国宝 餓鬼草紙(部分) 平安時代・12世紀
本館 2室
2016年7月26日(火) ~ 2016年8月21日(日)
人は死後、どこへ行くのか?
この問いに仏教は「六道(ろくどう)」という考え方を用意しました。臨終(りんじゅう)を迎えた人びとはその後、閻魔王(えんまおう)をはじめとする冥界(めいかい)の十王により生前の罪業(ざいごう)が裁かれ、六つの世界(六道)に転生することになります。その六つとは、天道(てんどう)、人道(じんどう)、阿修羅道(あしゅらどう)、畜生道(ちくしょうどう)、餓鬼道(がきどう)、地獄道(じごくどう)。苦しみや迷いに満ちたこれらの世界を巡ることを「六道輪廻(りんね)」と言い、この六道から逃れ(厭離穢土(おんりえど))、極楽へと往生することを人びとは願ったのです(欣求浄土(ごんぐじょうど))。こうした考えは平安時代の半ば頃、比叡山に住した恵心僧都源信(えしんそうずげんしん)の『往生要集(おうじょうようしゅう)』によって広く流布し、その世界観を描いた六道絵が多く制作されることになりました。
この「餓鬼草紙」は、六道の中でも苦しみの多い「三悪道」の一つ、餓鬼道を描いています。餓鬼道は生前に強欲で物惜しみをした者や嫉妬深い者が堕ちる所で、常に飢えと渇きに苦しみ、決して満たされることはありません。餓鬼道の様子を詳しく記す『正法念処経(しょうぼうねんじょきょう)』に拠れば、餓鬼には36の相があり、人道で人知れず跋扈(ばっこ)する者と餓鬼道で苦を受ける者に大別され、この絵巻でも両者の様子が描かれています。
平安時代後期には、「地獄草紙」や「病草紙(やまいのそうし)」といった、六道での苦しみを迫真の画技で表わした絵巻が制作されました。この「餓鬼草紙」もまた、六道絵の一つとして、絵巻を愛好した後白河院(ごしらかわいん)周辺において制作されたと考えられています。
指定 | 名称 | 員数 | 作者・出土・伝来 | 時代・年代世紀 | 所蔵者・寄贈者・列品番号 | 備考 | |
おすすめ | 国宝 | 餓鬼草紙 | 1巻 | 平安時代・12世紀 | A-10476 |