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「日本美術のあゆみ―信仰とくらしの造形―」展 その2

1月17日のブログで紹介されたように、現在、バンコク国立博物館で、タイ王国文化省芸術局、文化庁、当館、九州国立博物館、国際交流基金の主催により、日タイ修好130周年記念展「日本美術のあゆみ-信仰とくらしの造形-」(2017年12月27日(水)~2018年2月18日(日))が開催されています。

昨年の春と夏に九州と東京で、タイ国外初出品も含む貴重な文化財を多数出品いただいた、日タイ修好130周年記念特別展「タイ~仏の国の輝き~」(2017年7月4日(火)~2017年8月27日(日))のお返し展という位置づけもあるこの展覧会。国宝3件、重要文化財25件を含む106件という規模で、総合的に日本美術を紹介するタイでは初の展覧会となっています。

展覧会は全体として、第1章 日本美術のあけぼの、第2章 仏教美術、第3章 公家と武家、第4章 禅と茶の湯、第5章 多彩な江戸文化、の5章から構成されています。

第1章では、日本に仏教が公式に伝来する以前、縄文、弥生、古墳時代の、火炎式土器や遮光器土偶、銅鐸、埴輪といった各時代を代表する作品を展示しています。特に人気なのは遮光器土偶。ドラえもんの映画、「新・のび太の日本誕生」で登場したツチダマで馴染みがあるようです。埴輪もにっこりとした微笑みがタイ人の好みにあっているそうで、人気の作品の一つとのこと。

人気の遮光器土偶
人気の遮光器土偶

笑顔が人気の埴輪 鍬を担ぐ男子
笑顔が人気の埴輪 鍬を担ぐ男子

第2章は日本に仏教が伝来した初期の頃の朝鮮半島系の金銅製の菩薩半跏像から、量感ある造形の9世紀の薬師如来坐像、撫肩で優美な姿の11~12世紀の大日如来坐像、全体にシャープな彫りと玉眼を用いた生生しい表情が特徴の鎌倉時代の如意輪観音坐像まで、大まかな仏像の流れがたどれるようにしています。
基本的にタイは上座仏教の国。仏像もほぼ釈迦像のみなので、様々な種類の仏像は、それらがどういう場面でどのように用いられたのか興味深々のようです。
仏画ではタイの方々にも馴染みある題材の涅槃図、そして堂内荘厳に用いる塼や華鬘や、法要に用いる密教法具などを展示しています。

「2章 仏教美術」の展示の様子
「2章 仏教美術」の展示の様子

第3章は、日本の歴史の中で常に政治的権力と文化の担い手となった公家と武家という二大階級の文化を示す作品を展示しています。公家文化として意匠を凝らした蒔絵の手箱、男性・女性の貴族の装束、公家文化の象徴ともいえる源氏物語を描いた屏風、武家文化として、太刀、刀、甲冑、武家女性の着物、武家のたしなみでもあった能の面、装束などを展示しています。このコーナーでは能面のうち、「万媚」と呼ばれる、色気と妖気を備えた高貴な若い女性を表現した面が人気とのこと。口元に僅かにたたえた微笑みがポイントのようです。

能面 万媚
能面 万媚

第4章は茶入、釜、茶碗、茶杓、花入、懐石道具としての鉢や蓋物、床の掛物としての墨蹟、水墨画といった、茶事で用いられる一通りの道具を展示し、茶の湯の世界への入り口としています。

「第4章 禅と茶の湯」の展示の様子
「第4章 禅と茶の湯」の展示の様子

第5章は町人文化の豊かさを示す、素材や技法、模様に意匠を凝らした町方女性のお洒落な着物、細部の細工にこだわった櫛や簪、春信、歌麿、写楽、北斎、広重、国芳の浮世絵、そして現代にも続く風習である雛人形などを展示しています。中でも北斎はタイでも知名度高く人気。また、春信の愛らしい女性像も好まれるようです。

舫い船美人 鈴木春信筆
舫い船美人 鈴木春信筆

会場の出口付近には北斎の「冨嶽三十六景」の中から「神奈川沖浪裏」をもとにした、簡易的な多色刷り版画の体験コーナーも。本来8回刷りのものを今回はインク4色で4回刷りとしています。
これが開幕直後から長蛇の列ができるほどの大人気。

長蛇の列ができるほど大人気の多色刷り版画の体験コーナー
長蛇の列ができるほど大人気の多色刷り版画の体験コーナー

展覧会そのものも非常に好評で、タイ王室のシリントーン王女殿下も行啓され、メモだけでなくスケッチもされながら2時間近く熱心にご覧になられました。

タイ王室の王女殿下行啓の様子
遮光器土偶の前でメモをとるシリントーン王女殿下

そして、ウィラ文化大臣も大変関心を持って下さり、準備段階から一般公開日までの間に4回も視察にお見えになられました。大臣は建築学を学び、日本への留学経験もある方で、現在も日本での歴史的景観保存・活用の事例研究などをされていらっしゃるそうです。
今回の展覧会への力の入れようは、自ら政府の広報部署へ展覧会の広報の指示を出されるほど。また、会期の前半最終日の1月21日には、開催記念として、ご自身の日本での経験に基づく日本文化に関する豊かな知識や鋭い観察眼を披露されました。タイでも大臣がこのような講演をされるのは異例とのこと。

ウィラ文化大臣講演チラシ
ウィラ文化大臣講演チラシ

大臣のあとに私も展覧会の内容についてお話をさせてもらいましたが、注目は午後の矢野主任研究員を交えたタイ側スタッフとの展示計画やケース制作、環境調整等に関する公開シンポジウム。

シンポジュームの様子
シンポジウムの様子(右から2番目が矢野主任研究員)

以前の矢野主任研究員の記事にもあったように、今回の展覧会開催に当たっては、作品選定はもちろんですが、その前提となる会場の環境整備から会場デザイン、ケース設計まで日本とタイ両国の各専門の担当者が何度も協議を重ね共に作り上げたものです。
その過程では、気候や文化の違いによる様々な困難も多々ありました。今回は国宝、重要文化財を多数出品するということで条件は厳しいものになります。
しかし、各担当者、特に保存担当の和田環境保存室長とデザイン担当の矢野主任研究員が、毎月タイに足を運び、現地の担当者と実地に膝を突き合わせて何度も協議を重ねる中で互いの信頼関係が生まれ、それに応じるようにタイ側も従来の常識を超える対応をして下さり、作品の質も、ケース設計も含めた会場デザインも、130周年の記念の展覧会にふさわしい上質のものとなったのです。

ケース設計の様子
会場でのケースモックアップのテスト
日本とタイ両国の各専門担当者が協議中

日本とタイ両国の各専門担当者が協議中
日本とタイ両国の各専門担当者が協議中

そうした経緯をタイ側の展覧会運営のトップの方から、保存、デザイン担当の方までそれぞれの視点で語られ、今後のタイ国内各地の国立博物館のリニューアルなどに今回の経験が活かされることが述べられていました。

単に作品を貸す側と借りる側という関係で終わらず、ともによりよい展示を作りあげ、お客様はもちろん、展示に関わった人にも喜びがあり、それが今後にも繋がっていくということを実感できた海外展となったことはとても得難い経験でした。

今後の更なる日タイ友好の一助となってもらえれば幸いです。
会期はあと1か月弱ありますので、タイに行かれる機会のある方はぜひ、訪れてみてください!コップ・クン・クラッープ!

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posted by 沖松健次郎(絵画・彫刻室長) at 2018年01月31日 (水)