事に立ち戻り、大彦染繡(せんしゅう)美術研究所を設立します。父が収集した江戸時代の小袖(現在は当館蔵)の優品から復元を試み、技術と模様デザインの実証的研究に取り組みました。その上で眞造は昭和という時代にふさわしい模様と技術を考案し、これまでにないモダンなきものを生み出したのです。眞造がプロデュースし、独自の友禅染技術を駆使した大彦のきものは「美術衣裳」とよばれ、その斬新な感性は、皇室をはじめ名家の女性たちを魅了しました。
本特集は、近年当館に寄贈された近現代の大彦きものについて、技術と模様の源泉をたどり、その後のモダンデザインの展開を紹介します。きものを芸術の域にたかめるという信念で制作をつづけた二代大彦・野口眞造の、詩情あふれるモダンデザインと独創的な“染繡”の世界をお楽しみください。