国宝 松林図屏風(部分) 長谷川等伯筆 安土桃山時代・16世紀
本館 2室
2019年1月2日(水) ~ 2019年1月14日(月・祝)
深い霧に包まれた松林を、墨の濃淡だけで表現した作品です。
手前の松は、激しい筆運びで、黒々とした墨を画面にこすりつけるように描かれています。しかし、霧の中からくっきりと姿を現すその枝から、少し横に視線を移せば、隣の樹影は淡くにじみ、まるで霧に溶け込んでいくように見えます。霧の晴れ間には、遠くの雪山がわずかに確認できます。このように、本図では松や山を描きながら、描写されていないはずの、ひんやりとした空気の流れをもとらえられているのです。日本の絵画のなかで、大気と光の表現に迫った作例として随一の存在といっても過言ではないでしょう。
筆者の長谷川等伯(1539~1610)は、本図の着想や技法を、中国の画僧・牧谿(もっけい)の『観音・猿鶴図(えんかくず)』(京都・大徳寺蔵)から得たと考えられています。制作時期は1590年代、等伯が五十代半ばを迎えた頃とするのが有力です。
あまりにも有名な作品ですが、一方で多くの謎も残されています。本図は薄手の粗末な紙に描かれており、紙の継ぎも一定ではありません。紙継ぎの位置を参考に画面を復元した結果、この絵は、障壁画の草稿(下書き)の一部だった可能性が指摘されています。いかなる建物の障壁画として制作され、ほかには何が描かれていたのか。まさに深い森に迷い込むように、興趣の尽きない作品です。
指定 | 名称 | 員数 | 作者・出土・伝来 | 時代・年代世紀 | 所蔵者・寄贈者・列品番号 | 備考 | |
おすすめ | 国宝 | 松林図屏風 | 6曲1双 | 長谷川等伯筆 | 安土桃山時代・16世紀 | A-10471 |