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10周年!国際博物館の日記念ツアー「上野の山でトラめぐり」

国際博物館の日記念ツアー「上野の山でトラめぐり」が5月15日(日)に開催されました。
このツアーでは特定の動物をテーマにして、上野動物園・国立科学博物館・東京国立博物館を実際に「めぐり」ながら、新たな気付きを「発見」します。
2007年から行ってきたこのツアーも今年で10周年を迎えることができました。

記念すべき10回目のテーマは「トラ」!
小学校5年生~高校3年生を対象に、各施設の講師がトラの秘密を解説します。

まずは上野動物園からスタート。
動物解説員の小泉祐里さんと一緒に「生きたトラ」の観察を行いました。
なわばりをパトロールする姿や、普段は見ることができない食事の様子を目にすることができました。

トラの解説をする小泉さん
トラの解説をする小泉さん

食事の様子を観察する参加者
食事の様子を観察する参加者

上野動物園では生きたトラの観察を通して、食事の際は餌を丸呑みにしてしまうこと、普段は爪を隠していること、目や尻尾、縞模様の役割を発見しました。

トラのあの力強さはどこからくるのでしょうか?
新たな疑問を持ちながら、その秘密を知るために参加者一行は科学博物館に向かいます。
科学博物館では「トラの骨格」をテーマに、動物研究部の川田伸一郎さんにお話を伺いました。
骨格標本のほかにも剥製や毛皮標本もお持ちいただき、参加者は実際に触りながら最強のハンターであるトラの強さの秘密を発見していきます。

トラの強さの秘密を解説する川田さん
トラの強さの秘密を解説する川田さん

参加者全員で骨格標本を観察
参加者全員で骨格標本を観察

トラの力強さの秘密を発見した参加者一行は最後にトーハクへ。
今度は作品に表現されたトラの秘密を発見します。
親と子のギャラリー「あつまれ!トラのなかまたち」(平成館企画展示室、5月22日(日)まで)の会場で、トラに纏わる作品を博物館教育課の小林牧課長が紹介しました。
参加者は絵画や工芸作品、染織や彫刻など、様々に表現されるトラを鑑賞し、トラをめぐる物語やリアルさを発見していきます。

作品の解説を行う小林
作品の解説を行う小林課長

展示室での作品鑑賞後、参加者のみなさんに【かっこいいトラ】と思う作品、【リアルなトラ】と思う作品をそれぞれ選んでもらいました。

各作品に投票する参加者
各作品に投票する参加者

その結果それぞれ以下の作品が選ばれました。

【かっこいいトラ】第1位!

陣羽織
陣羽織 白呉絽服連地虎模様 描絵  国重作  江戸時代・18世紀(アンリー夫人寄贈)


【リアルなトラ】第1位!

博物館写生図
博物館写生図(虎皮)江戸~明治時代・19世紀


最後に、実は今回のトラめぐりを通して、図らずも3施設をつなげる物語を「発見」することができました。
物語の始まりは現在、トーハクで展示中のこの作品。
きわめてリアルに描かれています。

虎
虎  岸竹堂筆    明治26年(1893)シカゴ・コロンブス世界博覧会事務局寄贈)

この作品はイタリアから来日したチャリネサーカスのトラをモデルにして描かれたものです。
実は、チャリネサーカスが連れてきたトラは日本での興行中に3頭の子ども生みます。
そのうちの2頭は現在の上野動物園に引き取られ、日本ではじめて一般公開されました。
現在、科学博物館にはそのうちの1頭が剥製として収蔵されています。
3施設のスタッフを含め、参加者全員が身近に潜む発見に驚かされる物語でした。

10周年を迎える今年は様々なことを発見しました。
来年はどの動物をテーマに3施設をめぐるのか、鋭意計画中です。どうぞ、お楽しみに!
 

カテゴリ:news教育普及催し物

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posted by 臺浩亮(教育講座室) at 2016年05月18日 (水)

 

あつまれ!トラのなかまたち

「黒田清輝」展を開催している平成館の一角に、ちょっとにぎやかなギャラリーが登場しました。4月12日(火)から開催している、親と子のギャラリー「あつまれ!トラのなかまたち」の会場です(平成館企画展示室、5月22日(日)まで)。


バナー
元気いっぱいの看板が会場入り口の目印。


トラのほか、ヒョウやライオンそしてネコなど、ネコ科の動物をモチーフにした所蔵作品34件を展示しています。


作品
左:岩上双虎置物 鈴木長吉作 明治33年(1900)  と会場風景
右上:胸背(ヒュンベ)(部分)  朝鮮 朝鮮時代・19世紀
 
右下:博物館写生図(虎皮)(部分
江戸~明治時代・19世紀

なんといってもトラといえば大型の肉食獣。人々からは恐れられ、そしてあの龍ともにらみあう互角の力をもつ存在とも考えられてきました。そんなトラは、絵や彫刻ではどんなふうに表現されてきたのでしょうか。


会場をのぞいてみると、、、

するどい爪や牙をむき出し、こちらを威嚇しているような様子のトラもいれば、、、


虎 岸竹堂筆
虎 岸竹堂筆 明治26年(1893) シカゴ・コロンブス世界博覧会事務局寄贈
トラの絵を得意とした画家・岸竹堂(1826-1897)による、迫真の虎図。
毛の一本一本まで、とても細かく描きこまれています。



、、、こんな、愛嬌たっぷりの表情で寝そべっているトラも、


白釉鉄絵虎形枕
白釉鉄絵虎形枕 中国・磁州窯 金~元時代・12~13世紀 横河民輔氏寄贈
やきもので作られた枕。トラには魔除けの力があると考えられていました。



そして、
ころんと丸く、こんなに愛らしいトラまで!


虎木彫根付
虎木彫根付 江戸時代・19世紀 増井光子氏寄贈
わずか3センチ大の根付のトラは毛づくろい中。トラは武士に好まれたモチーフでした。
かつて上野動物園の園長をつとめられた増井光子さんが収集された動物モチーフの美術工芸品の一つです。


さらには浮世絵、刀剣の装飾、インド更紗(個人蔵)など、様々な地域や時代の作品がところせましと並びます。

トラが好き、どうぶつ大好き、
そんなお子さまはもちろんのこと、大型連休は動物園にと計画中のお父さま、お母さま、ぜひトーハクのトラの展覧会もご一緒にいかがでしょうか。

おなじ会場内には、上野動物園国立科学博物館が所蔵するトラの頭の骨(国立科学博物館所蔵)やヒゲの標本(恩賜上野動物園所蔵)も展示し、


トラのヒゲと頭骨標本
手前にトラ頭骨標本、奥にヒゲの標本。
ふだんあまり見えない牙の形も骨ならよくわかります。
この標本は、かつての帝室博物館(トーハクの前身)の旧蔵資料。トーハクに里帰り。
ヒゲは、上野動物園にいるスマトラトラから抜け落ちたものです。


さらに、

美術のトラと生きたトラとを比較してみるために、トラの生態や体の特徴について解説をつけました。上野動物園の動物解説員さんや、国立科学博物館の研究員さんのご協力により、動物そのものについても専門的な内容になっています。

5月15日(日)には、その上野動物園、国立科学博物館、トーハクが連携し、国際博物館の日記念ツアー「上野の山でトラめぐり」を実施します。残念ながら今回のツアー申込はすでに終了しましたが、今年で10周年をむかえる3館園の「動物めぐり」を気軽に楽しんでいただくためのリーフレットを配信しています。

リーフレット「10年のあしあと」(上野動物園のWEBサイト内にリンク)

ぜひ、こちらを手に、上野の山をめぐってみませんか。
トラもネコもライオンも、みんなでお待ちしています。
 

 

カテゴリ:教育普及特集・特別公開

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posted by 大木優子(教育講座室) at 2016年04月26日 (火)

 

バックヤードツアー「保存と修理の現場へ行こう」

バックヤードツアー「保存と修理の現場へ行こう」は、毎回応募者殺到の人気ツアーです。
今年も2016年3月17日(木)、3月18日(金)に開催され、抽選で選ばれた42名(2日間)の方に参加いただきました。
私も広報室インターン生としてツアーに同行し、取材しました。

バックヤードツアー

トーハクにおける文化財の修理は、解体などをして全体的な修理を行うものが年間70~100件、部分的に行う最小限の修理が年間700件以上あります。
実際どのような過程を経て保存・修理が行われているのか、ツアーの様子とともに紹介しましょう。

今回のツアーでは、2年前に導入された大型のX線CTスキャナーなど、コンピューターを使用し科学的・数学的な客観的データを計測する施設。実験室と呼ばれる、浮世絵や絵巻など一つ一つ手作業をする修理部屋。そして、刀剣の手入れなどを見学。
参加者の方々には文化財の保存と修理についての理解を深めていただく内容となっていました。


まずは文化財の調査や状態の診断を担うCTスキャナーの見学です。
ここには3台のCTがあり、用途に合わせてそれぞれを使い分けています。
CTを用いて修理すべき箇所を素早く発見し、また作品の構造などを理解することで、どのような処置を行うのか、展示や作品を移動する際のリスク回避などに役立てられています。

CTの説明
みなさん真剣に説明を聴いています

CTスキャナー
世界最大CTスキャナーのテーブルに乗り、撮影する際の回転も体験しました


現在、本館11室に展示されている如意輪観音菩薩坐像は、頭部の納入物がわかるCT画像も一緒に展示されています(2016年4月17日(日)まで)

本館11室の展示 如意輪観音CT画像


次は実験室です。
入口は二重扉になっており、室温や湿度の管理に注意が払われています。
主に劣化を最小限に抑えるための修理を行っている実験室では、文化財に優しく、修理の際に除去しやすい糊を用いるなど、将来に繋がる「修理のやり直しを考えた修理」が考えられています。
また、こちらで実際に使用されている澱粉糊ですが、実は研究員の手作りなのです。
館内で配布中の東京国立博物館ニュース(4-5月号)に、その糊炊きについての記事が掲載されていますので、ぜひお手にとってご覧ください。

浮世絵の修理について
浮世絵の修理について詳しく説明しています


最後は現在、老若男女から注目の集まる刀剣です。
刀は鋼から作られた武器ですが、表面に処理を施す際など、案外脆い側面もあります。
温度や湿度の管理だけでは刀剣は錆びてしまうため、保存する際は油を塗って、空気を遮断します。
しかし油は常に空気と触れているので、一定期間をおいて新しい油を塗り直さなければなりません。
今回は刀剣の古い油を拭き取り、新たに塗り直す作業を見学しました。
トーハクが所蔵する約900件の刀剣一本一本は、こうした定期的な手入れを経て、みなさんにご覧いただいているのですね。

刀剣の手入れ
細心の注意を払いつつ行われる手入れ


バックヤードツアーは、参加者の方に実際の作業現場に入っていただき、普段は見ることのできない博物館の仕事を見学していただくことが醍醐味です。
どの部屋でも興味深く研究員の話に耳を傾け、積極的に質問をされていたのが印象的でした。
それぞれの現場で研究員が熱意を持って、文化財の保存や修理に取り組んでいることが伝わったのではないかと思います。

ただいま本館 特別1室では
特集「東京国立博物館コレクションの保存と修理」(2016年3月16日(水)~4月24日(日))を開催中です。

本館17室では、「保存と修理」のテーマで通年の展示も行っています。
この機会にぜひ足を運んでみてください。

本館17室の展示

また、17室には募金箱があります。こちらに寄せられた募金は、文化財の保存・修理にあてられます
皆様のお気持ちで、文化財を未来に伝えることができることに感謝いたします。

募金箱


作品を鑑賞することには、その作品が持つ魅力を自身の目で見て知ることができる楽しさがあると思います。
しかしそれだけではなく、その文化財が長い年月を過ごしてこられたのも、様々な人々が後世へと伝える努力をしてきたからであり、それらが今、目の前に存在しているのだと思いを巡らせる瞬間が、私はとても好きです。
保存と修理の現場は表舞台には出てきませんが、今回ツアーに同行したことでとても勉強になったと同時に、文化財の保存や修理について少しでも関わっていきたいと思いました。
 

カテゴリ:教育普及催し物保存と修理

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posted by 渋谷久美子(広報室インターン) at 2016年03月26日 (土)

 

ひいな遊び―立雛(たちびな)を作ろう!―

あかりをつけましょ ぼんぼりに~
お花をあげましょ 桃の花~♪

去る2月20日(土)、トーハクではファミリーワークショップ「ひいな遊び―立雛を作ろう!―」が開かれました。雛祭りを前にして、自分オリジナルの立雛を作ってみようという企画です。午前中は親子を対象に、午後は大人だけを対象にして2回開催致しました。
おひなさまというと、初節句にお店で買ってくるイメージですが、江戸から明治にかけては紙や織物で立雛を作ることが女の子の間で行われていました。自分より年少の子供に遊び道具としてお人形を作り与えることは、お裁縫の稽古にもなったことでしょう。
そもそも雛祭りの源流のひとつは、平安貴族の子どもたちが行った「ひいな遊び」に遡ります。これはミニチュアの建物や家具、そして人形を使ったオママゴトであったと考えられます。やがて時代はくだり、江戸時代の初期になると男雛・女雛のおひなさまを女の子のため3月3日に飾る風習が生まれます。
初期のおひなさまは立雛とよばれる男女一対の紙人形で、今回モデルとした「古式立雛」(江戸時代・17~18世紀)もその一つです。ペラペラの薄い作りで立たせることが難しく、手に持って遊ぶ「ひいな遊び」の流れを受けたものでした。素朴な人形であるだけに、遊びを通じた人形と子どもの本来的なありかたを伝えています。


古式立雛   江戸時代・17~18世紀
特集「おひなさまと日本の人形」(2016年3月1日(火)~4月10日(日)、本館14室)にて展示

ワークショップは好きな色の厚紙を選んでもらうところから始まりました。この厚紙に3種類の版をつかって模様を摺り、切ったり折ったりして胴体を作っていきます。

好きな色の厚紙を選ぶ


教育普及室の室員とボランティアさんをスタッフとして、立雛製作を事前練習した成果をアドバイスに活かしつつ、みなさんおしゃべりも楽しみながらワイワイ製作しました。

ワークショップの様子


胴体製作で特に難しいのが男雛の袴作り。スーツにビシッと入った折目はカッコイイものですが、同じように袴にも折目を入れ、男らしさを演出します。袴の折り方は言葉で説明しづらく、みなさん見本をみながら悪戦苦闘でした。
そして何といっても一番の難関は頭(かしら)作りです。今回のワークショップでは120度の熱で焼き固める粘土を使ったのですが、焼くのに30分かかるため、頭の形は10分ほどで仕上げて頂きました。講師の私に急き立てられながら、大焦りでの製作です。
そして頭の色塗り。あらかじめ白色で下地を塗った上から、髪や目鼻を描いていきます。お顔を描くのは一発勝負であるなか、「お人形は顔が命!」とプレッシャーをかけられ、これも10分ほどで仕上げていただきました。なにせ2時間のワークショップで模様の刷りから胴体の組み立て、頭作りまでするから大変です。

男雛の袴作り


最後に完成した立雛を緋毛氈のうえに一同に並べて鑑賞会。同じ方法で作ったお人形ですが、色の組み合わせや表情に強く個性があらわれ、世界にひとつの可愛らしい立雛が生まれました。みなさんとても楽しそうに製作を進められ、企画した側としても大満足のワークショップでした。

みなさんの作品


後片付けも終わり、早速できあがった立雛を小さな自宅に持って帰って、神棚の前に飾ってみました。気の強そうな女雛は妻に似ているような・・・、といって怒られた私です。もうすぐ雛祭りですね~♪

自宅に飾った立雛



*東京国立博物館本館14室では3月1日(火)ら4月10日(日)の会期で特集「おひなさまと日本の人形」が開かれます。また今回、展示に合わせ『東京国立博物館セレクション おひなさまと日本の人形』が出版されました。みなさまのご来場を心よりお待ち申し上げます。
 

おひなさまと日本の人形
東京国立博物館セレクション 「おひなさまと日本の人形」
三田覚之著
発行:東京国立博物館
定価:1200円(税別)
東京国立博物館ミュージアムショップで販売中
 

カテゴリ:研究員のイチオシ教育普及特集・特別公開

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posted by 三田覚之(教育普及室・工芸室研究員) at 2016年02月24日 (水)

 

声が見えたら、何か変わるかもしれない

トーハクに勤めて何年かした頃、私はふと気づきました。
聞こえない人には私たちの声を伝えられていない、と。
音声ガイドや講演会、ギャラリートークなど、博物館側はみなさんに様々なサービスや情報を、音声を通して提供し、博物館や文化財の魅力を伝えています。
でも、その声を届けられていない人たちがいることは悲しく、寂しく、悔しいことです。

作品には解説文もついているし、見えているからいいじゃないか。
そんな意見もあるかもしれません。
でも、聞こえないために使えないというサービスを使えたら、もっと鑑賞が深まり、楽しめるかもしれません。
そのチャンスはあるべきだと思うのです。

手話通訳をつければいいじゃないか。
そうおっしゃる方もいるでしょう。
でも、手話をコミュニケーション手段としているのは聴覚障害者全体の約2割。
手話は手の動きにだけでなく表情なども合わせて表現していること、専門用語を伝えるための手話がないということもあり、手話通訳をつければ万事解決とはいきません。

どうしたら伝えられるだろう。どうしたら博物館を楽しんでもらえるだろう。
残念ながら、聞こえない方を対象とした、博物館での鑑賞に関する先行研究はほとんどありません。

声は見えません。
でもその声がもしも見えたら・・・

様々な方に協力いただきながら検討をすすめるなかで、音声認識技術を使ったアプリのテストをしましたのでご報告します。

音声認識技術は、聞こえない人、聞こえにくい人と、聞こえる人がコミュニケーションを行うとき、聞こえる人の声を文字に変換するものです。
実はこの音声認識技術を用い、話した内容がパソコンやタブレット、スマートフォンといった端末画面に、文字として出てくるアプリが開発されているのです。
これは手話や要約筆記を補完する新しいコミュニケーションツールとして、また手話を使わない聴覚障害者にも広く使われています。
私がこれを知ったのも、実際に活用している聞こえない方からの紹介でした。

端末
専用アプリの画面
 
テストは体験型ワークショップ「能の裏側体験!」(2015年9月12日)、月例講演会「日本美術が面白くなる様々な見方」(2015年10月10日)の2回行いました。
音声認識ソフトの有用性についてのテストとなりました。
それぞれ聞こえない方にモニターとして参加していただき、音声認識技術を用いたアプリの有用性を検証しました。

講師の声はほぼリアルタイムで文字化されます。
もちろん誤変換もありますが、スタッフがパソコンで修正すればすぐに全端末に反映されます。
つまり、従来の手話や要約筆記などのコミュニケーションツールの課題であった情報を得るまでのタイムラグがかなり解消されました。

映写室
講演会会場の映写室にて端末を操作
 

体験型ワークショップ「能の裏側体験!」で、いくつかの課題が明らかになりました。
ひとつは展示室での作品鑑賞の際に、本館展示室のネットワーク環境の問題により機能が一時とまってしまうというアクシデント。これはトーハクスタッフのノートテイク(筆記通訳)で乗り越えました。
さらに、能の動きを体験するときには、タブレット端末を自身で持つことが出来ないので、スタッフが代わりに持ち、手話などを交えてフォローしました。
 
能の裏側体験ワークショップ
体験型ワークショップ「能の裏側体験!」より展示室での鑑賞(左)、動きの体験(右)での様子

移動をしたり、体験したり、という場面ではまだまだ工夫が必要です。
一方、座学形式の講演会では、他の参加者の皆様のご理解もあり、大きな問題もなく、このツールの有用性が確認できました。

とはいえ、端末を確認してから、会場に投影された画像を見るという煩雑な視線移動が必要であることに変わりはありません。話者の声色の変化、抑揚などを伝えるのは難しい部分もあります。また、文章を読み書きすることが苦手な聴覚障がい者もいるため、文字化だけですべて解決ともいえません。

モニターのアンケートに書かれた感想です。
「文字表示の速さ、忠実さ、ほぼ発言通りの内容にとても快適さを覚えた。機器も軽く薄く持ち運びしやすかった。文字の大きさも自由自在で自分の好みに換えられて便利だった。移動も容易であることがありがたい。人間を介しないので気を遣わなくてすむのが一番助かる。」
「以前から興味のあった能の世界に触れることができ、大変楽しませていただきました。」


声は見えないものです。
見えない声を見えるようにしたことで、多くの人と共有できる情報や学び、楽しみがある。それを利用すれば、聞こえない人たちにとっての博物館は変わることができるかもしれない。
聴覚障がい者だけでなく、高齢者や日本語学習者などにも有用である可能性もあるでしょう。
情報保障サービスの本格導入にはまだまだ課題があります。
すべてのひとに楽しんでいただける博物館を目指し、一歩一歩進んでいきたいと思っています。
 

カテゴリ:教育普及

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posted by 川岸瀬里(教育普及室) at 2015年10月22日 (木)