本館 14室
2020年2月26日(水) ~ 2020年3月22日(日)
3月3日は桃の節句(せっく)。華やかで楽しいおひなさまの季節です。おひなさまの歴史は、罪や穢(けが)れを託して水に流した古代のヒトガタや、幼児のお守りとして平安時代から貴族が用いた天児(あまがつ)・這子(ほうこ)に遡(さかのぼ)ります。また平安貴族の子どもたちは人形などを用いて「ひいな遊び」というオママゴトを行なっていました。
祈りを託し、時に一緒に遊ぶという人形のあり方は江戸時代に引き継がれ、女の子のため桃の節句におひなさまを飾る風習が定着します。初期の雛人形は紙製の立雛(たちびな)であったと考えられ、いまだ手遊(てあそ)びの要素が強いものでした。
17世紀の前半には宮中の特別な誂(あつら)えとして絹の衣裳(いしょう)を着た座雛(すわりびな)が登場し、武家(ぶけ)や町方(まちかた)にも広まります。特に富裕な町方では錦や金襴(きんらん)をふんだんに用いた享保雛(きょうほうびな)や古今雛(こきんびな)など、華麗な人形が生み出されました。
今年はこうした歴史をたどる様々な雛人形とともに、江戸の地で製作された雛飾りの名品を展示します。前川(まえかわ)家伝来の「雛人形および雛道具」や日比谷(ひびや)家伝来の「古今雛」は幕末期における江戸製雛飾りの最高水準を現代に伝えるものであり、また何より製作年代と伝来した家が明確である点で重要な作品です。おひなさまを初めとした人形の世界を通じ、繊細で美しく、そして可愛らしいものを尊ぶ日本の美意識を感じていただければ幸いです。