国宝 釈迦金棺出現図(部分) 平安時代・11世紀 京都国立博物館蔵
本館 2室
2018年1月2日(火) ~ 2018年1月28日(日)
横長の大画面の中央で向き合うふたりの人物。大きな白く円い光を負うのはお釈迦様。そのお釈迦様がやや身をかがめて合掌する相手は、生みの母の摩耶夫人(まやぶにん)。この場面の主人公であるこの二人、実はすでに亡くなっています。摩耶夫人はお釈迦様を生んで7日後に亡くなり、忉利天(とうりてん)という天上界に天人として生まれ変わります。そして、お釈迦様はこの場面の直前に入滅(にゅうめつ)しました。入滅とは仏様が肉体的な死を迎えることです。天上界でお釈迦様が入滅することを聞きつけた摩耶夫人は急いで地上へ降りてきますが、到着したのはお釈迦様が棺に入れられた後。間に合わなかったことを嘆く母のため、お釈迦様は神通力をもって復活し、棺より身を起こし説法をしたということが『摩訶摩耶経(まかまやぎょう)』に説かれています。
この劇的な場面を主題とした先例は、中国・敦煌の壁画の中で涅槃とその前後の事蹟を一連のものとして描いた作例の中にいくつかみることができます。しかし、単独の画像として描く例は本図のみで、非常に貴重です。類例のない特殊な主題、図像の選択や、沙羅樹に掛けられた衣などに用いられた太細で表情を付けた線は、11世紀当時に生じた強い中国志向を満たすために、過去に日本に伝わった、10世紀頃の中国絵画を基としたためと考える説が近年提示されています。しかし、どのような仏事で用いられたかは不明です。
大勢の人物が描かれていますが、大きさや配置、顔の向きなどを工夫して、お釈迦様を中心とした構図にまとめ、劇的な場面が印象的に表現されます。彩色は白味の強い明るく柔らかな色で彩られ、さらに色の線や色暈(ぼか)し(グラデーション)も多用しています。金銀による彩色、截金(きりがね)も加えて、11世紀仏画の特徴である豊麗な色彩を示しています。
本図は、もと、京都の天台宗長法寺(ちょうほうじ)に伝来し、第二次大戦後に、電力王とも最後の茶人とも評された松永安左エ門(まつながやすざもん)氏が入手し、財団法人松永記念館の所有を経て、氏の没後、国に寄贈されました。現在、京都国立博物館で所蔵の本図は、その貴重さ故に館外に出されることは滅多にありません。この機会に是非じっくりとご堪能ください。
指定 | 名称 | 員数 | 作者・出土・伝来 | 時代・年代世紀 | 所蔵者・寄贈者・列品番号 | 備考 | |
おすすめ | 国宝 | 釈迦金棺出現図 | 1幅 | 平安時代・11世紀 | 京都国立博物館蔵 |