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冷たくない⁉「雪」の模様

雪の模様といえば、雪の結晶を模様にしたデザインを思い浮かべる方も多いでしょう。雪の結晶は、空から降りてきたばかりのまだ解けていない雪を顕微鏡で観察した際の形です。
この雪の結晶を最初に日本で観察した人は、古河藩(今の茨城県古河市)の藩主、土井利位です。「雪の殿様」と言われるほどに熱心で、20年間かけて顕微鏡を通して雪の結晶をスケッチし、その成果を版本「雪華図説 正続(せっかずせつ せいぞく)」(図1)として刊行しました。顕微鏡の向こう側に見える雪の結晶の形は、日本人にとってまさに「雪の花」。『雪華図説』が庶民の目に触れるようになって以降は、きものをはじめ、さまざまな工芸品の模様に採用されるようになりました。


(図1)雪華図説 正続(部分)
土井利位著 正:江戸時代・天保3年(1832)、続:江戸時代・天保10年(1839) 徳川宗敬氏寄贈

しかし、日本人はそれ以前にも、雪をきものや陶磁器、漆工品などの模様にしていました。室町時代後期(16世紀)以降の雪の模様を見てみましょう。

「胴服 染分地銀杏雪輪散模様(どうぶく そめわけじいちょうゆきわちらしもよう)」(図2)は、石見銀山の奉行、大久保長安のもとで働いていた吉岡隼人が、慶長6~7年(1601~1602)頃に徳川家康から拝領したと伝えられたものです。大胆に斜め縞に染め分けられた上に、銀杏の葉とともに「はつれ雪」と称される雪のもようがデザインされています。これは、空からはらはらと降ってくる雪のひとひらを表わした模様でしょうか。雪がはじけた模様のようにも見えます。「はつれ雪」模様は、江戸時代になると「雪輪模様」に変化し、小さなくぼみのある円の内側に、別の模様を入れたデザインが人気となりました(図3)。

(図2)重要文化財 胴服 染分地銀杏雪輪散模様
安土桃山時代・16~17世紀
(図3)掛袱紗 紺綸子地雪輪雪持笹模様
(かけぶくさ こんりんずじゆきわゆきもちざさもよう)
江戸時代・17世紀 橋本貫志氏寄贈

 

降る雪の模様があれば、積もる雪の模様もあります。積もる雪のことを日本人は「雪持ち笹」(図4)「雪持ち柳」(図5)のように、植物が雪を持つという独特の擬人的な表現を用いています。冷たい雪もふっくらと柔らかく積もり、雪への親しみが感じられます。

 

(図4)小袖 紅綸子地雪持笹桜模様
(こそで べにりんずじゆきもちざささくらもよう)
江戸時代・17世紀
(図5)唐織 萌黄地雪持柳桐菊藤梅片身替模様(部分)
(からおり もえぎじゆきもちやなぎきりきくふじうめかたみがわりもよう)
奈良・金春家伝来 安土桃山時代・16世紀

 

武家の女性が着用した打掛には、雪が降り積もった景色をそのままに模様にしています(図6)。雪景色を特に美しく感じる心は、古くは『枕草子』にも見られ、清少納言が中宮定子の問いかけに応じ、御簾を高く掲げて雪景色を眺める場面が描かれています。

 


(図6)打掛 紫縮緬地雪景模様
(うちかけ むらさきちりめんじせっけいもよう)
江戸時代・19世紀

本館14室で開催している特集「日本の伝統模様『雪』」(2025年2月16日(日)まで)では、冬にしか見ることのない「雪」に思いをはせた日本人による雪の模様を表した器や着物などを紹介しています。より詳しく雪模様を知りたい方には、展示された作品の雪模様を掲載したパンフレットも本館インフォメーションで配布しています。


特集「日本の伝統模様『雪』」(本館14室)の展示風景

あわせて、本館14室では、本特集の開催期間中、ワークシート「東博雪見 雪のもようをさがしてみよう」を配布中です。このワークシートをつかって、展示室で雪の模様をさがしてみましょう。
また、1月26日(日)のトーハクキッズデーでは、「東博雪見 雪のもようでデザインしよう」と題して、子ども向けのスタンプワークショップを行います。雪の模様のスタンプを押してさまざまな雪に親しんだ後は、ぜひ親子で展示室での「雪見」を楽しんでいただければ幸いです。
(注)ワークシート「東博雪見 雪のもようをさがしてみよう」はなくなり次第配布終了いたします


本館14室 ワークシート「東博雪見 雪のもようをさがしてみよう」配布場所

 

カテゴリ:特集・特別公開

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posted by 小山 弓弦葉(工芸室室長)、中村 麻友美(教育普及室)、阿部 美里(教育普及室) at 2025年01月24日 (金)

 

特別展「旧嵯峨御所 大覚寺」開幕!

 開創1150年記念 特別展「旧嵯峨御所 大覚寺―百花繚乱 御所ゆかりの絵画―」が1月21日(火)より開幕しました。

 
平成館エントランスのバナー
 
本展覧会は、2026年に大覚寺(だいかくじ)が開創1150年を迎えることに先駆けて企画され、伝来の寺宝を大々的に紹介するものです。
 
大覚寺内の中央に位置する宸殿(しんでん)
 
真言宗大覚寺派の大本山であり、今から約1200年前に嵯峨天皇の離宮としてはじまった大覚寺。歴代天皇や皇族、摂関家が代々住職をつとめる門跡寺院(もんぜきじいん)として、高い格式を誇ります。
 
本展は4つの章立てからなり、第1章から第3章までは時代ごとに大覚寺の歴史をたどり、平安時代、鎌倉時代、そして南北朝から江戸時代にかけて、各時代の象徴的な寺宝をご紹介します。第4章では、本展の中心的な作品となる華やかな障壁画100面が会場を彩ります。
 
第2会場の展示風景
 
それでは、さっそく会場内をご覧いただきましょう。
 
第1会場入り口
 
第1章では、大覚寺の前身となる離宮・嵯峨院や初期の大覚寺にまつわる寺宝をご紹介します。
 
五大明王像
左から大威徳明王(だいいとくみょうおう)、軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)、不動明王、ここまで重要文化財、院信(いんしん)作 室町時代 文亀元年(1501)
続いて降三世明王(ごうざんぜみょうおう)、金剛夜叉明王(こんごうやしゃみょうおう)、いずれも江戸時代 17~18世紀
すべて京都・大覚寺蔵 通期展示
 
第1会場に入ってすぐ、皆さまをお迎えするのは室町~江戸時代に制作された「五大明王像」。2メートル前後の迫力あるお像で、平成の修理時に不動明王から像内銘文が発見されたことで、今後新たな研究成果が期待されています。
 
会場内を進んでいくと、大覚寺のご本尊でもあり、平安時代後期の仏像の最高傑作のひとつ、重要文化財「五大明王像」がお出まし。
 
重要文化財 五大明王像
明円作 平安時代・安元3 年(1177) 京都・大覚寺蔵 通期展示
 
作者は円派(えんぱ)と呼ばれる京都を拠点とした流派の仏師・明円(みょうえん)。皇室や上流貴族の仏像を手がけた一流仏師で、現存する作例は本作のみ。この度、東京で初めて5体そろって公開されます。
 
続く第2章では、大覚寺中興の祖と称される後宇多法皇(ごうだほうおう)の事績を通して、大覚寺の中世の様子を紹介します。出家後に大阿闍梨(だいあじゃり:最も位の高い僧侶)となった後宇多法皇は、新たに大覚寺法流を築き、弟子を育てるなど真言密教に篤い信仰心を持っていました。
 
重要文化財 後宇多天皇像
鎌倉時代・14 世紀 京都・大覚寺蔵 前期展示(1月21日~2月16日)
 
本章で公開される2点の国宝は必見。
 
 
国宝 後宇多天皇宸翰 弘法大師伝(ごうだてんのうしんかん こうぼうだいしでん)
後宇多天皇筆 鎌倉時代・正和4 年(1315) 京都・大覚寺蔵 前期展示(1月21日~2月16日)
 
空海の伝記を自ら記した本作品からは、空海を慕う思いの強さが、力強い書体からも感じられます。
 
 
国宝 後宇多天皇宸翰 御手印遺告(ごうだてんのうしんかん おていんゆいごう)(部分)
後宇多天皇筆 鎌倉時代・14 世紀 京都・大覚寺蔵 後期展示(2月18日~3月16日)
 
こちらは後期展示の作品となりますが、崩御前に大覚寺の興隆を願って記した21か条の定めで、冒頭と各条のはじめに朱で手形が押されています。阿闍梨として大覚寺はどうあるべきかを綴った、後宇多法皇の思い入れを体感してください。
 
度重なる火災や応仁の乱によって苦難の時代が訪れた大覚寺。第3章では、南北朝時代以降の大覚寺を支えた歴代天皇や門跡の功績と、それによりもたらされた宮廷文化をご紹介します。
 
源氏物語(大覚寺本)
室町時代・16 世紀 京都・大覚寺蔵 通期展示
 
清和源氏に代々継承された兄弟刀と伝えられる重要文化財「薄緑<膝丸>」と、重要文化財「鬼切丸<髭切>」(北野天満宮蔵)の同一ケース内展示も見逃せません。
 
(左)重要文化財 太刀 銘 忠(名物 薄緑〈膝丸〉)(たち めい  ただ(めいぶつ うすみどり〈ひざまる〉))
鎌倉時代・13 世紀 京都・大覚寺蔵 通期展示
(右)重要文化財 太刀 銘 安綱(名物 鬼切丸〈髭切〉)(たち めい やすつな(おにきりまる〈ひげきり〉))
平安~鎌倉時代・12~14世紀 京都・北野天満宮蔵 通期展示
 
第4章は、第1会場の終わりから第2会場全体をつかって、襖絵や障子絵などの障壁画群を一挙にご紹介します。大覚寺に伝わる約240面におよぶ障壁画は、安土桃山~江戸時代に制作されました。これらは一括して重要文化財に指定され、本展では前後期合わせて123面を展示します。
 
第1会場の障壁画展示風景
 
これら障壁画の多くを手がけたのは、狩野派を代表する絵師・狩野永徳の右腕として活躍した狩野山楽。空間を作り込む永徳の画風を引き継ぎつつ、写実性と装飾性のバランスに優れた山楽の才能は、「牡丹図」にも存分に発揮されています。
 
重要文化財 牡丹図
狩野山楽筆 江戸時代・17 世紀 京都・大覚寺蔵 通期展示
 
総長約22メートルにおよぶ圧巻のパノラマビューをご堪能ください。
 
 
重要文化財 紅白梅図(部分)
狩野山楽筆 江戸時代・17 世紀 京都・大覚寺蔵 通期展示
 
生命力あふれる優美な梅の姿を描いた「紅白梅図」は、山楽の最高傑作のひとつ。
 
重要文化財 松鷹図(部分)
狩野山楽筆 安土桃山~江戸時代・16~17 世紀 京都・大覚寺蔵 前期展示(1月21日~2月16日)
 
松の巨木の力強さに永徳からの影響がうかがえる一方、より計算されて整った山楽らしい画面づくりも感じられます。
 
いずれの障壁画も子育てをしたり、番(つがい)で飛んでいたりする鳥や花々が描かれ、夫婦円満を願うおめでたい雰囲気が感じられます。迫力ある画面の中にも調和と華やかさがあり、この場を寿ぐような祝福された空間を会場で体感してください。
 
重要文化財 牡丹図(部分)
狩野山楽筆 江戸時代・17 世紀 京都・大覚寺蔵 通期展示
 
第2会場では通常非公開の正寝殿のうち、歴代門跡の執務室であった「御冠(おかんむり)の間」を再現。障壁画とこちらの再現展示は撮影可能なので、記念撮影もお忘れなく。
 
正寝殿「御冠の間」の再現展示
 
前期展示は2月16日(日)まで、後期展示は2月18日(火)~3月16日(日)です。
なお、本展の音声ガイドは、俳優の吉岡里帆さんがナビゲーターをつとめるほか、ゲーム「刀剣乱舞」で「膝丸」、「髭切」の声を担当する声優の岡本信彦さん、花江夏樹さんがゲストナレーターとして登場します。観覧とあわせてお楽しみください。
 
音声ガイドの案内パネル
 
東博史上最大規模となる障壁画が、一挙公開となるまたとない機会。
春の訪れとともに、ぜひ大覚寺展へ足をお運びくださいませ。

カテゴリ:「大覚寺」

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posted by 田中 未来(広報室) at 2025年01月24日 (金)

 

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