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ワークショップ「円空にちかづく」を開催しました!

特別展「飛騨の円空-千光寺とその周辺の足跡-」(~4月7日(日)、本館特別5室)もにぎわう暖かな日曜日、ワークショップ「円空にちかづく」をこども向け、おとな向けの計2回開催しました。

円空仏には、その前に立つ者を微笑ませる独特の雰囲気がある一方、彫るときのスピード感、力強さも感じられます。これをつくった円空への興味は尽きません。
円空と同じ体験をすれば、円空にちかづき、展覧会をより深く楽しんでいただけるはず。
円空と同じ体験… それは木を割ることです。

はじめて見る鑿(のみ)に興味深々
はじめて見る鑿(のみ)に興味深々

仏師・明珍素也さんのお話を聞き、デモンストレーションを見ていると、なんだかできそうな気がしてきたようです。早速挑戦!
直径12cm、高さ20cmほどの杉の材を、鑿(のみ)、楔(くさび)、かなづちで割ります。
慣れない手つきで鑿とかなづちを手に取り、木を打つ音が響きます。
でもすぐに、「あれっ」「できない!」という声がして木を打つ音が止まってしまいました。
一瞬心配しましたが大丈夫。明珍さんのアドバイスの声のあと、木を打つ音が聞こえてきました。

木を割る体験。おとなも子どもも真剣そのもの
木を割る体験。おとなも子どもも真剣そのもの

気づくと初対面の参加者同士が協力し合い、笑い声まで聞こえてきます。
「割れた!」という明るい声、「あと少し!」という励ましの声が増え、木を打つ音が完全に消えたとき、自然と拍手がおこりました。

割れた断面。そっくりな部分を円空仏に発見!
割れた断面。そっくりな部分を円空仏に発見!
右:三十三観音立像(部分)  円空作 江戸時代・17世紀 岐阜・千光寺蔵

続いて円空仏のかたちにした小さな材に顔を彫ってみます。
こちらも簡単にはいかなかったようですが、できた仏像の笑顔と同じくらい、参加者の皆さんもいい笑顔でした。


みんなが小刀で彫った顔。つくった人の性格があらわれているような…

割った木の断面や彫った顔を見せ合いながら、「コツをつかむまでは円空も大変だったでしょうね」「年をとっても円空は自分で割ったのかな」「これだけ思い切りよく鑿をいれられる円空は細かいことにはこだわらない性格だったのかも」「できたての円空仏ってきっといい木の香りがしたんでしょうね」などと会話がはずみます。

こどもの回はお天気がよかったので、木を見に庭園へいきました。
「台風などで枝が折れてしまうと傷ができるよね。その傷を治そうとしてできるかさぶたが、この丸いところなんだよ」という説明に「大きい円空の背中!」という声が。
そう、展示されている仁王像にもこうした跡がありましたよね。


庭園の木と仁王像の背中
右:金剛力士(仁王)立像 吽形 円空作 江戸時代・17世紀 岐阜・千光寺蔵

いろいろな木を見たあと、庭園で解散。みなさんもう一度、円空仏を見にいくと本館へ向かいました。

円空や円空仏にまつわる想像が膨らんだり、会話がはずんだりするのは、円空のすがた、見たもの、感じたものに一歩ちかづいた証拠。
きっと今までよりも円空仏を楽しんでいただけますよね。
もう少しすると、庭園には桜が咲き誇ります。
季節の移ろいを感じれば、また違う感覚で円空仏を見てもらえるのかもしれません。
ワークショップで感じたことが、円空にちかづき、仏像を楽しむきっかけになりますように。願いをこめて見送りました。

カテゴリ:教育普及2013年度の特別展

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posted by 川岸瀬里(教育普及室) at 2013年03月12日 (火)

 

私のイチオシ! 円空仏 「柿本人麿坐像」

特別展「飛騨の円空-千光寺とその周辺の足跡-」(2013年1月12日(土)~4月7日(日)本館特別5室)は会期終了まで残すところ1ヶ月をきりました。
これまでお越しいただきました皆様、誠にありがとうございます。
100体ご覧いただきますと、心に残った円空仏があるのではないでしょうか。

このブログでは、「私のイチオシ!円空仏」と題し、円空展担当者によるイチオシの円空仏をリレー形式でご紹介します。

私のイチオシは「柿本人麿坐像(かきのもとのひとまろざぞう)」です。


柿本人麿坐像 円空作 江戸時代・17世紀 総高50.2cm 岐阜・東山神明神社蔵

この像は会場の右奥に展示しています。

展覧会に向けてプレスリリース、チラシを作成時している時からずっと気になっており、早く実物を見たいと思っていました。
いざ展示されると、会場内の雰囲気と照明によって陰影がはっきりし、さらに引き込まれました。

私がこの像を見るときは、まず正面に立ち全体を見ます。
柿本人麿は左肘を脇息にもたれた姿勢で表現されることが中世には定型となっていました。
この像も少し姿勢をくずしているせいか、見るこちら側の緊張をとり安堵感を与えてくれます。
全体を見た後は、像の視線と同じ高さになるよう少し中腰になり真正面から顔を見ます。



この柔和な表情は見れば見るほど心が穏やかになり優しい気持ちになります。
また、まるで私にほほえみかけてくれているような気持ちにさえなってしまいます。

表情も見どころですが、横からもご覧ください。



正面から見ただけでは想像できないぐらい薄く、また平たいことがわかります。
円空は木を鉈で割り仏像を彫りました。
背面はこのように割ったままのものが多く、木を大事に使ったからか、薄い材を用いていることも多いです。

衣の表現も見てください。



このように薄い材でもしっかり彫りこんでいるので見応えたっぷりです。

お越しの際は、「柿本人麿坐像」の表情とともに、造形力に満ち溢れているところもご覧いただければと思います。

円空仏を見ていると「円空はどんな人だっただろうか?どんな思いで彫っていたのだろうか?」といろいろな思いがめぐります。
円空に関わる資料がほとんどないため、まだわかっていないこともたくさんありますが、
円空仏は見るものに様々なことを想像させ、訴えかける力を持っているのだと思います。
それが円空その人自身、そして円空仏の魅力的なところでもあると思います。

皆様のイチオシはどの円空仏でしょうか?

次回は特別展室高木よりご紹介します。どうぞお楽しみに。

カテゴリ:研究員のイチオシ仏像2013年度の特別展

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posted by 江原 香(広報室) at 2013年03月11日 (月)

 

円空にちかづく 木の音、森の声

特別展「飛騨の円空-千光寺とその周辺の足跡-」(~4月7日(日)、本館特別5室)、ご覧いただきましたか?

100体の円空仏が飛騨の森にいるかのような会場に、私はいつも癒されます。
「円空の仏像は仏像としてみるというよりそのかたちをみて楽しめるのでしょうね」
展覧会を担当した研究員の言葉通り、円空の仏像の前に立っても難しいことを考えたり、勉強しているという気分になったりはしません。
むしろ円空その人への関心がわいてきます。

全国をまわり、出会った人々のために仏像を作った円空。木という素材を大切にした円空。
円空にちかづくために、円空が感じ魅せられた木の力をテーマにイベントが開催されます。
それは3月9日(土)11時30分から平成館ラウンジで行われる「芸大生の打楽器コンサート 木の音、森の声」(申込不要)。

円空が歩いた飛騨の山にはどんな音があったと思いますか。その音に円空は何を感じたのでしょうか。
風で木がゆれる音、キツツキが木をつつく音、きこりが木を打つ音・・・
あるいは円空が仏像を造るときには木を割り、叩き、彫る音がしたはずです。
響く円空をとりまく木の音は、どれも円空仏のように素朴で温かい音のような気がします。
その音を聴いた円空は、それを木霊の響きのように感じたのかもしれません。

今回お聴きいただく打楽器の調べも同じように温かみを感じさせてくれます。
たとえば今回演奏する《木片のための音楽》ではクラベスという拍子木のような木の棒を5人の奏者が打ち鳴らします。
皆さんにはどのように聞こえるでしょうか。


ただいま練習中。ご期待ください。

なお、円空と同時代に活躍したバッハやダカンの曲も演奏します。
皆さんも、上野の山で木の音、森の声に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

カテゴリ:教育普及催し物2013年度の特別展

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posted by 川岸瀬里(教育普及室) at 2013年03月08日 (金)

 

呂紀「四季花鳥図」と中国花鳥画の精華

私たち博物館には、実際に足を運んでいただけなければ、わからないことがたくさんあります。
その一つが作品の大きさ。まずはこの大きさをご覧ください。

宮廷画家たちの作品が並ぶ今季の8室は、明代宮廷に迷い込んだような豪華な空間!
宮廷画家たちの作品が並ぶ今季の8室は、明代宮廷に迷い込んだような豪華な空間!

東洋館8室で4月7日まで展示中の「呂紀「四季花鳥図」と中国花鳥画の精華」から、周全「獅子図」をご紹介したいと思います。
今まで周全は漠然と明代の宮廷画家であろう、ぐらいしかわかっていませんでしたが、近年研究の発展によって、より詳細なことがわかってきました。
『明実録』という、明代宮廷の公式日誌のような膨大な記録がありますが、そのなかに、周全の死亡記事と略伝が付されています。

(左)『図絵宝鑑』巻六、(右)『明実録』
(左)『図絵宝鑑』巻六、には「画馬に工(たく)み」という一行記事のみでした。
(右)『明実録』はお隣の東京文化財研究所で閲覧することができます。

それによると周全は、安南人太監(あんなんじんたいかん:ベトナム人の宦官(かんがん))であった金英(1394-1456)の養子となり、成化16年(1480)冬10月までには都指揮僉事千戸(としきせんじせんこ)という役職にのぼったことが記されています。
「獅子図」には「直文華殿錦衣都指揮周全写(ちょくぶんかでんきんいとしきしゅうぜんしゃ)」の落款があります。
文華殿とは紫禁城の殿閣の名前で、今も北京・故宮博物院にいくと、陶磁器展示館になっており、参観することができます。
明代の宮廷画家は武階を授けられ、仁智殿、文華殿、武英殿などで働いていました。

故宮博物院の文華殿
(左)「北京・故宮博物院の文華殿。
「文華」とは文化が栄える様子。ちなみに、奈良の大和文華館の“文華”もここからきています。
(右)明治34年に購入された本作品の落款は、東博の技手であった斎藤謙によって写し取られ、「支那画家落款印譜」(明治39年(1906)刊)に所収されています。


また東京国立博物館では、平成20年から22年にかけて本格修理を行いました。
その時、獅子の肉身部全体に白色顔料による裏彩色が施されているのが確認されました。

(左)裏彩色が施された裏面、(右)表面
(左)裏彩色が施された裏面、(右)表面
詳細は、
東京国立博物館文化財修理報告XI平成21年度をご覧ください。

(左)裏彩色によるグラデーション効果、(右)画絹の間から裏彩色が透けて見える。
(左)ふんわりしたタテガミには裏彩色によるグラデーション効果が。
(右)表面からでも画絹(がけん)の間から裏彩色が透けて見えます。


(当たり前ですが)裏彩色は画の表面からでもよく観察できます。
たてがみの部分をよく見ると、途中までがグラデーションのように白くなり、ふんわりと描かれています。これが裏彩色の効果です。
しかも茶色と墨で毛を描くことで、立体感を表していることがわかります。
横2メートル近くの巨幅であり、通常は縦に使う画絹(がけん)を横にして使っていることからも、本来は軸装ではなく、壁画や衝立の一部であった可能性もあります。
今でも紫禁城にいくと「貼落(ティエ ルオ)」という画絹に描いた巨大な絵が宮殿の壁に貼ってあるのをみることができます。
となると「獅子図」もかつては壁面に貼られ、紫禁城や宦官たちの邸宅を飾っていたのかもしれません。

紫禁城内の貼落画の例
左は紫禁城内の貼落画の例
宮殿の壁に貼られて鑑賞される中国独特の形式です。


たくさんの研究者、技術者のたえまない努力のもと、文献と修復の両方によって得られた新しい情報によって、600年前の画家の具体的な姿も徐々に明らかになりつつあります。
この瞬間こそ博物館で働いている人間にとって最高に嬉しい時間でもあり、その喜びを皆様と共有できることを喜んでいます。

 

カテゴリ:研究員のイチオシ展示環境・たてもの

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posted by 塚本麿充(東洋室) at 2013年03月06日 (水)

 

特別展「飛騨の円空-千光寺とその周辺の足跡-」10万人達成!

特別展「飛騨の円空-千光寺とその周辺の足跡-」(2013年1月12日(土)~4月7日(日)本館特別5室)は、
2013年3月5日(火)午前、10万人目のお客様をお迎えしました。
多くのお客様にご来場いただき、心より御礼申し上げます。

10万人目のお客様は、東京都板橋区よりお越しの瀧澤 麗さんです。
記念品として、東京国立博物館長 銭谷眞美より、本展図録と展覧会オリジナルグッズの賓頭盧尊者坐像を贈呈いたしました。


円空展10万人セレモニー
左から、銭谷眞美館長、
瀧澤 麗さん
3月5日(火) 東京国立博物館本館にて


瀧澤さんは、トーハクには特別展を見に時々ご来館いただいているとのこと。
「これほどたくさんの円空仏が一同に会する機会はなかなかないと聞きました。特に千光寺の「秘仏 歓喜天立像」を見るのが楽しみです」とお話いただきました。

特別展「飛騨の円空-千光寺とその周辺の足跡-」は、会期終了まで残すところあと約1ヶ月です。
円空屈指の名作「両面宿儺坐像(りょうめんすくなざぞう)」をはじめ、初出展の「金剛力士(仁王)立像 吽形(こんごうりきし(におう)りゅうぞう うんぎょう)」などどれも必見です。
ご来館を心よりお待ちしております。

カテゴリ:news2013年度の特別展

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posted by 江原 香(広報室) at 2013年03月05日 (火)