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「埴輪 踊る人々」・「見返り美人図」について

修理の進捗について

皆様のあたたかいご支援により「埴輪 踊る人々」「見返り美人図」は、順次修理が行われてまいります。
修理の進捗状況について、修理の完了まで定期的にこちらで報告を行なってまいります。

 

今後のスケジュール

  埴輪 踊る人々 見返り美人図
修理期間 2022年秋~(約1年半) 2023年秋~(約1年)
修理後の公開 2024年秋以降 2025年秋以降

(注)上記のスケジュールは予告なく変更することがあります。

修理レポート

 

必要な修理/担当研究員の声

埴輪 踊る人々 埼玉県熊谷市 野原古墳出土 古墳時代・6世紀

 

ポカンとあいた目と口の愛らしい表情。左手をあげて右手を胸前に出すポーズ。埴輪と言えばこのフォルムを思い浮かべる人も多いでしょう。「踊る埴輪」として親しまれていますが、近年では左手で馬の手綱を引く馬子(まご)とみる説もあります。

小さい方の埴輪は、腰に鎌を着け、顔の両脇で髪を結って束ねる美豆良(みずら)という男子の髪型をしています。一方、大きい方の埴輪にはその特徴がみられず、男女のどちらかよくわかっていません。ただ、女子の埴輪によくみられる胸部や服飾の特徴的な表現がないことから、男子の埴輪であるとも考えられています。

衣服や武具、アクセサリーを身に着ける埴輪も多くありますが、この作品はどちらの衣装も帯のみと大胆にデフォルメされています。この素朴さ、そして生き生きとした動きが作品の魅力でもあるのではないでしょうか。

 

必要な修理


胴に横向きの亀裂が入っている様子


右半分が旧修理で施された石膏

胴や腕の部分に横向きの亀裂が複数みられます。また、過去の修理による石膏が経年劣化し、一部に剥離が生じている状態です。東京国立博物館の所蔵する埴輪の中でも知名度の高い作品であることから、他施設から貸出し依頼の多い作品ですが、慎重な取扱いを必要とするため、断念せざるを得ない状況です。

今回の修理では、解体、旧修理による石膏部分の除去、亀裂の強化・接合などが行なわれる予定です。旧修理の石膏を除去した部分には劣化しにくい補填材を使用し、最新の知見をもとに復元する計画です。

 

担当研究員の声

東京国立博物館で収蔵している埴輪の多くが、明治から昭和初期に出土したものです。教科書でおなじみの「埴輪 踊る人々」も、昭和5(1930)年に山林を開墾中に偶然発見され、その後すぐに石膏をつかい修理されています。上半身は比較的オリジナルが残っていますが、意外にも下の円筒部は石膏による復元が大半を占めます。

昭和初期の修理のため石膏が非常に脆くなっており、当館で展示する際の取扱いや、他施設の特別展に出品するための輸送に耐えられなくなっています。

今回の修理プロジェクトによって、引き続き展示で皆様にお見せできるように、そして未来の世代にこの貴重な文化財を引き継げるようにしたいです。あたたかいご支援を心よりお願いいたします。

東京国立博物館 特別展室 主任研究員 河野正訓

 

 

見返り美人図 菱川師宣(ひしかわもろのぶ)筆 江戸時代・17世紀

 

 

目にも鮮やかな濃い紅色の綸子(りんず)地の振袖をまとった若い女性がふと振り返る一瞬を描いた、菱川師宣晩年の肉筆画。切手のデザインになったことでも有名です。

「玉結び」というヘアスタイル、菊や桜の花で描かれた花丸模様の振袖、人気役者の着こなしにちなんだ帯結び「吉弥(きちや)結び」など、当時の町中で流行した最新のファッションを描いていることもこの作品の魅力です。また、織り出された綸子の地模様まで詳細に描くリアリティは、きものに刺しゅうと金銀の箔で模様を施す縫箔師(ぬいはくし)の家に生まれた師宣ならではといえるでしょう。

江戸時代の戯作者(げさくしゃ)山東京伝(さんとうきょうでん)(1761~1816)が、箱書きをしており、江戸時代から有名な作品だったようです。

 

必要な修理


桜の花の描かれた箇所が剥落している


本紙と表装裂(ひょうそうぎれ、織物)の重なる部分に折れや擦れがみられます

桜の花など絵具の部分には多くの剥離、剥落がみられる状態です。こういった部分には膠(にかわ)水溶液など天然の接着剤による剥落止めを行ない、これ以上傷みが進まないよう保護します。

本作品には巻いて収納する掛軸特有の傷みともいえる、折れや擦れがみられます。折れには、細く帯状に切った和紙で裏面から部分的に補強する、「折れ伏せ」といわれる技法を用いて修理をします。表から見える部分ではありませんが、長く作品を引き継いでいくうえでとても大切な処置です。また擦れて欠損した部分には、そのかたちに合わせて調整した、本紙に似寄りの材料を用いて補います。その他、経年による汚れのクリーニングや旧裏打ち紙の除去、新たな裏打ちも行ないます。

 

担当研究員の声

切手の図柄としても有名な見返り美人。思っていたより小さかった!と驚かれる方が多いのですが、その小さな画面からは、彼女が生きた時代の息吹までをも感じられるように思います。鮮やかな振袖を纏った姿は一見綺麗に見えますが、細かく画面を見てみると、折れや浮き、繊細な模様の絵具にも剥落がみられます。一度損傷してしまった部分は、もう元には戻りません。これ以上作品の状態が悪くなる前に、「綺麗に見える」現在の姿を保つことが重要です。

また、東京国立博物館の所蔵品の中でも、多くの方々に親しまれている作品を修理することで、より広く修理の大切さを伝えたいとも思っています。「見返り美人図」をより安全な状態で後世に繋いでゆくために、皆様のご協力をお願いいたします。

東京国立博物館 絵画・彫刻室 研究員 大橋美織

 

なぜ、文化財は修理が必要なの?

日本やアジアの文化財は、木や紙、絹など脆弱な材質のものが多く、光や熱、温湿度の変化など、さまざまな要因により劣化してしまいます。

文化財の状態はひとつひとつ異なります。東京国立博物館では、保存環境の把握と改善、文化財に生じた劣化・損傷の診断と修理など、予防・診断・修理に日々取り組んでいます。そうした取り組みのもと、解体や全体の補強を行なう本格修理は年間約50件、鑑賞性の低下や取扱い上の不具合が生じた際のメンテナンス作業を中心とした応急修理は年間約200件行なっています(2021年度実績)。

本格修理は50~100年の周期、応急修理は10~20年の周期で必要といわれています。大切な文化財を未来へと受け継ぐためには、定期的な修理を行ない、文化財を良好な状態に保つことが重要です。皆様からのご支援が、ひとつでも多くの文化財の修理へとつながります。