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1089ブログ

海の道をジャランジャラン

スラマッパギ(おはようございます)。調査研究課の今井です。
恒例となった「博物館でアジアの旅」、5回目の今年のテーマはインドネシア、「海の道 ジャランジャラン」(9月4日~30日)です。
ジャランジャランはインドネシア語で散歩といった意味です。


バティックのインドネシア地図

突然ですが、皆さんは東洋館地下の展示室に足を運んだことはございますか?


東洋館13室の展示風景

自分と向き合うにはうってつけのスペースです。
静かです。
とにかく静かです。
・・・まったく静か過ぎます。

かつて、東洋館地下には特別展用の会場がありました。
平成25年(2013)1月に東洋館をリニューアルオープンするにあたり、地下の展示室も東洋館の展示体系に組み込むことになりました。

東洋館は1階の吹き抜けに中国の大型の石像彫刻、2階からはガンダーラ、西アジアからいわゆるシルクロードに沿って、西から順に東に向かう構成となっています。
しかしながら、アジアにおいて文化が行き交った道は陸路のシルクロードばかりではありません。
そう、もう一つ「海の道」があるのです。
そこで、東南アジア地域の美術、工芸、考古を地下に展示することになりました。

インドネシアは東南アジア海域の中核に位置します。赤道にまたがる13,000以上の島々からなり、東西5,000キロ以上、人口は2億6,000万人以上、300もの民族からなります。
世界最大のムスリム人口を擁する国ですが、そのほかプロテスタント、カトリック、ヒンドゥー教、仏教なども信仰されています。
そのため、「多様性の中の統一」が国是となっています。

この海域では、古来、人とモノの活発な往来があり、各地に起源をもつ文化と土着の文化とが融合して、活力に満ちた独自の文化を形作ってきました。文化の坩堝(るつぼ)というより、「大鍋」といったイメージかもしれません。
世界遺産に登録されている中部ジャワのボロブドゥルは仏教遺跡、プランバナンはヒンドゥー教の遺跡です。
また、クリス(短剣)、ワヤン人形劇、バティック(ろうけつ染め)は、ユネスコの無形文化遺産に登録されています。

今年は1958年に日本との国交を樹立してから60周年を迎えます。
近年経済的な結びつきがとみに強まっている両国ですが、文化の面での理解と友好をいっそう深めるために、インドネシアで生み出されたさまざまな文化財のほか、この海域を行き交った交易品としての中国陶磁、ベトナム陶磁などをご紹介します。
この機会に、東洋館地下の展示室にもどうぞご注目ください。

それでは、サンパイジュンパラギ(またお会いしましょう)。

博物館でアジアの旅 海の道 ジャランジャラン
東洋館 2018年9月4日(火)~9月30日(日)

 

カテゴリ:研究員のイチオシ博物館でアジアの旅

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posted by 今井敦(調査研究課長) at 2018年08月27日 (月)

 

ナイト・ミュージアム 親子で東洋館探検!

東洋館では現在、「博物館でアジアの旅(マジカル・アジア)」(~2017年10月15日(火))が開催中です。
アジアのおめでたいもの、魔除け、呪いなどの不思議なパワーにまつわる作品、マジカル作品を展示しています。

このイベントに関連して、2017年9月18日(月)にファミリー向けワークショップ「ナイト・ミュージアム 親子で東洋館探検!」を開催しました。

台風の影響で、当選した参加者のみなさんはどれくらい集まっていただけるのかとても心配でしたが、当日は台風一過! 暑いくらいの陽気の中、26組72名のみなさんにお集まりいただきました。

みなさん始まる前からワクワク! 集合時間よりも早く集まってくださっているご家族や、クリップボード持参でご参加いただいた方もいらっしゃいました。

まずは探検前にガイダンス。
東洋館の紹介や館内でのお約束をみんなで確認しました。
合言葉は、ごえんだま。

【ご】ごくごく飲み物のめません。

【えん】えんぴつをつかいましょう。

【だ】ダッシュはしないで、ゆっくりと。

【ま】まぶしい!フラッシュ禁止!


合言葉をみんなで確認したら、いよいよ東洋館へ出発です!

誰もいなくなった閉館後の東洋館。
展示室はシャッターが閉まっていたので、係の方に開けてもらいました。
ところが、展示室は真っ暗!


閉館後の展示室は真っ暗

ここで先ほど確認した合言葉が登場です。
みんなで合言葉の【ごえんだま】を言ってみると… 展示室の電気がつきました!

さっそくマジカル作品が集まっている3階の5室へ移動開始です。
5室に到着してみると、閉館したはずなのに何やら人影が…
声をかけてみると、マジカル・アジアに展示されるはずの作品「銭剣(せんけん)」を運んできたが、行方が分からなくなって困っているとのこと。


清時代の衣装を着ている人、オロオロしています

銭剣を探し出すために、館の住人“Mr.東洋館”から出題されたミッションにみんなで挑戦です!

1つ目のミッションは「マジカルアニマルを探せ!」
5室で展示されている作品の中から、ヒントの写真を手掛かりに動物を見つけだすというもの。
動物があらわされた作品を見つけたら、展示室マップに印をつけます。
ヒントの写真の順番に印を直線でつなぐと、次のミッションへのメッセージが表れるようになっていました。




印と印をつなげていくと、あるメッセージが

みんなで「10室にむかえ」というメッセージを見つけだせたので、5階10室に移動です。

10室ではMr.東洋館からの2つ目のミッションに挑戦です。
今度のミッションは2階から5階の7つの部屋を巡って、7つのマジカル作品を見つけだすというもの。
渡されたミッションシートはA・B・Cに分かれていて、家族ごとに探す作品が異なっていました。
写真の作品を見つけたら、シートの空欄に、作品名をひらがなで書き込みます。


マジカル作品をみつけて、書き込みます

その中から一文字ずつつなげると…
Aシートの答えは、「ちかつきあたり。
Bシートの答えは、「じゆうさんしつ。
Cシートの答えは、「からさがしだせ。
それぞれの答えをつなぎ合わせると、「地下つきあたり、13室から探し出せ」というメッセージになりました!
みんなで力を合わせたことで銭剣のある場所が分かりました。

銭剣の場所が分かったので、地下の展示室を探検です!
みんなで地下へと向かいますが、展示室の電気は消えたまま。
最初に確認した合言葉【ごえんだま】をみんなで言ってみると… 電気がつきました!
階段を降り、地下のつきあたり13室へと進みます。

13室につくとすぐに銭剣を発見!


銭剣 清時代・19世紀 農商務省北海道事業管理局寄贈
お金を赤い糸でつなぎ合わせて剣の形にしたもの。悪いものをはらう力があると考えられていました。映画『霊幻道士』では妖怪キョンシー退治で登場します


すると、これまで声だけの登場だったMr.東洋館が姿を現しました。


Mr.東洋館の登場!

Mr.東洋館が、銭剣や一緒に展示されているマジカル作品、そして博物館の役割について語ってくれました。
無事に銭剣が見つかって、清の衣装を着た人も一安心。
「銭剣をみつけてくれて、ありがとう!」と言っていました。

夜の博物館探検は、普段なかなか体験できないもの。
ちょっぴり遅めの時間でしたが、みなさんそれぞれに楽しんでいただけた様子。
ご参加いただきありがとうございました!

「おほん。また、ナイト・ミュージアムでお会いしましょう!」 Mr.東洋館より 

博物館でアジアの旅(マジカル・アジア)は、2017年10月15日(日)まで開催中


ナイト・ミュージアムでみんなが探し出した銭剣をはじめ、不思議なパワーにまつわるマジカルな作品の数々を、まだまだご覧いただけます!

詳しくはこちら

 

 

カテゴリ:教育普及博物館でアジアの旅

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posted by 山口加奈子(教育普及室) at 2017年09月27日 (水)

 

特集 唐三彩

たっぷりと大きく、堂々とした姿。
それでいて洗練された雰囲気をも漂わせる「唐三彩」。


重要文化財 三彩貼花龍耳瓶 唐時代・8世紀 横河民輔寄贈
20世紀初頭に日本にもたらされたもので、建築家横河民輔が手に入れました。日本所蔵の唐三彩作品のなかでも最高峰と称えられる名品です。


轆轤(ろくろ)挽きの高度な技術に基づいたのびやかなかたち、釉薬の鮮やかな発色、そして複雑で華麗な装飾文様の美しさ。
やきものの魅力を存分にそなえているのが、「唐三彩」ではないでしょうか。

東京国立博物館には、この三彩貼花龍耳瓶を含め、世界有数の唐三彩コレクションが収蔵されています。
今回の特集「唐三彩」では、ふだん青銅器を陳列している大きな曲面ケースを使って、写真のような大型の作品も、360度どの方向からもたっぷりとお楽しみいただける展示になっています。


三彩馬 唐時代・7~8世紀 横河民輔寄贈


三彩駱駝 唐時代・7~8世紀 横河民輔寄贈


三彩鎮墓獣 唐時代・7~8世紀 横河民輔寄贈

あれ?
馬にラクダ、人面の怪獣・・・? いったい何に使うやきもの?
と、不思議に思った方もいらっしゃるかもしれません。

これらは、唐のお墓に納められたものです。
唐王朝がもっとも繁栄した7世紀後半から8世紀中葉の頃。
当時を生きた皇族や貴族など上流階級者の墓から、まさにいま東洋館5室に並んでいるような、鮮やかな三彩の俑や明器(副葬品)が大量に見つかっています。

そう、唐三彩はおもに墓に埋葬するためにつくられたもの。
ポーズをとり、生き生きとした表情を見せる俑や動物などは、彫塑としての技術の高さも見事です。
これらが、多い場合には100~200体も並べられる墓葬なんて、現代の私たちには想像もつきませんね。

古代より中国では、死後の世界は現世の延長であると考えられてきました。
なかでも、秦の始皇帝(紀元前259~紀元前210)がつくらせた8000に及ぶともいわれる兵馬俑は象徴的です。
2年前に開催された特別展「始皇帝と大兵馬俑」はご記憶に新しいでしょう。
始皇帝は死後の世界でも強大な権力を永遠に、という願いをもって、史上稀にみる巨大な陵園と地下施設、大量の俑をつくらせたといわれています。
(1089ブログ 「始皇帝と大兵馬俑」研究員のオススメ1

唐三彩の俑もまた、死者の霊を守り、安寧を願って、墓門や墓室の中に置かれたものですが、実在の兵士たちをそのままに再現したと考えられている秦の兵馬俑の高い写実性に対して、鮮やかにいろどられた唐三彩の俑や動物たちはちょっと俗っぽい感じがしませんか?
威嚇するような表情も怖くないし、そういえばどこかで見たような・・・


三彩武人 唐時代・8世紀
三彩の武人をみて私がいつも思い出すのは、奈良の古寺で会うことができる「四天王」たちです。学生時代に仏像の勉強をしていた私にとって、奈良の仏像は心の拠りどころ。
暑さも落ち着いてきましたし、旅にぴったりの季節がやってきましたね。そうだ、奈良へ・・・
あ! この秋はここトーハクでも素晴らしい奈良の仏像たちに出会えます!!
→ 特別展「運慶」


そして、唐三彩がつくられて優に1000年以上が過ぎた20世紀初頭。
鉄道敷設工事にともなって古代の墓が相次いで発見され、再び唐三彩は地上に姿を現し、世界の人々の目にふれることになりました。

その頃、コレクターのあいだでは、地下に埋められた墓の副葬品を忌み嫌って敬遠する向きもあったそうです。
一方で、日本人のなかにこぞって唐三彩を収集する人たちが現れました。わが国を代表する東洋陶磁収集家の横河民輔(1864~1945)はその中心的な人物です。彼らは、原色の鮮やかな釉やどこか親しみある姿かたちに、華やかな唐時代の遺風をより敏感に感じ取ったのではないでしょうか。

皇族クラスの貴人墓から出土したと推測される第一級の唐三彩たち。
ぜひこの機会に、横河民輔寄贈品を中心とする名品の展示をお楽しみください。

特集 「唐三彩」
東洋館 5室 2017年9月5日(火) ~ 2018年2月4日(日)

造形、装飾ともに卓越した技術で発展をとげてきた中国陶磁。なかでも人物や動物を生き生きと表し、また緑、黄、藍、白など鮮やかな色彩で観る者を惹きつける唐三彩に注目します。「博物館でアジアの旅(マジカル・アジア)」に合わせて、人物や空想上の動物、家畜などの姿を表わした明器を中心に、幅広く親しまれた唐三彩の発生から展開をたどり、その魅力を多面的に紹介します。

 

 

カテゴリ:研究員のイチオシ特集・特別公開博物館でアジアの旅

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posted by 三笠景子(平常展調整室) at 2017年09月19日 (火)

 

チベットの仏像と密教の世界

彫刻担当の西木です。

突然ですが、みなさん「チベット」と聞いたら何が思い浮かびますか?

ヒマラヤに代表される山々、青い空、金色に輝く仏像・・・

“え、仏像?” と思われた方!
チベットといえば、そう仏像です!
日本ではなかなかまとまって見る機会が少ないチベット仏教の仏像ですが、今なら特集「チベットの仏像と密教の世界」(2017年9月5日(火)~10月15日(日))でご覧いただけます。


東洋館12室の特集展示の様子

インドに生まれた仏教ですが、中世以降はヒンドゥー教やイスラム教に押され気味で、さまざまな地域に活路を見出そうとしていました。その一つが、チベットです。
もともとチベットにはボン教という民間宗教はありましたが、仏教のように教義や制度が充実した宗教はなく、またたく間に広まっていきました。

仏教が伝来した時のことを想像してみてください。
チベットの人々の目を惹いたのは、金色に輝く仏像です。


菩薩坐像 中国・チベットまたはネパール 15~16世紀

チベット仏教は、ヒンドゥー教の影響を受けたインド仏教を継承しているため、日本や東アジアでは見慣れない仏が数多く含まれます。
たとえば、このチャクラサンヴァラ父母仏立像をご覧ください。


チャクラサンヴァラ父母仏立像 中国・チベットまたはネパール 15~16世紀 服部七兵衛氏寄贈

姿が少し分かりにくいかもしれませんね。これではどうでしょう?

 
チャクラサンヴァラ父母仏立像、その頭部

なんと、男女が抱き合った姿です。
チャクラサンヴァラと呼ばれる仏が男性で、自身の前にその妃を抱いています。妃は右足を男性にからめていますね。
艶めかしい手足もあいまって、なんともエロティックな造形ですが、この姿はチャクラサンヴァラが主宰する曼荼羅の世界を構成する仏たちを生み出すための神聖な場面といえ、これを父母仏(ヤブユム)と呼びます。

ご注目いただきたいのは、この他にも女性の姿が多く見られる点です。
たとえば、悟りを開いた姿の如来といえば、日本では男性の印象が強いですが、チベット仏教では仏母と呼ばれる女性の仏が人気でした。


仏頂尊勝母坐像 中国 清時代・17~18世紀

楽しそうに踊っているように見えるこの二人、ダーキニーと呼ばれる強い呪力をもつ仏をご覧ください。

 
虎面母立像 中国 清時代・18~19世紀

 
マカラ面母立像 中国 清時代・18~19世紀

乳房が揺れ、女性であることは明らかですが、顔が虎や怪魚であることはもちろん、じつは人間の皮をまとっているという、恐ろしい姿をしています。
そういえば、さきほどご覧いただいたチャクラサンヴァラも髑髏(どくろ)や生首をネックレスやスカートにしていましたね。

女性尊が強い力をもつと考えられるようになった背景には、インドで広まった女神信仰があります。
もともと、ヒンドゥー教においては女神も男神の配偶者として登場しますが、中世(7~8世紀ごろ)になると女神の力が強まり、いつしか男神を圧倒するようになりました。
ヒンドゥー教や、そのもとになったバラモン教が広まるはるか昔から、インド各地で信仰されていた女神たちが再び注目されるようになった、そう考えられています。

加えて、煩悩を悟りに昇華させるという密教ならではの特色も、女性尊が強まった要因の一つといえます。
チベット密教の修行においては、最大の煩悩の一つである性欲を悟りにつなげるため壮絶なプロセスが想定され、これに女性尊が不可欠と見なされるようになったのです。
なかでも、最強の仏とされるのが、ヴァジュラバイラヴァ父母仏です。

 
ヴァジュラバイラヴァ父母仏立像 中国 清時代・17~18世紀 東ふさ子氏寄贈

ヴァジュラバイラヴァとはもともと、死神のヤマをも滅ぼすヤマーンタカという仏のうちの「恐るべき忿怒尊(ふんぬそん)」を意味します。ヤマを表わす水牛の顔、最上段には文殊菩薩の顔があり、倒した敵を浄土へ導くといわれます。
あまり深入りしないよう、このあたりで止めておきますが、これほど女性尊を魅力的に表わすものは、チベット仏教をおいて他にありません。

ただし、今回ご覧いただける仏像は、展示会場の冒頭に展示されている下の2体を除いて、じつはチベットで造られたものではありません。


菩薩坐像

チャクラサンヴァラ父母仏立像

チベット仏教は、その完成された思想や信仰形態によって周辺地域へ普及していき、モンゴルや中国にもその影響は及びました。
とりわけ、元や清といった王朝におけるチベット仏教への信仰は篤く、ネパールやチベットから僧や職人が当時の首都(現在の北京)に招かれ、チベット仏教寺院の建造が相次ぎ、仏像も数多く制作されました。

東京国立博物館に所蔵されるチベット仏教の仏像も大半は、清時代(17~19世紀)に北京周辺で造られたものであることが調査によって判明しました。


無量寿仏坐像 中国 清時代・17~18世紀

白色ターラー菩薩坐像 中国 清時代・17~18世紀

とはいえ、いずれも皇帝の周辺で制作された非常に質の高いものばかりで、下の写真のように「大清乾隆年敬造」と清朝第6代乾隆帝(在位1735~95)が造らせたと分かるものも含まれるなど、大変貴重な遺品といえます。

 
除蓋障菩薩坐像(八大菩薩のうち) 中国 清時代・18世紀

チベットの仏像は、中国の皇帝をも魅了してきたのです。

ちなみに、これまで東京国立博物館にチベット仏教の仏像が所蔵されることはあまり知られていませんでしたが、このたびの特集は、チベットの仏像をご専門とされる公益財団法人東方学院の田中公明先生と一緒に調査をした成果の一部をご報告するものです。
その正確な名称や特色について、初めて明らかになった仏像も少なくありません。

ぜひこの機会に、標高3,000メートルともなる中央チベットで育まれた、チベット仏教で信仰されてきた魅惑の仏像をご覧いただき、その世界に思いを馳せていただければ幸いです。

リーフレットを作成しました。
会期中、東洋館1階インフォメーションで配布しておりますので、ぜひお手に取ってご覧ください。

特集「チベットの仏像と密教の世界」の紹介ページでPDFをご覧になれます。

 

 

カテゴリ:研究員のイチオシ特集・特別公開博物館でアジアの旅

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posted by 西木政統(貸与特別観覧室) at 2017年09月15日 (金)

 

トーハクでマジカル・アジア、始まります!

東洋館の秋フェス「博物館でアジアの旅」が、今年も始まります!
今年のテーマは「マジカル・アジア」(トーハクらしからぬ? キャッチーなタイトルですね)。

  

そして、やはりトーハクらしからぬ(?)ポスターとチラシです。
チラシに掲載された「呪いのわら人形」が一部で話題になっているようですが、
そもそも「マジカル」って何でしょうか?
今回のブログでは、そのあたりをご紹介いたします。

「マジック」と聞くと、手品ショーを思い浮かべるかもしれませんが、 ここでは魔術、呪術、不思議な力という意味の「マジック/magic」です。
魔術となると、今度は怪しげな呪術師の世界を想像してしまいますが、 実は私たちの日常にも「マジカル」な振る舞いは存在します。

「下の乳歯が抜けたとき、屋根に向かって投げました。」

「遠足の前日に、てるてる坊主を吊るしました。」

「大事な試合の日に、かつ丼を食べました。」

ある行為とその結果の関係がはっきりしていなくても、なんとなく信じてやってみる、希望的な願いを込めてやってみる。
このような経験におぼえがありませんか。
こうした習慣やゲン担ぎも、「マジック」ととらえることができます。

健康を維持し、災厄から身を守ろうとするとき、特に、現在のような形で科学や医学の知識が広まっていない社会の人々にとっては、「マジック」が必要不可欠かつ現実的な手立てでした。
東洋館に展示されている作品の多くには、アジアの人々の「マジカル」な願いと行為が込められています。

いくつかご紹介いたします。


鬼瓦
韓国慶州四天王寺跡出土 統一新羅時代・7~8世紀
(東洋館10室 2017年11月5日(日)まで展示)

パズズ像頭部
イラク カッシート王朝時代・前2千年紀後半
(東洋館3室 2017年10月22日(日)まで展示)


韓国、統一新羅時代の鬼瓦と、古代メソポタミアの悪霊パズズ。
双方ともに、インパクトのあるルックスで邪を払い、災難や病気を遠ざける力があるとされました。
このような魔除けアイテムは古今東西の社会で見ることができます。
「マジカル・アジア」でも各地の魔除けアイテムを展示します。


神官のシャブティ
エジプト出土 末期王朝時代・前664~前332年頃 百瀬治氏・富美子氏寄贈 エジプト出土 末期王朝時代・前664~前332年頃
百瀬治氏・富美子氏寄贈

(東洋館3室 2017年10月22日(日)まで展示)

三彩鎮墓獣
中国 唐時代・7~8世紀 横河民輔氏寄贈
(東洋館5室 2018年2月4日(日)まで展示)


シャブティは古代エジプト人が来世でいい暮らしをするためのアイテム。
呪文によって動き出し、あの世での労働を肩代わりしてくれる人形です。
鎮墓獣は、墳墓内の死者と副葬品を守護するために納められました。
このように、死後の幸せや安寧を願って制作された作品にも注目しています。

極めつけは、やはり「呪いのわら人形」でしょう。
上野公園のイチョウの樹に打ちつけてあったのを、当時の帝室博物館の職員が採集した資料です。


呪咀人形
東京上野公園発見 明治10年(1877)
(東洋館12室 2017年10月15日(日)まで展示)


誰かを恨んで、マジックによってその人を貶めようとしたのでしょうか。
現状の資料には6本の釘が確認できますが、記録によれば7本の釘が刺さっていたとのこと。上野公園のイチョウの古木に今でも刺さっているかもしれませんね。

さて、「マジカル・アジア」は、東洋館で行われている3本の特集(5室「唐三彩」、12室「チベットの仏像と密教の世界」、13室「アジアの祈り」)と、その他の展示室で注目作品が展示されています。
めずらしい、ちょっとマニアックな作品・資料を見ていただく貴重な機会となっておりますが、実は、今回焦点を当てた作品・資料の大部分は普段から東洋館に展示されているものです。
「マジック」という視点とツアーやイベント等をとおして、普段の東洋館をより楽しんでいただけましたら幸いです。

最後に宣伝を。
「マジカル・アジア」のガイドブックが刊行されています!

博物館でアジアの旅 マジカル・アジア
500円(税込)
ミュージアムショップで販売中


マジカルな資料の面白さを、読みやすいかたちにまとめた冊子です。
ぜひお手に取ってくださいませ。

 

カテゴリ:研究員のイチオシ特集・特別公開博物館でアジアの旅

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posted by 小野塚拓造(東洋室) at 2017年09月04日 (月)