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博物館は寄贈品でできている─その2

その1から続きます。

上野に立派な建物も建ち、博物館の経営も何とか軌道に乗って社会的に認知されると、博物館に作品や資料を寄贈しようという人が次第に現れてきます。明治時代のまとまった寄贈の一つは、外国からやってきました。米国・ボストン在住の実業家クインシー・A・ショー氏は美術コレクターとして知られていましたが、そのうち漆工品や刀装具を遺言によって東京帝室博物館に寄贈しました。明治43年(1910)のことです。現在の総合文化展の中でもしばしば展示される質の高いものです。

古墨意匠硯箱
古墨意匠硯箱 伝小川破笠作 江戸時代・18世紀 クインシー・A・ショー氏寄贈
本館12室 漆工にて、10月8日(月・祝)まで展示)



日本国内でも、明治末から大正時代になると近代化によって成長してきた産業資本家や銀行家が美術品のコレクションを蓄積し、現在で言えば「社会への還元」の意味で博物館に寄贈を行うことが広まります。

今回の特集陳列「秋の特別公開 贈られた名品」でも安田財閥の安田善兵衛氏父子の収集からの寄贈品や鐘紡を発展に導いた武藤山治氏からの寄贈品は、このようなものです。ある意味で当時の日本が豊かになった表れとも言えるでしょう。実業家からは、横河グループの創始者、横河民輔氏収集の陶磁器類、電力産業に深く関わった松永安左エ門氏収集の古美術品など大規模なものが戦前戦後にかけて寄贈され、現在の当館コレクションの根幹をなしています。

色絵花卉図大皿
色絵花卉図大皿 伊万里 江戸時代・18世紀 横河民輔氏寄贈
本館13室 陶磁にて、10月8日(月・祝)まで展示)


言うまでもないことですが、ここに紹介した大きな寄贈だけで当館11万の所蔵品が形作られたわけではありません、お名前がわかるだけでも3000人を超える方々の御好意が現在のコレクションを支えており、それぞれの寄贈の裏にはさまざまな思いがこめられています。展示室で作品に添えられた題箋には、寄贈品の場合必ず「~氏寄贈」の一行が入っていることに、目を留めていただければ幸いです。


関連展示
東京国立博物館140周年特集陳列「秋の特別公開 贈られた名品」(本館特別1・2室、9月30日(日)まで)では、数多くの寄贈品の中から国宝・重要文化財の指定を受けた優品を選りすぐって公開しています。お見逃しなく!

カテゴリ:研究員のイチオシ秋の特別公開

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posted by 田良島哲(調査研究課長) at 2012年09月24日 (月)

 

書を楽しむ 第22回「げんえいぼん」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第22回です。

いま、秋の特別公開(本館 特別1・2室、2012年9月15日(土) ~9月30日(日))で、名品が紹介されています!
その中に、書を楽しむ第5回で紹介した、
国宝「古今和歌集(元永本)」が2帖とも、展示されています。
げんえいぼん、覚えていただけましたか?

国宝 古今和歌集元永本
国宝 古今和歌集(元永本) 平安時代・12世紀 三井高大氏寄贈
左:元永本の上より展示箇所
右:元永本の下より展示箇所


左は、上巻から、花襷(はなだすき)の文様の料紙です。
右は、下巻から、孔雀唐草の文様の料紙です。
どちらも、雲母摺り(きらずり)された文様が、
かがやいています!

左と右の、書をくらべてみてください。
どう思いますか?

国宝 古今和歌集元永本 下(部分)
元永本下より拡大

これは、とても細い筆線で、
のびやかに書かれている感じがします。

国宝 古今和歌集元永本 上(部分)
元永本上より拡大

対して、こちらは、線が太く、
ゆっくり書いているようにも見えます。
どう見えますか?

一見すると
違う人の筆跡に見えませんか?
実は、同筆なんです。
元永本は、藤原定実(さだざね、?-1077~1119-?)が
一人で全部書いています。

元永本に使われている料紙は、
13種類もあります。
文様によっては、筆がすべってしまう場合もあり、
それぞれで字の表情が変わってきます。
もちろん、表現を多様化するために
わざと変えるときもあるのです。

最近では、2帖を一度に展示するのは珍しいので、
ぜひ比較して、ゆっくり見てください。

字の配置、
筆のスピード、
いろいろと違いが見えてくると
楽しくなってきます!

秋の特別公開、お見逃しなく!

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年09月23日 (日)

 

トーハク「スペシャルありがとうデー」速報!

皆さま、9月21日(金)のトーハクについてはチェックしていただいておりましたでしょうか?
今日は東京国立博物館140周年「秋の特別公開」の中でも、さらに特別な1日「スペシャルありがとうデー」なのです。

どのようにスペシャルなのか?当日の模様を速報いたします!

15:00、関係者が出席する記念式典が行われました。トーハクにゆかりの深い歴代館長や副館長などが出席、
140年の節目を迎え、改めてトーハクの使命である、日本を中心とした東洋の考古物、美術作品の収集、保護、修復、公開を通じて、世界のなかでもすばらしい博物館を目指すことが、館長より表明されました。


お昼過ぎからの激しい雨が、いつの間にかウソだったかのように止んで、青空が見える夕方、
トーハク140周年を音楽でお祝いするイベントが、始まりました。

リニューアル準備で休館中の東洋館の前は、ビアガーデンスペースに。


17:30からは、国際的に活躍する和太鼓集団「鼓童」のパフォーマンスです。


本館を背景に、勇壮で迫力のあるリズムが響き渡りました。


一方、法隆寺宝物館はキャンドルでライトアップ。キャンドルで書かれた「TNM140th」が見えますか?


とっぷり日も暮れてキャンドルの灯りがさらに美しくなる18:30に、「WASABI」の演奏がスタート。
WASABIは津軽三味線でメジャーデビューを果たした「吉田兄弟」の兄・吉田良一郎さんのソロプロジェクトで、
津軽三味線、尺八、箏、太鼓という和楽器ユニットです。
幻想的な雰囲気での美しい音色は多くのお客様を魅了しました。



最後を飾るのはジャズピアニストの小曽根真さんとシンガーソングライター植村花菜さんによるライブです。
普段は皆さまの休憩スペースの平成館ラウンジが、今日は贅沢なコラボレーションが実現するコンサートホールに!
そしてお二人がコラボレーションで選んだ曲は、カーペンターズの「Sometimes」は、
日ごろ言えないままだった「ありがとう」の気持ちを歌ったもの。
トーハク140周年のテーマ「ブンカのちからにありがとう」にぴったりだったのです!



本日、お越しいただけなかった皆さまに耳寄りな情報です。
9月23日(日)、22:00よりJ-WAVE(81.3 FM)にて特別番組
「J-WAVE PLUS 140th ANNIVERSARY OF TOKYO NATIONAL MUSEUM」でライブの模様などをオンエア。
また、トーハク「秋の特別公開」は9月30日(日)まで行っております。
ゆっくり名品の数々をご堪能いただいたり、記念撮影や庭園散策をお楽しみください。
もちろん2度3度とお越しいただけるなら、さらに大歓迎!
トーハク140周年を、皆さまの思い出にしていただけるとうれしいです。

カテゴリ:news秋の特別公開

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posted by 林素子(広報室) at 2012年09月22日 (土)

 

プレオープンツアー「東洋館をめぐる旅」に潜入取材!

こんにちは、ぼくトーハクくんです。

こんにちは、ユリノキちゃんです。
ねえねえトーハクくん、知ってる?2009年から休館していた東洋館が、いよいよ2013年1月2日(水)にリニューアルオープンするのよ!
今日は、開館前の東洋館体験ツアー「東洋館をめぐる旅」に参加して、中の様子を皆さんにリポートしましょう!

りょうかいだほ!
 東洋館全景

でもリニューアルって言ってるわりには、外から見た感じはあんまり変わってない気がするほ…

そうよ。今回は耐震補強工事のために休館していたの。元々のデザインを尊重するために、壁や柱の中など見えないところで補強をして、できる限り建物イメージを変えないようにしたんですって。
さあそれでは建物の中へ、レッツゴー!

 東洋館エントランス

やっほー!東洋館のエントランスに潜入だほー!冒険だふぉー!

トーハクくん、はしゃぐと危ないわよ!まだ工事中のところもあるから足元に気をつけてね。

わかったほ。ちぇ、おこられたほ。

まずは1室「中国の仏像」から見てみましょう。
 

1室
1室の様子。

うほー!こりゃキレイだほ。
 
ここには中国・宝慶寺(ほうけいじ)の仏龕(ぶつがん)がずらりと並んでいます。これだけ並ぶと見ごたえがあるわね。

1室 ぶつがん

ぶつがんってなんだほ?

仏像や経文を安置するための容器のことよ。
これらの作品は、元々は宝慶寺っていう中国の石窟寺院の壁に埋め込んであったの。そのイメージに近づけるために、壁に固定して展示したですって。

なるほー。

次はオアシス2(教育普及スペース)を通過して、3室「西アジア・エジプトの美術」へ移動します。
 

セクメトさん
セクメト女神像(新王国時代・第18王朝・前16世紀~前14世紀 エジプト、テーベ出土)といっしょに。

わー!お顔はライオン、からだは人間でお馴染みのセクメトさんだほー!会いたかったほー!

3室では、エジプト神話の女神、セクメトさんがお出迎えしてくれます。
 
ところでトーハクくん、この横長の展示ケースには何が展示されると思う?

展示ケース
ヒントは、エジプト出土品の中で最も人気の、あの方!

ぼくをもしのぐ人気の作品…?だれかなあ。はっ!もしかして…ミイラさん?

正解!このケースの中には、窒素を発生させる装置がついているから、環境が安定するんですって。
これならミイラさんも安心して眠れるわね。

えー、いいなあー。ぼくもこの展示ケースの中で眠りたいほー。うらやましいほ。

次は4室「中国文明のはじまり」を通過して、5室「中国の青銅器」へ移動します。

 5室
うわーすごい、作品が浮いてるみたいでかっこいいほ!

そうね、ガラスが透明で、展示台もすっきりしているから、作品がより見やすくなったわね。
みてみて!まるでガラスが無いみたいに見えるでしょ?

 ガラスが無いみたい!

「中国の陶磁」では、作品を横側からも見られるようにケースが配置されています。
陶磁の魅力を余すところなく見られるなんて素敵!

5室の展示ケース


しかも東洋館の展示ケースは、2枚のガラスの間に飛散防止フィルムが挟まれているから、万一ガラスが割れてしまったとしても飛び散る心配がありません。

さてさて、お次はオアシス6(教育普及スペース)と7室「中国の石刻画芸術」を通過して…

8室 
8室「中国の絵画」にやってきたほー!広いほー!

天井高は6mもあるの。長い掛軸もゆったり展示できるわね。

 紅白芙蓉図
人気の国宝「紅白芙蓉図」(李迪筆 南宋時代・慶元3年(1197))発見だほ!

展示ケース内の照明は、すべてLEDなの。色温度を変えることも出来るのよ。

いろおんど?

ハロゲン電球のような黄味がかった温かい色や、蛍光灯のような青味の強い色など、光の色にも種類があるでしょ?このLEDは、作品によって光の色を変えることができるの。

ほぉ~、それは感心だほ。

それでは、9室「中国工芸」、10室「朝鮮半島」を通過して、地下1階の11室「クメールの彫刻」を見に行きましょう。
 

クメール彫刻発見
あっ、みてみて!あそこにも作品があるほ!重そうな作品だほ!
 
 
浅見研究員「あれは作品ではなくて、等身大のパネルなんです。」
 

わっ、東洋室長の浅見さん!

え~これパネルなの~?!だまされたわ…

等身大パネル
「こうやってパネルをつくると、ケースの高さや、周りとの間隔など、展示のイメージを具体的にすることができるんです。」

よくできたパネルだほ。しかし早くガネーシャさんご本人に会いたいほ。

浅見研究員「以前の東洋館では、クメールの彫刻を出すスペースがなくて、なかなか展示できる機会が無かったんだけど、新たに専用の展示室ができたから、来年1月からはいつでも会えるよ。」

やっほー!たのしみだほ!

浅見さん、どうも有難うございました!さあ次は、12室「東南アジア」を抜けて13室へ向かいます。



染織ケース 
これはアジアの染織のケースなの。

あれ?ケースの中の壁がすこし斜めになってるほ。

よく気付いたわねトーハクくん。大きな布の作品を吊って展示すると、作品の重みに引っ張られて一番上の部分がダメージを受けてしまうでしょ?だから壁と接する部分を多くして広い面積で支えられるように、壁が斜めになっているのよ。

少しでも作品が傷むのを防ぐためなんだね、これはナイスな工夫だほ。

最後の展示はこれ!「インドの細密画」よ。
 

細密画
こーんなに近寄って見られるほ!

とっても細かくて、色も模様もキレイだから、近寄って見たくなっちゃうわよね!
ここでは常時9点の細密画をご覧いただけます。


ということで、駆け足でしたが、東洋館を一周して戻ってきました。
トーハクくん、館内はいかがでしたか?

アジアのいろんな国を旅して、トクした気分だほ。開館がまちどおしいほー!


 リニューアルオープンは2013年1月2日(水)です。楽しみに待っててね!
以上、トーハクくんとユリノキちゃんでした!またねー!

カテゴリ:news催し物展示環境・たてもの

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posted by ユリノキちゃん at 2012年09月21日 (金)

 

江戸時代の和書が面白い!「徳川本の世界」

今回の東京国立博物館140周年特集陳列「徳川本の世界―多様性とその魅力」 (本館16室、2012年9月11日(火)~11月4日(日))は、主に江戸時代から明治時代の和書について展示しています。
展示のページでもご紹介しているように、徳川本は、昭和18年に一橋徳川家第十二代当主であった徳川宗敬氏によって寄贈された資料群です。大部分が江戸から明治時代に刊行・書写されたもので、美術・武芸・学問・風俗・地理など、様々な分野の和書が含まれます。今回はその中から視覚的に特色のあるものを中心に厳選しました。

和書を展示するときに残念だと思うのが、糸で綴じてあるものは1冊の中の見開きしかお見せすることができないことです。
そこで、このブログを利用して今回の展示品のうち、何点かを取り上げて、展示ではお見せできない内容をご紹介したいと思います。

まず、『寛政重修諸家譜』です。江戸時代に編纂された武家の家系図ですが、私が驚いたのはその量です。1530巻もあり、当館には1264冊収蔵されています。全部合わせると収蔵庫の棚を一つ占有してしまうほどの多さです。
展示では有名な清和源氏のうち、源頼朝の頃の系図が開かれていますが他にもたくさんの武家の系譜がこの和書から調べることができます。

次に、『華包』です。明治44年に遠州流華道6代宗家であった蘆田春壽によって著された、贈答の際に花を包む和紙の折方を記した図集です。日本では昔から和紙で贈答の品を包む習慣がありました。
出来上がるとこんな風になるそうです。梅の花がきれいに包まれています。

華包
華包(部分) 蘆田一英著 明治44年(1911)  徳川宗敬氏寄贈

後半に載っていた型紙を利用して実際に折ってみました。向かって右が木の花一般を包む形式、左側が草花一般を包む形式だそうです。(水引の掛け方も書かれていましたが、丁度よい素材がみつからず紐でくくってあるだけです。)初心者の私でも見本通りに出来上がりました。

 
         見本                 型紙から作成したもの

展示では紅葉や菊を包む際の形式が載っている個所をお見せしています。


最後に『鎧着用之次第』です。男性が肌着から徐々に鎧を着用していく様子が描かれています。着始めと完成の姿をお見せすると、こんな感じです。
 
鎧着用之次第
        始め                             完成
(鎧着用之次第 江戸時代・19世紀  徳川宗敬氏寄贈より)

展示ではこの2枚の中間の姿が描かれたページを開いています。着用途中なのだということを頭の片隅にご覧ください。


いくつかご紹介してきましたが、他にも江戸時代の算術の問題集や河童の記事など、本当にいろいろな書物があります。
今回の展示で江戸時代の和書って面白い、と思っていただければうれしいです。

カテゴリ:研究員のイチオシ秋の特別公開

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posted by 三輪紫都香(列品管理課) at 2012年09月18日 (火)