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特集「やきもの、茶湯道具の伝来ものがたり」

こんにちは。研究員の横山です。
今日は、ずっと温めていた特集のご紹介です。

いつも、展示室でご覧いただいている作品たち。
ふだん、展示室に出ていないときは、どのような箱に入っているのでしょうか。どのように保管されているのでしょうか。気になりませんか?

特集「やきもの、茶湯道具の伝来ものがた ―付属品・次第とともに観る―」(平成館企画展示室、2018年1月28日(日)まで)は、作品の箱など付属品(一緒に伝わっているもの)までお見せします、という展示です。
ここでは日頃担当している陶磁器や、茶の湯関係の作品を中心に紹介しています。

この企画、実は博物館に入る前から関心のあったテーマでした。
茶道をされる方は目にすることがあるかもしれませんが、お茶の道具にはとにかく「大切に、大切に」扱われ守られ伝えられてきているものが多くあります。
たとえば、茶入にはいくつもの仕覆(しふく:茶入を包む袋)がともなって、まるで「着せ替え人形」のようなものもありますし、著名な茶人が「これは確かなものですよ」と記した箱は、それだけで価値のあるものとなります。
さらに、その箱を守るためにまた箱を新たにつくって、“マトリョーシカ”のような二重三重の箱になっていることもあります。

唐物肩衝 銘 松山
唐物肩衝 銘 松山 中国 南宋~元時代・13世紀 原田吉蔵氏寄贈
作品と付属品がずらり勢ぞろい。小さな茶入にこれだけのものが付属しています。

この茶湯道具における付属品(「次第(しだい)」ともいいます)の重要性は、先の特別展「茶の湯」にかかわっていくなかでも、あらためて実感することでした。
箱の蓋を保護するために覆う紙、小さな紙札、更紗など特別な裂であつらえられた包裂…。
その一つひとつが作品を大事に守り伝えてきた証であり、歴史を物語る大切なものばかり。
作品を展示台に並べる際も、展示を終えてもとに戻す際も、それらに触れると何ともいえない緊張に包まれました。

重要文化財 青磁輪花碗 銘 馬蝗絆
重要文化財 青磁輪花碗 銘 馬蝗絆 中国・龍泉窯 南宋時代・13世紀 三井高大氏寄贈
茶の湯展にも登場した名碗。この展示では箱と伝来記も一緒に御覧いただきます。


作品それ自体が興味深いものばかりの博物館の所蔵品ですが、その周辺に付属するものを見ていくと、前の所有者の「顔」や「思い入れ」がうかがえることがしばしばあります。これは博物館研究員の役得ですね。
学生時代から近代数寄者やコレクターについて関心のあった私にとって、博物館入職以来、ワクワクすることの連続です。
ぜひ、こういう世界も展示で楽しんでいただけたらいいな、という思いもずっと抱いてきました。

彫唐津茶碗 銘 巌
彫唐津茶碗 銘 巌 唐津 安土桃山~江戸時代・16~17世紀 広田松繁氏寄贈
この特集では、東京国立博物館の陶磁器や茶の湯関係のコレクションの中核をなす、広田不孤斎と松永耳庵の二人を取り上げました。


加えて、昨年から保存修復課に属し、「どのようにして作品を後世に伝えていくか」ということを、前にも増して考えるようになりました。
作品の修理にかかわることが主な仕事ですが、作品をいかに安全に収蔵していくか、作品周縁の環境づくりも大切なミッションです。
そうしたなかで、新しい保管箱を作るなどしていくと、私自身もまたある種、作品の付属品づくりにかかわり、ものの歴史に関与していくことになります。

銹絵十体和歌短冊皿「八十一歳乾山」銹絵 銘 乾山
銹絵十体和歌短冊皿「八十一歳乾山」銹絵銘 乾山 江戸時代・寛保3年(1743)
乾山の共箱をともなう作品。箱も大切に伝えていくため、10客の皿は新たに誂えた保管箱に収蔵しています。

…そんなこんなで、いろいろな思いが重なって、今回の特集につながりました。
展示室をご覧いただくと、いつもとは少し違う雰囲気をお楽しみいただけるのではないかと思います。
なお、展示室やこのブログでお伝えしきれなかったよもやま(?)話は、1月20日の月例講演会でお話しできたらなと思っています。
合わせて足をお運びいただければ、幸いです。

特集「やきもの、茶湯道具の伝来ものがたり ―付属品・次第とともに観る―」は、2018年1月28日(日)まで展示中です。

それではみなさま、どうぞよいお年を!

 

カテゴリ:研究員のイチオシ特集・特別公開

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posted by 横山梓(保存修復室) at 2017年12月18日 (月)