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見逃せない!「デュシャン 人と作品」(The Essential Duchamp)

東京は秋も深まり朝晩は結構冷えます。トーハクでは、本館北側の庭園を開放、紅葉には早いですが日本の秋の風景をご堪能いただけます。

秋、といえば、芸術の秋。トーハクでは12月9日まで、東京国立博物館・フィラデルフィア美術館交流企画特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」を開催中です。準備段階のブログを1-2本上げたきりで肝心の中身を紹介しないままでおりましたら、すでに、新聞記事やテレビ番組、WEBサイト等でご紹介いただきありがたい限りです。そんな中、今さらではありますが、本展第1部「デュシャン 人と作品」展のおススメポイントなどご紹介したいと思います。

マルセル・デュシャン、というと、《泉》があまりに有名で、デュシャンの展覧会をやっている、と人に話すと「ああ、便器の…」といった反応があることもしばしばです。

しかし、「デュシャン 人と作品」展は、《泉》だけでなくもっと幅広くデュシャンの作品や活動、ひいては彼の人生や人となりについて知ることができる展示内容になっています。このような展覧会構成が可能となったのは、フィラデルフィア美術館のデュシャン・コレクションが質量ともに大変充実したもので、彼の人生を語るのに足る初期から晩年までの作品や写真、関係資料を幅広く所蔵しているからです。
フィラデルフィア美術館のティモシー・ラブ館長が何度かアジアを訪れた中、アジアにおけるデュシャンの影響力の大きさと、特に日本の熱心な研究者やファン(デュシャンピアン)の存在を知り、アジアを廻る国際巡回展として構想しました。当館とフィラデルフィア美術館は長年の交流があり、まず当館にご提案をいただきました。その結果、当館との交流展として第2部とともに実施、そのあと第1部のみソウル、シドニーを巡回します。

では、各章の「見逃せないポイント」(勝手ながら)をご紹介します。

第1章「画家としてのデュシャン」からは、彼が15歳の時初めて描いた油彩画《ブランヴィルの教会》です。

デュシャンというと、前述の《泉》など、とかく変わったことをした、というイメージがあるように思いますが、キャリアのはじめは画家でした。この作品は、当時フランスで大流行の印象派風の作品で、自宅から見た近所の教会を描いたものです。彼が洗礼を受けたのもこの教会で、会場にはデュシャンの生家と教会の写真も展示しています。デュシャンのキャリアのはじまりとして、見逃せない作品です。


第2章は、「『芸術』でないような作品をつくることができようか」と題し、カンヴァスに油絵具で描くという伝統的な絵画から離れた作品を紹介しています。
平成館展示室の広い空間の中で大きな存在感を放つのは、《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》、通称《大ガラス》のレプリカです。


《彼女の独身者たちに裸にされた花嫁、さえも》(《大ガラス》) 1980年(レプリカ 東京版 / オリジナル1915-23)展示風景 東京大学駒場博物館蔵
© Association Marcel Duchamp / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018  G1599


このレプリカは、デュシャンの死後、東京大学で、オリジナルが制作された過程を追体験することを目的として、できる限りオリジナルと同じ技法・素材でつくられました。世界で3番目に制作されましたが、欧米以外ではこの東京版しかなく大変貴重なものです。作品保存上の理由で輸送が難しいことから、東京会場にのみ出品が許可されました。
ちなみに、フィラデルフィア美術館にある本物は、同館の展示室床に固定してあるため移送できません。

上下2つのパートに分かれ、上が花嫁、下が独身者の装置を表します。各部分が何を表しているかは、駒場博物館の《大ガラス》展示パネルでご紹介いたします。

1. 花嫁/雌の縊死体 2. 銀河/高所の掲示 3. 換気弁 4. 9つの射撃の跡 5. 花嫁の衣装/水平線 6. 独身者たち/9つの雄の鋳型/制服と仕着せの墓場 (a)僧侶(b)デパートの配達人(c)憲兵(d)胸甲騎兵(e)警官(f)葬儀人夫(g)カフェのドアボーイ(h)従僕(i)駅長
7. 水車のある滑溝 8. 毛細管 9. 漏斗 10. はさみ 11. チョコレート摩砕器 12. トボガン(未完成の要素) 13. 眼科医の証人/検眼表/マンダラ
(出典:東京大学駒場博物館解説パネル)

性的な主題を扱った作品で、下の真ん中に描かれているチョコレート摩砕器を描いた作品も近くに展示しています。

原品の《大ガラス》は、過去に展覧会に出品された後、輸送途中で破損し、大きなひび割れがあります。今回出品のレプリカにはそのひび割れがないので、かなり違った印象かもしれません。原品は、レプリカの近くに写真でご紹介しています。

この同じ部屋には、《瓶乾燥器》および《泉》のレプリカ、また、《エナメルを塗られたアポリネール》《秘めた音で》のオリジナルが並び、レディメイドの作品を各種ご紹介しています。《泉》はできれば露出展示したかったのですが、作品保存上の理由でフィラデルフィア美術館からOKが出ず、ケース内展示となりました。東京の後2会場廻ることを考えるとやむを得ないことでしょう。




第3章「ローズ・セラヴィ」では、芸術作品自体の制作からも離れ、チェスや出版物、また自身の作品のミニチュア版レプリカの制作などに取り組んでいた時期を紹介しています。

ローズ・セラヴィというのは、デュシャン自身が女性としての別人格として名乗った名前で、この名前で言葉遊びや目の錯覚を利用したものをつくっています。デュシャンはハンサムな人だと思いますが、女装した姿も美しいです。

また、チェス・プレイヤーとしてもかなり有名であったデュシャンは、チェス大会のポスターや、チェスについての出版物の制作もしており、それら印刷物も展示しています。

このセクションにある「ロトレリーフ」という、厚紙でできた円盤は見て楽しい一品です。

ロトレリーフ展示コーナー

本来はレコードプレーヤー(当時で言えば蓄音機の回転盤)に載せ、ゆっくり回転させて、ぐるぐる回る画像が立体的に見えるのを楽しむ、というもので、発明大会のようなイベントで販売されました(売れなかったようです)。会場では、円盤自体とともに、回転する様子が見られるように作られた装置(ロトレリーフ・ボックス)を展示しています。意外に速く回っているような気がしますが、眺めているとなんとなく和みます。ただし、あまり長くみているとふらっとしてしまうのでご注意ください(実際会場で、ふらっとしてしまった来館者の方をおみかけしました。)その上部の「アネミック・シネマ」という実験映画(マン・レイとの共作)も回っているので、上下で回るイメージが不思議なコーナーです。

第1部最後は、デュシャンの死後発表された《与えられたとせよ 1. 落ちる水 2. 照明用ガス》、通称《遺作》を紹介する第4章「《遺作》 欲望の女」です。こちらでは、《遺作》の制作に向けたオブジェや写真のポジなどのほか、1950年代以降、デュシャンの回顧展が欧米の主要な美術館で開催されたときの写真を壁一面に展示しています。

第4章展示風景

《ドン・ペリニヨンの箱》(写真右下ケース内)は、《遺作》のステレオ画像を制作するためのポジやメモをシャンパンの入っていた空き箱に入れたものです。写真はどれも《遺作》に表された風景と女性のマネキンを写したものですが、このポジの中に1点だけ変わったものを持ったものがあります。先日現代美術家の藤本由紀夫さんが会場をご覧になった際に教えていただきました。
会場でぜひ探してみてください。原資料ならではの面白さです。

今回、第1部はいつもより解説文が長く、また完全和英対訳となっています。元が英文でそれを日本語に訳しました。普段の特別展では、特に英文では、これだけの解説を付けられていないので、ぜひゆっくり読んでみてください。

フィラデルフィア美術館は現在大規模改修プロジェクトの真っ最中ですが、デュシャンの展示室には《大ガラス》《遺作》は常時展示してあります。とはいえ、これだけ幅広くデュシャン作品や関係資料を日本で観られるチャンスは、そうそうないと思いますので、ぜひお見逃しなく、何度でもお運びください!

フィラデルフィア美術館 ティモシー・ラブ館長からも一言

 ラブ館長のインタビュー動画はこちら

 

カテゴリ:「マルセル・デュシャンと日本美術」

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posted by 広報室 鬼頭 at 2018年11月21日 (水)

 

 

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