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1089ブログ

和物茶碗の魅力とは

調査研究課の今井です。4年ぶりにトーハクに戻ってまいりました。
現在本館14室で、茶の湯のために日本国内で焼かれた茶碗を特集する「和物(わもの)茶碗の世界―美濃、樂(らく)、京焼、唐津、高取」を開催しています(6月24日まで)。

特集「和物茶碗の世界-美濃、樂、京焼、唐津、高取」会場(本館14室)の様子
特集「和物茶碗の世界-美濃、樂、京焼、唐津、高取」会場(本館14室)の様子

昨年4月11日~6月4日に開催された特別展「茶の湯」を覚えていらっしゃいますでしょうか。そのおりに、ウェブサイト上で「トーハク名碗オールスターズ」、すなわち館蔵の茶碗の人気投票が行われました。
結果は、中国産の唐物(からもの)茶碗が1位から3位までを独占!
朝鮮半島産の高麗(こうらい)茶碗が4位、5位と続き、和物茶碗はすべてその下に沈みました。ずーん……。
和物茶碗の魅力がうまく伝わらなかったのかもしれません。

ここで茶碗の好みの歴史的な変遷と和物茶碗が生まれた背景をざっくり説明します。
唐物茶碗は喫茶の風とともに中国からもたらされました。室町時代には、宝石のような曜変(ようへん)天目や砧(きぬた)青磁を至上とする価値観が成立します。

重要文化財 青磁茶碗 銘馬蝗絆 龍泉窯 南宋時代
重要文化財 青磁茶碗 銘馬蝗絆 龍泉窯 南宋時代 (展示しておりません)

やがて室町時代後期になると、いやいや、焼けなりの変化に富んだ灰被(はいかつぎ)天目や、朝鮮半島の無名の陶工が轆轤(ろくろ)の回るままに作った高麗茶碗の一碗ごとの個性の方が趣があるんだという美意識の変化が生じます。

重要美術品 大井戸茶碗 銘有楽 朝鮮時代 (展示しておりません)
重要美術品 大井戸茶碗 銘有楽 朝鮮時代 (展示しておりません)

ところが、千利休(1522~91)はついにこういった個性すらきっぱりと捨象してしまうのです。
自らの思想を体現した茶碗を長次郎(?~1589)に焼かせます。楽茶碗の誕生です。

黒楽茶碗 銘尼寺 長次郎 安土桃山時代
黒楽茶碗 銘尼寺 長次郎 安土桃山時代

轆轤を使わず手捏(てづく)ねで成形されているため、正円形ではありませんが、かといってこれ見よがしの変化が付けられているわけでもありません。
高台(こうだい)周りの土や削り痕を隠すかのように、艶のない黒い釉薬で底裏までずっぽりと覆われています。
そのさまは、言語による説明を拒絶しているかのようです。

これが慶長年間(1596~1615)頃になると、ひずみやゆがみ、あたかも抽象絵画のような文様等々、弾けてほとばしるかのように、各々の茶碗が声高に個性を競うようになります。

織部沓形茶碗 美濃 江戸時代(個人蔵)
織部沓形茶碗 美濃 江戸時代(個人蔵)

そして、寛永年間(1624~44)頃から今度は一転して瀟洒(しょうしゃ)な作風へと変わってゆきます。

 色絵波に三日月文茶碗 仁清 江戸時代
色絵波に三日月文茶碗 仁清 江戸時代

和物茶碗は、日本の茶の湯のために焼かれたものであるため、それぞれを生み出した時代の茶の好尚をストレートに反映しているのです。

あなたならどの時代に共感しますか?
そしてあなたが一服の茶を喫するとしたら、どの茶碗を選びますか?

特集 和物茶碗の世界-美濃、樂、京焼、唐津、高取
本館14室 2018年4月24日(火)~6月24日(日)

 

カテゴリ:研究員のイチオシ特集・特別公開

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posted by 今井敦(調査研究課長) at 2018年05月14日 (月)