本館 14室
2015年1月14日(水) ~ 2015年4月5日(日)
古来、毛筆で用いる墨液は、硯(すずり)に水を注ぎ、固形の墨をすって作ります。その水をたたえておく小さな器が「水滴」です。やや大きめのものを「水注(すいちゅう)」、水をすくう匙(さじ)を備えたものを「水盂(すいう)」と区別することもあります。水滴は、筆や筆を掛ける筆架(ひっか)、硯やそれを飾る硯屏(けんびょう)などともに、毛筆の文化圏においては重要な道具のひとつであり、さまざまな材質を用い、形やデザインに趣向をこらしたものが作られました。材質としては陶磁器が最も多く、他に金属製や石玉製があります。中国では南北朝時代(5~6世紀)ころのものが早い例として知られ、日本では当館の法隆寺献納宝物にある、国宝 金銅水滴(奈良時代・8世紀)が現存最古の例として有名です。その後、金属製の水滴は各時代で連綿と製作され、特に江戸時代以降は、高度に発達した金工の技法を駆使し、動物・植物・人物故事などを主題として意匠をこらした作品が数多く作られました。
平成25年、当館に一括して寄贈された「潜淵コレクション」の金属製水滴は、渡邊豊太郎(わたなべとよたろう、潜淵(せんえん))氏とご子息の誠之(まさゆき)氏が収集した442件から形成されます。中でも江戸時代の作品は、動物・植物・器物・人物故事などさまざまなジャンルにわたり、類例の少ない七宝の作品も多く含まれます。まさに質・量ともに日本を代表する水滴コレクションといえるでしょう。本特集ではその中の各ジャンルから138件を展示し、金属製水滴の多彩な内容と豊かな造形表現をお楽しみいただきます。
担当研究員の一言
潜淵コレクションの金属製水滴は、その数と質の高さから、まさに日本一のコレクションといってよいでしょう。中でも江戸時代の動物、植物、人物の作品は種類も多彩で、手びねりの蝋型鋳造形特有の豊かな造形表現も見逃せません。思わず微笑んでしまう作品に、きっと出会えるはずです。/伊藤信二