平成館 企画展示室
2014年10月15日(水) ~ 2014年12月7日(日)
田中親美(たなかしんび、本名・茂太郎、1875~1975)は、生涯にわたって、数々の国宝の模写・模造を制作し続けた人物です。父・田中有美(ゆうび、茂一、1840~1933)より絵を教わった親美は、和様の書の大家・多田親愛(ただしんあい、1840~1905)に弟子入りし、写すことの大切さを学びました。若い頃から、国宝「源氏物語絵巻」をはじめとする模写に携わり、明治30年代には、国宝「本願寺本三十六人家集」の模写と、装飾料紙の模造を行ないます。そして、大正9年(1920)から広島・嚴島神社の依頼で行なった国宝「平家納経」の模本制作は、当時の財界人や数寄者の援助により実現しました。それは、絵や書を写すだけでなく、絢爛豪華な装飾料紙、繊細な金具や銅製の経箱の模造まで、徹底的に再現されたものです。「平家納経(模本)」(全三十三巻、経箱一合)は全部で五組制作され、最初に作られた一組は嚴島神社に納められました。益田鈍翁(ますだどんおう、孝(たかし)、1848~1938)が所蔵していた一組が、当館に伝来しています。
東京国立博物館では、こういった田中親美の模本などを収集するとともに、明治5年(1872)の創立当時から模本制作も行なってきました。田中親美の模写とともに、博物館初期の模写活動の一端を紹介します。