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デュシャンをみる〈考える〉ことで、日本美術を考える〈みる〉ことはできようか?

今年は、デュシャン没後50年にあたります。特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」(2018年10月2日(火)~12月9日(日))にも、連日多くの皆さまにご来場いただいており、ありがたいかぎりです。

第1部の展示の最後に《遺作》映像をみ終わると、頭の中は「デュシャン」の世界でいっぱいになって、「デュシャン脳」になってしまったのではないでしょうか。会場隅にある消火器をみても、「レディメイド?」と思ってしまうくらい、デュシャン作品の印象が強く、さまざまな思いがめぐっているのではと思います。

続く第2部「デュシャンの向こうに日本がみえる。」は、当館所蔵の日本美術の作品を展示しています。頭の中が「デュシャン」に占拠されている状態のまま、日本美術の作品をみたらどうなるか、という試みです。日本美術がデュシャンに先じているとか、デュシャンの作品と日本美術を「比較」してどちらが優れているか、という表層的なことを推奨しているわけではありません。

古く日本でつくられたものは、もともと西洋社会と異なる価値観で培われてきたものです。しかしその多くが現在は、美術館や博物館という場所で飾られ、ケースに入れられ、うやうやしく展示する、という形式でご覧になることが多くなっていると思います。
国宝や重要文化財という価値付けがなされているものや、教科書に載っていて多くの人が知っている文化財を、展示室で確認し、安心するということにも意味はあるでしょう。しかし、この展覧会では、また違った視点から日本美術を見てもらえればと思っています。

今回、デュシャンの世界を堪能されるたことで、「作品」「芸術」「アート」「美」ってなんだろう、ということも含めてさまざまに「考えて」いただける機会ですので、第2部ではデュシャンに浸った目を踏まえながら、5つのテーマを設けて各作品を紹介しています。

まず、第2部に向かう通路の突き当たりは「黒楽茶碗 銘 むかし咄」です。


網膜に映る像を拒否する茶碗

第1章「400年前のレディメイド」では、この黒楽茶碗と伝利休作「竹一重切花入 銘 園城寺」を展示しています。利休は唐物という高価な将来品で設えるものであった茶室の世界に、そこいらにあった竹を「ただ」切って花入としたり、また、真っ黒で手の感触が残ったような手づくねの楽茶碗を用いたりしました。利休が示したものは、竹や土がもともと持っていた価値の位相を、著しく変えてしまったといえるでしょう。


意外に大きな竹の筒

第2章「日本のリアリズム」は、浮世絵の中でも異端といえる写楽の作品と、より伝統的な浮世絵版画を合わせて展示しています。
浮世絵に描かれる人物の中でも役者絵は今でいうブロマイド(今時あるのかわからないですが、芸能人の生写真みたいなものでしょうか)で、役者の「かっこいい」姿が期待されます。ところが、写楽はより実物の特徴をはっきりと表して役者の顔を描きました。ちょっと大きすぎる鼻だったり、しゃくれた顎だったり。いまならフォトショで修正するところかもしれません。当時も多くの浮世絵は理想化(修正後)されたステキな姿を表していますが、写楽の役者絵は決してそうした姿ではありません。写楽は目に見えない、役者の内面が現れる表情を写そうとしたのでしょうか。デュシャンは目に見えないものを表現しようとしたかもしれませんが、写楽はそれまでの浮世絵における人物表現の枠から飛び出した役者を描いています。

 
写楽(向かって右)と国政(同左)が描いた同じ四世岩井半四郎。
ご本人はどちらを気にいったでしょうか。


第3章「日本の時間の進み方」は、絵画空間に「時間」を表現した絵巻を取り上げました。第1部第1章の《階段を降りる裸体 No. 2》では、人が階段を降りる様子が1画面に表されています。古く西洋でも同一場面に異なる時間を収めた絵画は、しばしば描かれていますが、近代ではその手法は取り上げられなくなりました。一方、日本の絵巻は古来、長い画面に同じ人物が時間を追って描かれる「異時同図法」と呼ばれる手法で、絵画の中に時間の経過を表しています。絵巻は本来、少しずつ順に開いて場面ごとに見ていくもので、展示しているようにすべての部分を一度に見るものではありません。1場面ずつ見てゆくことを想像しながら横長の絵をみてゆくにつれ物語が動き出すように見えてくる感覚が生じます。


酒吞童子絵巻 巻下(部分) 鬼の首が斬られ、その首が頼光を襲う

第4章は「オリジナルとコピー」です。「コピー」というと「真似」「模倣」として、価値を低くみることもあります。しかし古来芸術家は、ほぼ先達を「倣って」作品をつくってきました。日本の絵画でも、描く主題、またその表し方も「型」があって、絵師はその型を勉強し、繰り返し師匠や私淑する絵師の「作品」を模倣し、描き方と技術を身に着け、自身の作品を生み出しています。西洋絵画でも古典絵画であれば同様です。つまり「オリジナル」は「コピー」であり、その「コピー」もまた次の世代にとっては「オリジナル」となります。つまり、いわゆる「原品」であることが芸術的価値の高さを示すものではないといえます。
デュシャンはレディメイドのレプリカを作り、「デュシャン」という署名を記します(自身で書いたものばかりでない)。サインが、そのレプリカに記されている、ということのほうに大きな意味があります。そして日本の絵画でも作られた作品の形ではなく、「誰」が作ったか(「雪舟」が描いた、など)ということのほうがもっと重要なのです。
 


第4章「龍図」展示風景 (右)俵屋宗達筆 (左)狩野探幽筆

最後は第5章「書という芸術」です。東洋では書は伝統的に造形上の最高位に置かれ、絵画や立体作品の上とされました。
江戸時代の本阿弥光悦は「寛永の三筆」といわれた能書家です。その書は書かれた内容をただ「読む」のではなく、筆勢や墨の濃淡のリズムを感じ、下絵とされた絵との調和を味わう総合芸術となっています。
書は文字であるため、字を読もうとしてしまうのですが、「摺下絵和歌巻」をみてみると、全体の調和や墨色によるリズムもみえてきます。
デュシャンのたとえば《The》という作品で「The」の部分を★に変えたものや、目に映ったものを描いたわけではなく、概念〈コンセプト〉を表した《大ガラス》のような作品
を経験した後だと、字をみて内容を追わない見方も楽しめるかもしれません。


摺下絵和歌巻(部分)本阿弥光悦筆 
「袖」の字など濃い墨で書かれ、画面構成にリズムを生んでいる
 

デュシャンを通して日本美術をみる、あるいはその後もう一度、デュシャンに戻って考える、など、さまざまな「視点」から、デュシャンと日本美術をみて、考える楽しみを味わっていただければ、と思います。

デュシャンをきっかけにトーハクをより楽しんでいただければ幸いです。

 

カテゴリ:「マルセル・デュシャンと日本美術」

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posted by 松嶋雅人(研究員・本展ワーキンググループチーフ) at 2018年11月30日 (金)

 

見逃せない!「デュシャン 人と作品」(The Essential Duchamp)

東京は秋も深まり朝晩は結構冷えます。トーハクでは、本館北側の庭園を開放、紅葉には早いですが日本の秋の風景をご堪能いただけます。

秋、といえば、芸術の秋。トーハクでは12月9日まで、東京国立博物館・フィラデルフィア美術館交流企画特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」を開催中です。準備段階のブログを1-2本上げたきりで肝心の中身を紹介しないままでおりましたら、すでに、新聞記事やテレビ番組、WEBサイト等でご紹介いただきありがたい限りです。そんな中、今さらではありますが、本展第1部「デュシャン 人と作品」展のおススメポイントなどご紹介したいと思います。

マルセル・デュシャン、というと、《泉》があまりに有名で、デュシャンの展覧会をやっている、と人に話すと「ああ、便器の…」といった反応があることもしばしばです。

しかし、「デュシャン 人と作品」展は、《泉》だけでなくもっと幅広くデュシャンの作品や活動、ひいては彼の人生や人となりについて知ることができる展示内容になっています。このような展覧会構成が可能となったのは、フィラデルフィア美術館のデュシャン・コレクションが質量ともに大変充実したもので、彼の人生を語るのに足る初期から晩年までの作品や写真、関係資料を幅広く所蔵しているからです。
フィラデルフィア美術館のティモシー・ラブ館長が何度かアジアを訪れた中、アジアにおけるデュシャンの影響力の大きさと、特に日本の熱心な研究者やファン(デュシャンピアン)の存在を知り、アジアを廻る国際巡回展として構想しました。当館とフィラデルフィア美術館は長年の交流があり、まず当館にご提案をいただきました。その結果、当館との交流展として第2部とともに実施、そのあと第1部のみソウル、シドニーを巡回します。

では、各章の「見逃せないポイント」(勝手ながら)をご紹介します。

第1章「画家としてのデュシャン」からは、彼が15歳の時初めて描いた油彩画《ブランヴィルの教会》です。

デュシャンというと、前述の《泉》など、とかく変わったことをした、というイメージがあるように思いますが、キャリアのはじめは画家でした。この作品は、当時フランスで大流行の印象派風の作品で、自宅から見た近所の教会を描いたものです。彼が洗礼を受けたのもこの教会で、会場にはデュシャンの生家と教会の写真も展示しています。デュシャンのキャリアのはじまりとして、見逃せない作品です。


第2章は、「『芸術』でないような作品をつくることができようか」と題し、カンヴァスに油絵具で描くという伝統的な絵画から離れた作品を紹介しています。
平成館展示室の広い空間の中で大きな存在感を放つのは、《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》、通称《大ガラス》のレプリカです。


《彼女の独身者たちに裸にされた花嫁、さえも》(《大ガラス》) 1980年(レプリカ 東京版 / オリジナル1915-23)展示風景 東京大学駒場博物館蔵
© Association Marcel Duchamp / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018  G1599


このレプリカは、デュシャンの死後、東京大学で、オリジナルが制作された過程を追体験することを目的として、できる限りオリジナルと同じ技法・素材でつくられました。世界で3番目に制作されましたが、欧米以外ではこの東京版しかなく大変貴重なものです。作品保存上の理由で輸送が難しいことから、東京会場にのみ出品が許可されました。
ちなみに、フィラデルフィア美術館にある本物は、同館の展示室床に固定してあるため移送できません。

上下2つのパートに分かれ、上が花嫁、下が独身者の装置を表します。各部分が何を表しているかは、駒場博物館の《大ガラス》展示パネルでご紹介いたします。

1. 花嫁/雌の縊死体 2. 銀河/高所の掲示 3. 換気弁 4. 9つの射撃の跡 5. 花嫁の衣装/水平線 6. 独身者たち/9つの雄の鋳型/制服と仕着せの墓場 (a)僧侶(b)デパートの配達人(c)憲兵(d)胸甲騎兵(e)警官(f)葬儀人夫(g)カフェのドアボーイ(h)従僕(i)駅長
7. 水車のある滑溝 8. 毛細管 9. 漏斗 10. はさみ 11. チョコレート摩砕器 12. トボガン(未完成の要素) 13. 眼科医の証人/検眼表/マンダラ
(出典:東京大学駒場博物館解説パネル)

性的な主題を扱った作品で、下の真ん中に描かれているチョコレート摩砕器を描いた作品も近くに展示しています。

原品の《大ガラス》は、過去に展覧会に出品された後、輸送途中で破損し、大きなひび割れがあります。今回出品のレプリカにはそのひび割れがないので、かなり違った印象かもしれません。原品は、レプリカの近くに写真でご紹介しています。

この同じ部屋には、《瓶乾燥器》および《泉》のレプリカ、また、《エナメルを塗られたアポリネール》《秘めた音で》のオリジナルが並び、レディメイドの作品を各種ご紹介しています。《泉》はできれば露出展示したかったのですが、作品保存上の理由でフィラデルフィア美術館からOKが出ず、ケース内展示となりました。東京の後2会場廻ることを考えるとやむを得ないことでしょう。




第3章「ローズ・セラヴィ」では、芸術作品自体の制作からも離れ、チェスや出版物、また自身の作品のミニチュア版レプリカの制作などに取り組んでいた時期を紹介しています。

ローズ・セラヴィというのは、デュシャン自身が女性としての別人格として名乗った名前で、この名前で言葉遊びや目の錯覚を利用したものをつくっています。デュシャンはハンサムな人だと思いますが、女装した姿も美しいです。

また、チェス・プレイヤーとしてもかなり有名であったデュシャンは、チェス大会のポスターや、チェスについての出版物の制作もしており、それら印刷物も展示しています。

このセクションにある「ロトレリーフ」という、厚紙でできた円盤は見て楽しい一品です。

ロトレリーフ展示コーナー

本来はレコードプレーヤー(当時で言えば蓄音機の回転盤)に載せ、ゆっくり回転させて、ぐるぐる回る画像が立体的に見えるのを楽しむ、というもので、発明大会のようなイベントで販売されました(売れなかったようです)。会場では、円盤自体とともに、回転する様子が見られるように作られた装置(ロトレリーフ・ボックス)を展示しています。意外に速く回っているような気がしますが、眺めているとなんとなく和みます。ただし、あまり長くみているとふらっとしてしまうのでご注意ください(実際会場で、ふらっとしてしまった来館者の方をおみかけしました。)その上部の「アネミック・シネマ」という実験映画(マン・レイとの共作)も回っているので、上下で回るイメージが不思議なコーナーです。

第1部最後は、デュシャンの死後発表された《与えられたとせよ 1. 落ちる水 2. 照明用ガス》、通称《遺作》を紹介する第4章「《遺作》 欲望の女」です。こちらでは、《遺作》の制作に向けたオブジェや写真のポジなどのほか、1950年代以降、デュシャンの回顧展が欧米の主要な美術館で開催されたときの写真を壁一面に展示しています。

第4章展示風景

《ドン・ペリニヨンの箱》(写真右下ケース内)は、《遺作》のステレオ画像を制作するためのポジやメモをシャンパンの入っていた空き箱に入れたものです。写真はどれも《遺作》に表された風景と女性のマネキンを写したものですが、このポジの中に1点だけ変わったものを持ったものがあります。先日現代美術家の藤本由紀夫さんが会場をご覧になった際に教えていただきました。
会場でぜひ探してみてください。原資料ならではの面白さです。

今回、第1部はいつもより解説文が長く、また完全和英対訳となっています。元が英文でそれを日本語に訳しました。普段の特別展では、特に英文では、これだけの解説を付けられていないので、ぜひゆっくり読んでみてください。

フィラデルフィア美術館は現在大規模改修プロジェクトの真っ最中ですが、デュシャンの展示室には《大ガラス》《遺作》は常時展示してあります。とはいえ、これだけ幅広くデュシャン作品や関係資料を日本で観られるチャンスは、そうそうないと思いますので、ぜひお見逃しなく、何度でもお運びください!

フィラデルフィア美術館 ティモシー・ラブ館長からも一言

 ラブ館長のインタビュー動画はこちら

 

カテゴリ:「マルセル・デュシャンと日本美術」

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posted by 広報室 鬼頭 at 2018年11月21日 (水)

 

特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」の会場デザイン(2)

特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」の展示デザインは東京国立博物館のデザイン室で行っています。
展示は2部構成で、第1部は4章立てでデュシャンの初期の絵画作品から遺作までを紹介する教科書のような構成です。
第2部は日本美術の展示です。

ここでは展示会場のいくつかの特徴についてご紹介したいと思います。

-ゲートと開かれた平面プラン-
第1~第4章の第1部会場にはアーチ状のゲートがいくつか設けてあります。
このゲートをくぐりぬけるとデュシャンの作風が変化し、デュシャンの一生や思考を辿るように会場内を歩けます。
各章の展示空間は、広かったり狭かったり、閉じたり開いたり、向こう側が見えたり見えなかったりと、それぞれに特徴を持ちながら空間が分節されています。
また、狭くて作品の密集している所や広くて作品点数の少ない場所など意図的に操作してあります。

 

 

第2部の始まりは「黒楽茶碗 銘 むかし咄」です。
アールのついた黒色の壁に囲まれた中心に真黒な展示台が置かれ作品が展示されています。



順路を気にせず見ることもできるので、何度も会場内を行ったり来たり、ぐるぐる回ってご鑑賞下さい。


-グラフィック-
各章のグラフィックでは、展示される作品の特徴を取り込んだり、作品の背景、開口部を利用して別の作品の展示風景を切り取ったりと、グラフィックと作品との一体化やグラフィックの展示空間化を試みています。
特に、会場に散りばめられたグラフィックの中のデュシャンの眼差しに注目してみて下さい。

  


-解説-
難解に思われがちなデュシャン作品を始めて見る方に少しでも理解の補助になるよう、今回の展覧会では、ほとんどの作品に個別解説があります。


-「遺作」の映像展示-
「遺作」の映像は、所蔵するフィラデルフィア美術館からの要望で4Kプロジェクター(※1)を採用しています。
本当にフィラデルフィア美術館で「遺作」を見たかのように感じられる高精細な映像展示は必見です。
※1 キヤノン株式会社協賛


-展示照明-
照明は一部を除いて、色彩の再現性の高いLEDとOLEDを使っています。作品保護の観点より低照度でありながらも、展示作品は自然で色鮮やかに照らされています (40~150lux) 。
第1章の一部にはスマートライティング(照度調整、上下左右可動、配光角の可変)というアプリで操作可能なもの(※2)を用いています。
約7mの高さにあるダクトに照明器具を設置した後でも、作品を見ながら細かな光の調整を同時に行えました。
とても便利な機能で助かります。
※2 ミネベアミツミ株式会社協賛

また、第2部冒頭の漆黒の展示台の上に置かれた黒楽茶碗や掛軸の、見え方や色彩などにもご注目いただければと思います。


第1部第2部合わせて160点を超える作品の一つ一つをなるべくストレスなく鑑賞でき、記憶に残る展示となるようにデザインしました。
第1部のデュシャン作品はフィラデルフィア美術館でもなかなか公開されていない作品も数多く展示されています。
この貴重な機会に是非何度でもトーハクへ足を運んで頂き、“デュシャン”に触れて“芸術とは何か”と考える秋はいかがでしょうか。

 

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posted by デザイン室 at 2018年11月16日 (金)

 

特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」の会場デザイン(1)

こんにちは、デザイン室の荻堂です。
現在開催中の特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」(2018年10月2日(火)~12月9日(日))で、会場のデザインを担当しました。

展示をデザインする際には、作品の材質や状態、研究員の意図、借用先の意向など様々な「条件」があります。
今回のように海外の美術館から、作品をお借りして展示する際には、特に厳しい条件が付いてくることがあります。
今回は、そういったデザインの「条件」に着目して、特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」の会場をご紹介します。



会場に入ると、少しひんやりとしています。
温湿度も条件の一つで、普段の特別展にくらべ今回は、低い設定になっています。
展示室の温湿度の違いで、見る人の作品の印象も変わる気がします。

それでは早速会場を見ていきましょう。
まずは壁をご覧ください。





一見するとなんの変哲も無い仮設の造作壁ですが、注目すべきはその厚さです。
デュシャン展では、造作壁の厚みが普段の展示のおよそ4倍、20mmもあるとても重い壁の展示になっています。
これもフィラデルフィア美術館からの条件で、安全性の考え方の違いが表れていて興味深いです。

続いてケース内の展示台をみてみましょう。





気密性の高いケース内では、作品を傷める有害物質は天敵です。
それを防ぐためこれらの展示台には、有害なガスが出にくい合板を使用しています。
さらに、この合板を金属の特殊なシートで包み、その上にコットンのクロスを貼ります。
クロスを貼る際にも、接着剤は使わずタッカー(建築用ステープラー)で留め、接着剤から出る文化財に有害なガスを防いでいます。

そのほかにも作品に当てる光量や、会場のグラフィックの使い方など、様々な「条件」を前提に展示会場を作っていきます。

このような「条件」は、作品保存を考慮して付けられています。
しかし、展示する場所を変えたり、ガラスケースに入れたりすることによって、意味合いが大きく変わってしまう作品も少なくありません。
「保存」と「展示」、矛盾する両者を抱えながら日々展示を作っています。




皆さんも展示室へお越しの際には、「条件」を頭に入れて見ると、展示の裏側が見えるかもしれません。
作品と合わせ、会場デザインにもぜひ注目して特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」をお楽しみください。

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posted by 荻堂正博(デザイン室) at 2018年11月01日 (木)

 

特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」、特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」開幕!

10月2日(火)、2つの待望の特別展が開幕しました!




まずは、平成館のエスカレーターを上って左側、特別第1・2室の特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」についてご紹介します。

この展覧会は、2部で構成されています。
フィラデルフィア美術館が企画・監修した第1部「デュシャン 人と作品」(The Essential Duchamp)展。「現代美術の父」と称されるマルセル・デュシャン(1887-1968)の作品、関連文献資料、写真などによって、デュシャンの人生と芸術活動を時系列でたどります。


第1部 マルセル・デュシャン没後50年記念「デュシャン 人と作品」の展示室。
手前:《自転車の車輪》 マルセル・デュシャン 1964年 (レプリカ/オリジナル1913年)
右奥:《芸術家の父親の肖像》 マルセル・デュシャン 1910年

いずれもフィラデルフィア美術館蔵


《泉》の印象が先行しがちなデュシャンですが、最初は「画家」として活動していました。印象主義からフォヴィスムにいたるまで、さまざまな前衛的な様式に実験的に取り組んだ作品群が、まとまって展示されています。


左:《叢》 マルセル・デュシャン 1910-11年
右奥:《階段を降りる裸体 No. 2》 マルセル・デュシャン 1912年

いずれもフィラデルフィア美術館蔵


その後、通常の「絵画」制作を止めたデュシャンは、伝統的に理解されていた絵画の枠を押し広げ、そこから飛び出しました。いわゆる「レディメイド」と呼ばれる一連の作品の制作が、この時期にはじまります。


手前:《瓶乾燥器》 マルセル・デュシャン 1961年(レプリカ/オリジナル1914年)
右奥:《泉》 マルセル・デュシャン 1950年(レプリカ/オリジナル1917年)

いずれもフィラデルフィア美術館蔵


この後のデュシャンの展開は、ぜひ実際に会場でお確かめください!

そして、第2部「デュシャンの向こうに日本がみえる。」では、トーハクが誇る日本美術コレクションを、デュシャンにちなんだ5つのテーマで展示しています。デュシャンの作品や関連資料を見てきて、鍛えられてきた脳で日本美術を見てみると、いつもと違う面白さが立ち顕れてくるようです。


第2部の展示風景


日本美術を、いつもと少し違う視点で見てみること。それをエンジョイすることができたなら、それはデュシャンのおかげかもしれません。


続いて、平成館のエスカレーターを上って右側、特別第3・4室の、特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」をご紹介します。

大報恩寺というお寺を皆様ご存知でしょうか。京都では千本釈迦堂の名で親しまれる、2020年に開創800年を迎える古刹です。
12月の「大根だき」や2月の「おかめ福節分」などの年中行事も風物詩として親しまれています。
また、大報恩寺には慶派スーパースターの名品が伝わっており、
昨年は60万人の皆さまにお越しいただいた「運慶」展では運慶とその父・康慶、実子・湛慶、康弁ら親子3代の作品が揃いましたが、本展でも快慶、定慶、行快らの傑作がずらりと集まります。

ずらりその1
秘仏本尊「釈迦如来坐像」寺外初公開!


重要文化財 釈迦如来坐像 行快作 鎌倉時代・13世紀 大報恩寺蔵


きりりとした切れ長の目が印象的で、実にイケメンです。
快慶の弟子である行快によるこの作品は大報恩寺でも年に数回しか公開されない秘仏で、
今回トーハクでの展示が寺外初公開となりました。
普段は大報恩寺の本堂内陣須弥壇上の厨子内に安置されていますので間近にご覧になれる機会は多くありません。
360度じっくりとぜひご覧ください。

ずらりその2
十大弟子立像、10体揃っての寺外での公開は初!


重要文化財 十大弟子立像 快慶作 鎌倉時代・13世紀 大報恩寺蔵


釈迦の弟子のうち10人のなかでもとりわえて優れた人物を10人とりあげて、十大弟子と呼びます。
写真には4体しか映っていませんが、十大弟子立像が10体揃って同じ空間に展示されています。
それぞれのお像を360度じっくりと観覧できるように十分なスペースを確保しています。
それぞれが実に個性的な顔立ちをしているので、
ぜひ特徴を見比べながらご覧ください。

ずらりその3
重要文化財に指定された唯一の六観音!


重要文化財 六観音菩薩像 肥後定慶作 鎌倉時代・貞応3年(1224)大報恩寺蔵


6体とも保存状態がよく、しかも台座と光背までが完存する例はほかにはありません。
リアルな人体表現も素晴らしいですが、細部にも目を凝らしてください。
中でも抜群の出来映えを示す、准胝観音の髪の表現や空気をはらむような衣の表現などは圧巻です。
とても貴重なこの作品も360度じっくりとご覧いただけます。
また、会期の後半(10月30日(火)~)からは光背を取り外して展示しますので、
ぜひ光背つきのお姿と光背なしのお姿とそれぞれご覧ください。


おまけ




漫画「聖☆おにいさん」とのコラボTシャツを、会場特設グッズショップ限定で販売しています。
快慶、定慶を2人で着れば、聖☆おにいさんのブッダとイエスになれるかも!?

両特別展ともに会期は12月9日(日)までです。ぜひお見逃しなく!

カテゴリ:「マルセル・デュシャンと日本美術」「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」

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posted by 小島佳、柳澤想(広報室) at 2018年10月03日 (水)

 

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はじめに

展示のイチオシやバックヤードの出来事など、トーハクスタッフによる最新情報をお届けします。

 

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