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日中国交正常化40周年 東京国立博物館140周年 生誕100年記念 特別展「青山杉雨の眼と書」

  • 『黒白相変 青山杉雨筆 昭和63年(1988) 東京国立博物館蔵』の画像

    黒白相変 青山杉雨筆 昭和63年(1988) 東京国立博物館蔵

    平成館 特別展示室
    2012年7月18日(水) ~ 2012年9月9日(日)

    昭和から平成にかけて書壇に一時代を画した書家・青山杉雨(あおやまさんう、1912-1993)は、平成24年(2012)がその生誕100年に当たります。杉雨は西川寧(にしかわやすし)に師事して実作と古典研究に没頭し、作家として頂点をきわめました。「一作一面貌(いっさくいちめんぼう)」と評される多様な表情を持った作品は、国際的にも高い評価を受けています。また教育者として多くの門人を育てるかたわら、著述や講演などを通して中国書法の普及・啓蒙に尽力し、現代の書の世界に大きな影響を与え続けています。平成4年(1992)には文化勲章を受章しました。
    本展覧会は、杉雨が生前熱心に収集した中国の書画や文房四宝のコレクションと、杉雨自身の主要作品を一堂に公開し、わが国を代表する書家の業績を回顧しようとするものです。

会期中、作品の展示替があります。展示作品リストをご覧ください。
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1089ブログ「2012年度の特別展」 展覧会の見どころなどを紹介しています。

ユリノキひろば─エッセイ募集ユリノキひろばではエッセイを募集しています(2012年9月19日(水)まで)。
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開催概要

会  期 2012年7月18日(水)~9月9日(日)
会  場 東京国立博物館 平成館(上野公園)
開館時間 9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
(ただし、会期中の金曜日は20:00まで、土・日・祝・休日は18:00まで開館)
休館日 月曜日(ただし8月13日(月)は開館)
観覧料金 一般1400円(1200円/1100円)、大学生1100円(900円/800円)、高校生800円(600円/500円)
中学生以下無料
( )内は前売り/20名以上の団体料金
障がい者とその介護者一名は無料です。入館の際に障がい者手帳などをご提示ください。
前売券は、東京国立博物館 正門特別展チケット売場(開館日のみ、閉館の30分前まで)のほか、ローソンチケット(Lコード=31500)など主要なプレイガイドにて、2012年5月10日(木)~2012年7月17日(火)まで販売。前売券の販売は終了しました。
前売ペア券(2000円)は、東京国立博物館 正門特別展チケット売場(開館日のみ、閉館の30分前まで)のほか、ローソンチケット(Lコード=31500)など主要なプレイガイドにて、2012年5月10日(木)~2012年7月17日(火)まで販売。早割ペア券の販売は終了しました。
「東京・ミュージアムぐるっとパス」で、当日券一般1400円を1300円(100円割引)でお求めいただけます。正門特別展チケット売場(窓口)にてお申し出ください。
東京国立博物館キャンパスメンバーズ会員の学生の方は、当日券を900円(200円割引)でお求めいただけます。正門特別展チケット売場(窓口)にて、キャンパスメンバーズ会員の学生であることを申し出、学生証をご提示下さい。
特別展「青山杉雨の眼と書」会期終了後の2012年9月11日(火)~2012年9月30日(日)まで、本特別展半券を当館正門総合文化展チケット売場にてご提示いただければ、当館総合文化展を半額の割引料金でご覧いただけます。
交  通 JR上野駅公園口・鶯谷駅より徒歩10分
東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、千代田線根津駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分
主  催 東京国立博物館、読売新聞社
企画協力 謙慎書道会
カタログ・音声ガイド 展覧会カタログ(2500円)は、平成館2階会場内、および本館地下ミュージアムショップにて販売しています。音声ガイド(日本語のみ)は500円でご利用いただけます。
お問合せ 03-5777-8600 (ハローダイヤル)

関連事業

平成館 大講堂  2012年8月24日(金) ~ 2012年8月26日(日)   13:00 ~ 16:15   受付終了
平成館 大講堂  2012年7月21日(土)   13:30 ~ 15:00   受付終了
平成館 大講堂  2012年8月11日(土)   13:30 ~ 15:00   受付終了
<ワークショップ>   ワークショップ「親子書道教室」
平成館 小講堂  2012年8月13日(月) ~ 2012年8月14日(火)   各日14:00~(約2時間を予定。両日とも同じ内容です。)   受付終了
平成館 ラウンジ  2012年8月16日(木)   14:00~(約2時間を予定)   終了

展覧会のみどころ

作品タイトル、もしくは、画像をクリックすると作品の拡大画像がご覧いただけます。

 

青山杉雨の眼 ~中国書跡・中国絵画~

霧中群峰図
 青山杉雨は多くの中国書画を収集しましたが、その眼の背景には常に書の実作がありました。ここでは、杉雨コレクションの中から、元から民国に至る優品を選りすぐって展示します。中国書画の多彩な世界をお楽しみいただきながら、それが杉雨の書作にどのような影響を与えたかについて、目を留めていただければ幸いです。





霧中群峰図(むちゅうぐんぽうず)
髠残(こんざん)筆 清時代・康煕2年(1663)
東京国立博物館蔵
[展示期間:8月21日(火)~9月9日(日)]

髠残(1612-1692)は、武陵(ぶりょう)(湖南省常徳)の人で、俗姓は劉といいましたが、のちに出家して僧侶となり、法名を髠残、字を石谿(せきけい)、残道者(ざんどうしゃ)、石道人(せきどうじん)などと号しました。石濤(せきとう)、弘仁(こうじん)らとともに「明末三和尚」の一人に数えられます。元代の王蒙(おうもう)や黄公望(こうこうぼう)を学び、豊かな筆墨で奔放な山水を得意としました。本作は西川寧旧蔵で、寄鶴軒(きかくけん)こと青山杉雨に贈られたものです。時に昭和60年、西川寧83歳、青山杉雨73歳。杉雨は石谿の作品をもう一つ手に入れたことにちなみ、「二石斎(にせきさい)」と号しました。

 

張氏通波阡表巻 部分
張氏通波阡表巻(ちょうしつうはせんびょうかん) 楊維楨(よういてい)筆 元時代・至正25年(1365)
東京国立博物館蔵 青山杉雨氏寄贈
楊維楨(1296-1370)が張麒(ちょうき)という人物の求めに応じて、張家の墓道に立てる碑文を書いた原稿です。楊維楨は進士に及第し地方官となりましたが、狷介な性格が災いして、官僚としては不遇でした。酒色に耽溺しながらも、豊かな詩才によって元末における文学界の鬼才として君臨し、各地の詩社を指導しました。書においても古法に拘泥しない、険絶な作風をよくして、元末の書壇で異彩を放っています。青山氏は楊維楨の字である廉夫(れんぷ)の一文字をとって、書斎名を獲廉斎(かくれんさい)と名づけました。

 

 

 

青山杉雨の書

 ここでは、青山杉雨の代表作をおおむね時代をおってご紹介します。杉雨は1930年代に新進の作家として作家活動を開始します。当初は行草を得意としていましたが、第二次大戦後、中国古代の書法研究を進めるとともに、金石(きんせき)文などに基き、篆隷(てんれい)を主とした多様な書体を駆使する独自の作風を確立し、書道界での地位を不動のものとしました。平成4年(1992)にはその功績により文化勲章を受章しています。

 

白楽天・間夕(はくらくてん・かんせき)
青山杉雨筆 昭和13年(1938)
東京国立博物館蔵

杉雨は12歳の頃、書家として著名な大池晴嵐(おおいけせいらん)が青山家に起居するようになったことから、自宅で晴嵐に書の手ほどきを受けました。芝中学では、西川春洞(にしかわしゅんどう)の流れを汲む林祖洞(はやしそどう)が書道を担当、学校の宿題は晴嵐が手本を書いてくれました。恵まれた環境で書に目覚めた杉雨は、24歳で泰東書道院展に初めて出品します。白楽天の詩を揮毫した26歳の本作は、晋時代から唐時代の古典を学んだ、格調の高い伝統的な作風です。杉雨はこの路線をおし進め、28歳で特選府知事賞、29歳の時には最高賞である総裁東久邇宮賞を受賞して、華々しい書壇デビューを果たしました。

 

黒白相変(こくびゃくそうへん)
青山杉雨筆 昭和63年(1988)
東京国立博物館蔵

杉雨は中国の書の歴史に造詣が深く、歴代の名品や書論に触発されながら思索を深め、その時々の書に対する考えを実作に定着させました。若くから独特のスタイルを確立し、しかも、そのスタイルを意識的に変えています。この作品では、左右を合わせると方形になる紙面に、骨力ある筆法で潤渇(じゅんかつ)や肥痩(ひそう)の変化をつけ、構築性の強い篆書(てんしょ)4文字を入れています。古代の文字を素材としながら、伝統的な表現にとらわれることなく構成された画面全体からは、すさまじい気魄があふれています。文字通り黒と白の対比が美しい、最晩年における篆書の代表作。氏はこの年、文化功労者となりました。

 

萬方鮮
萬方鮮(ばんぽうせん)
青山杉雨筆 昭和52年(1977)
東京国立博物館蔵

杉雨の表現の幅は広く、作品ごとに趣が異なるため、「一作一面貌」と称賛されます。なかでも絵画的な要素の強い篆書の作品は、杉雨の最も得意とした書体で、その作風は内外に大きな影響を与えました。方形の紙面に3文字を配した本作は、古代文字を現代的な感覚でとらえた傑作の一つ。篆書でありながら、行草書を思わせる筆意を盛り込み、荒々しいまでの力強さと、潤渇を意識した繊細な表現とが共存しています。署名は入れずに2顆の印のみを押し、余白の美しさを強調したところも、杉雨の非凡な手腕を伝えています。

 

殷文鳥獣戯画
殷文鳥獣戯画(いんぶんちょうじゅうぎが)
青山杉雨筆
昭和44年(1969) 東京国立博物館蔵

呉昌碩(ごしょうせき)の書に触発された杉雨は、行草書と篆書をよくし、51歳の時に双方の書体を見事に融合させた重厚で力強い「周易・中孚(しゅうえき・ちゅうふ)」によって、第6回日展・文部大臣賞を受賞します。しかし杉雨はこのスタイルを墨守することなく、あたかも伝統的な書法に挑戦するかのように、実験的ともいえる作品を次々と発表しました。57歳の新春に発表されたこの作は、篆隷書(てんれいしょ)に新たな表現様式を創出したい一心で揮毫したと述懐する意欲作。古代文字を素材としながら、絵画的要素をふんだんに盛り込んだこの作は、当時の書壇に大きな影響を与えました。

 

 

 

青山杉雨の素顔

 青山杉雨は、書の周辺を彩る硯、印材、水滴などの文房四宝に優れた鑑識眼を持ち、多くの優品がその収集に加わりました。また、教育者として多くの弟子を育てるとともに、雑誌『書道グラフ』を主宰し、中国書法の社会的な普及に力を尽くしました。ここではコレクションの文房四宝の数々をわかりやすく展示するとともに、手本、原稿、写真などの資料から、教育者・編集者・家庭人としての杉雨の多面的な素顔をうかがいます。

 

鶏血石印材
鶏血石印材(けいけつせきいんざい)
清時代・17~19世紀
東京国立博物館蔵

昌化(しょうか)石は、浙江(せっこう)の昌化(現在の浙江省臨安県)で産出され、紅・黄・褐色など多彩なものがあります。その品種は150種にも及ぶとも言われ、いずれも広く印材として用いられてきました。なかでも辰砂(しんしゃ)を含む赤い石については、その鮮やかな赤色を、鶏の血が凝結した色調に例えて鶏血石とよばれました。石質の良い鶏血石は産出量が少ないこともあり、印材の中でも特に珍重されました。

 

蘭亭洮河緑石抄手硯
蘭亭洮河緑石抄手硯(らんていとうがろくせきしょうしゅけん)
明時代・14~17世紀
東京国立博物館蔵

中国の甘粛省(かんしゅくしょう)を流れる洮河(とうが)で採れる緑色の石で作られています。長方形の器形の硯背を刳(く)り、左右の硯側を壁状の足とする抄手硯(しょうしゅけん)と称される形式のこの作品は、書聖・王羲之(おうぎし)が蘭亭(らんてい)名高い曲水(きょくすい)の遊宴で催した情景を彫刻してあります。洮河の緑石硯は、色調や質感が貴ばれたうえに、これを使用すると墨色が優れたものとされることから、端渓硯(たんけいけん)などと並んで高く評価されてきました。

 

 

 

青山作品の魅力
青山作品の魅力
抱壺自得(ほうこじとく) 青山杉雨筆
平成3年(1991) 個人蔵
書の“伝統”を重んじながらも、常に“現代”を意識して、その葛藤の中で生みだされた青山杉雨の作品。書の規範を中国に求め、それを日本人の感覚で表現する姿勢を貫きました。伝統的な多字数の作品もあれば、理知的な構成の小字数の作品もあり、筆力のたくましい書や情緒的な繊細美、退廃美をチラリとのぞかせている可憐な書もあります。古代文字を扱った作品が多いのは、絵画的な造形性やフォルムとしてのユニークさが、近代的な美意識に訴えかけてくる要素が強いからだと、青山杉雨は言っています。また、行書や草書による作品を制作するにあたっては、やわらかな線を書くために、仮名を学んだこともありました。数々の名家が活躍した長い書の歴史の中に、自己の芸術をどう位置づけていくか、書の時代性を考えながら、一作ごとに工夫を凝らし、新たな表現に挑戦し続けた青山杉雨。中国の書の古典を素材とし、そこに現代感覚を見事に融合させた“青山マジック”の魅力をお楽しみください。