このページの本文へ移動

1089ブログ

書を楽しむ 第33回「松花堂昭乗「長恨歌」」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第33回です。


松花堂昭乗(しょうかどう・しょうじょう、1584~1639)。

江戸時代初期の能書(のうしょ、書の上手い人)で、
「松花堂弁当」の器の語源となっている人です。
松花堂昭乗の絵具入れ(パレット)のかたちを
参照して作ったのが、松花堂弁当です。

その松花堂昭乗の「長恨歌」(ちょうごんか)を
現在、本館8室に展示しています。

長恨歌(巻頭)
長恨歌(巻頭) 松花堂昭乗筆 江戸時代・17世紀 (本館8室にて4月7日(日)まで展示)

「長恨歌」は、
中国・唐時代に白楽天(はくらくてん、または白居易)が作った詩です。
楊貴妃(ようきひ)と死別した玄宗皇帝(げんそうこうてい)を題材にしています。

このブログ「書を楽しむ」第9回でも触れましたが、
平安時代に白楽天の詩集『白氏文集』を書写することが流行しました。
白楽天の詩は、江戸時代にも好まれたようですね。


展示ではそこまで開いてませんが、
巻末の写真をご紹介します。

長恨歌(巻末)
長恨歌(巻末)

巻末の奥書(おくがき)に、
近衞信尋(このえ・のぶひろ、1599~1649)に頼まれて書いたとあります。
五摂家の筆頭である近衞家とは、
松花堂昭乗は親しく交流していたそうです。


ほかに、こんな写真も。

国宝竹生島経_巻末
国宝 法華経 方便品 (竹生島経)巻末 平安時代・11世紀(特別展「和様の書」(2013年7月13日(土)~9月8日(日))で展示予定)

当館で所蔵する国宝「竹生島経」の巻末です。
違う紙を継ぎ足して、松花堂昭乗が跋文を書いています。
この竹生島経の筆者が、源俊房であると、
松花堂昭乗は述べています。

松花堂昭乗は、平安時代などの古い書を
よく勉強していました。
だから、鑑定のようなこともできたのでしょう。

「長恨歌」を書いたのも、
平安時代に好まれた白楽天の詩だから、かもしれません。

いろいろと連想しながら、
「長恨歌」を、お楽しみください。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

| 記事URL |

posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2013年03月13日 (水)

 

書を楽しむ 第32回「短冊」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第32回です。

短冊(たんざく)、というと、
一番身近なのは、七夕でしょうか。
7月7日、
笹の枝に、願い事を書いた短冊を結びつけましたよね。

いま、本館3室で、
短冊をたくさん貼り付けたアルバム、
「短冊手鑑」を展示しています。

短冊手鑑
短冊手鑑  鎌倉~江戸時代・14~18世紀(本館3室・宮廷の美術にて 2013年3月24日(日) まで展示)

ひとつひとつの短冊に装飾がされていて、
きらびやかです。



短冊の右側には、
小さめの紙に人の名前が書いてあり、
これを極札(きわめふだ)と呼びます。
筆跡を鑑定する古筆家(こひつけ)が、
筆者名を書き、印(「琴山」) を捺しています。

短冊の一番上に書かれた大きい文字は、
和歌の題です。
その下に二行に分けて和歌が記され、
左下に和歌を詠んだ人の名前が小さく書かれています。
(天皇の短冊の場合、親王時代には名前を書きますが、
天皇になってからのものは署名をしません)

和歌の会では、
題名だけ書かれた短冊を渡されて、
その題に合わせた和歌を書きます。
だから、歌会での短冊の場合は、
題と和歌は、ちがう人が書いていることになります。


さて、この「短冊手鑑」は、
江戸時代の浦井有国(うらいありくに、1780~1858)が
編纂したものです。

浦井有国は、刀剣の柄糸(つかいと)を扱う商人ですが、
俳句や和歌を学んでいて、短冊収集に熱心でした。
そのため、
その時期の『甲子夜話』(かっしやわ)という本の中で、
浦井有国は「短冊天狗」(たんざくてんぐ)と呼ばれています。

「短冊天狗」、
なんだか、いい呼び名ですね。

「短冊天狗」の集めた「短冊手鑑」、
ぜひ御覧ください。

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

| 記事URL |

posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2013年02月27日 (水)

 

書を楽しむ 第31回「市河米庵の折手本」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第31回です。

特別展「書聖 王羲之」(~3月3日(日))、観ていただけましたか?

前回の「書を楽しむ」で、
王羲之の「蘭亭序」のお話をしましたが、
今回は、市河米庵(1779~1858)の「蘭亭詩」をご紹介します。

蘭亭詩
折手本蘭亭詩並後序 市河米庵筆 江戸時代・嘉永2年(1849) 加藤栄一氏寄贈 (2月24日(日)まで本館8室にて展示)

「蘭亭序」と「蘭亭詩」??
そのちょっとした違いに気付きましたか?

「蘭亭序」は、
王羲之が開いた曲水流觴の宴で、
各々の詩作の前文として王羲之が書いた序文で、
「蘭亭詩」というのは、
その時に詠まれた詩です。

市河米庵の「蘭亭詩」の王右軍(王羲之)の詩から、
気に入った部分を、エンピツで写しました。


(左)米庵の蘭亭詩より、(右)恵美のエンピツ写し

「乃」を力強くはらっていますが、
「携」は軽めで、筆の弾力を使って勢いよく書いています。
なにかの臨書をしたのではなく、
米庵自身の筆致でのびのびと書かれていて、かっこいいです。

市河米庵については、
このブログ「書を楽しむ」16回で、
米庵17歳と80歳で書いたふたつの「天馬賦」を
ご紹介しました。
今回の「蘭亭詩」は、捺された印章から、
米庵71歳のときのものであることがわかります。

これは、
弟子が手本として使いやすい、
折手本(おりてほん)という形式になっています。

幕末から明治、大正時代に作られた折手本は
たくさん残されていて、
私も先日、古本屋で、
明治時代の書家の折手本を
安く購入しました。

気に入った書の折手本を持つのは
特別な気持ちがします。

弟子が師匠の折手本を大切に伝えてきたように、
自分もなにか大切に伝えていきたいです。

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

| 記事URL |

posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2013年02月12日 (火)

 

書を楽しむ 第30回「ランテイジョ」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第30回です。

特別展「書聖 王羲之」が開催中(~3月3日(日))です。

私が注目しているは、「蘭亭序」です。
というのも、江戸時代の日本人で、
この「蘭亭序」を300回以上臨書した人がいるからです!

松崎慊堂臨「蘭亭序」、『慊堂日録』(1、東洋文庫169、平凡社、1970年)より転載
松崎慊堂臨「蘭亭序」、『慊堂日暦』(1、東洋文庫169、平凡社、1970年)より転載

これは、松崎慊堂(まつざきこうどう、1771~1844)が
臨書したものです。
松崎慊堂は、日記『慊堂日暦』の中で
「蘭亭序」を臨書したことを書いていますが、
最初のころは、一日に約一本のペースで臨書して、
最終的には、313本まで書いています。

なんでこんなに「蘭亭序」を臨書したのでしょう?
よくわからないけれど、私も触発されたので、
エンピツで臨書してみました。

恵美「蘭亭序」臨書

画像は「蘭亭序」の一部です。
「蘭亭序」全324文字をしっかり写したため、
1時間30分もかかりました…。

「蘭亭序」は、
王羲之が永和9年(353)に会稽山の山陰の蘭亭で開いた
曲水流觴の宴(曲がりくねった水路にさかずきを流しながら詩を読む遊び)
で書いた序文です。
王羲之が実際に書いたものは、
唐の太宗皇帝の墓に副葬されて残っていません。
でも、唐時代に多数の模写が作られたり、能書によって臨書されました。
それをもとに石に刻まれて、さらに拓本になって、
たくさんの「蘭亭序」が残されています。

特別展「書聖 王羲之」でも「蘭亭序」はたくさん並んでいますよね。

恵美が臨書したのは、「神龍本」と呼ばれる「蘭亭序」です。
ほかに「定武本」と呼ばれるものも有名です。

定武蘭亭序-呉炳本-
定武蘭亭序-呉炳本- 王羲之筆 原跡=東晋時代・永和9年(353)  東京国立博物館蔵(特別展で展示中)

日本でも古くから王羲之の書は尊重されてきました。
それに加えて、
曲水流觴の宴で書かれた「蘭亭序」は、
古くから日本の年中行事として行われていた曲水宴と関連して、
とくに親しまれてきました。

江戸時代の作品にも、
「蘭亭序」を題材にした書や絵画が、たくさん残されています。


蘭亭序・蘭亭曲水図屏風 東東洋筆 江戸時代・文政10年(1827) 東量三氏寄贈(2月24日(日) まで本館8室にて展示中)


蘭亭曲水図屏風 与謝蕪村筆 江戸時代・明和3年(1766) 東京国立博物館蔵( 2月13日(水)~特別展にて展示予定)

いろいろと「蘭亭序」に関わる作品を見たり、
臨書したりしているうちに、
松崎慊堂が300回も臨書するほどの魅力が
わかってきた気がします。

私もまた、「蘭亭序」を臨書したくなりました。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

| 記事URL |

posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2013年01月29日 (火)

 

書を楽しむ 第29回「万葉集」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第29回です。

もうお仕事も学校もはじまり、正月気分はなくなりましたか?

今年は、
1月22日(火)から、特別展「書聖 王羲之」(~3月3日(日))、
夏には、特別展「和様の書」(7月13日(土)~9月8日(日))
と、書の展覧会を2回も開催します!

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、本館3室(宮廷の美術)では、
2月11日(月・祝)まで、『万葉集』を書写した古筆(こひつ)が並んでいます。

その中からご紹介したいのが
国宝「元暦校本万葉集(げんりゃくこうほんまんようしゅう)」です。


国宝 元暦校本万葉集 巻四(高松宮本) 平安時代・11世紀
(本館3室 宮廷の美術にて
2月11日(月・祝)まで展示)

小さく青(藍)や紫色がところどころ見えます。
これは、飛雲(とびくも)と呼ばれる装飾で、
藍や紫の繊維を漉き込んだものです。
平安時代、とくに11世紀から12世紀の料紙に見られます。
当館の国宝「和歌体十種」にも大きな飛雲がありますよ。


『万葉集』は8世紀に編纂された歌集で、
全部で20巻、4500首余りの歌が収められています。

漢字に見える部分は「万葉仮名」(まんようがな)です。
次に仮名(かな)で、万葉仮名と同じ歌を表記しています。

漢字と仮名が並んでいる場合、
『万葉集』か『和漢朗詠集』が多いです。
おおよその違いは、
漢字で一首、仮名で一首と書いている場合は『万葉集』で、
漢字で数首、仮名で数首の場合は、『和漢朗詠集』です。
見つけたら、どちらなのか推測してみてください。


『万葉集』は、『古今和歌集』や『和漢朗詠集』と同じく、
各時代の人々に書写されてきました。

昭和に活躍した書家の『万葉集』です。

 
(左)万葉集和歌 熊谷恒子筆 昭和時代・20世紀 熊谷恒子氏寄贈
(右)万葉和歌屏風 深山龍洞筆 昭和時代・20世紀 深山龍洞氏寄贈
(いずれも今年夏の特集陳列「和様の書-近現代篇-」で展示予定)


あれ?
漢字と仮名が並んでませんね。
大字の仮名を用いていて、『万葉集』の新たな表現になっています。


『万葉集』。
古い時代の日本人が歌った歌です。
歌の内容はわからなくても、
それを愛して写し続けてきた日本人の心は、
わかる気がします。

『万葉集』の古筆、ぜひ御覧ください。

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

| 記事URL |

posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2013年01月13日 (日)