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ひな祭り恒例「おひなさまと日本の人形」

お内裏さまとお雛さま  ふたり並んですまし顔
   お嫁にいらした姉さまに  よく似た官女の白い顔♪

今年もおひなさまの季節がやってきましたね~。恒例となった本館14室の展示「おひなさまと日本の人形」(~2017年4月16日(日))。今回は大型の享保雛(きょうほうびな)と衣裳人形(いしょうにんぎょう)をメインとした展示を行なっています。

享保雛
享保雛 江戸時代・18世紀

この享保雛。今回が修理後初の展示となりました。ずっと展示できなかったのは、男雛の顔が後の修理で真っ白だったため。昔はよく人形の修理に際して、顔を塗り替えることが行なわれていましたが、なぜか修理途中の状態で留め置きされていたため、目や眉がありませんでした(写真下)。

享保雛の顔
顔が真っ白だった男雛

ところが、よく観察してみると、オリジナルの顔を残したまま、上から白く塗られていることが分かりました。そこで当館の保存修復室に依頼し、表面を一層剥がしたところ、無事オリジナルのお顔が現れたというわけです。

いやー良かった、良かった。これほど大型でよく出来た享保雛は全国的にも珍しく、当館にも他に匹敵する享保雛がないため、健全な状態でみなさんのお目にかけることができ、うれしいかぎりです。

そうそう、享保雛の説明が抜けていましたね。このタイプのおひなさまは、享保年間(1716~35)から都市部(町方、まちかた)を中心に流行したものです。宮中を中心とした公家や将軍家のおひなさまは、今日「有職雛(ゆうそくびな)」や「次郎左衛門雛(じろざえもんびな)」と呼ばれており、公家装束の決まりごとをきちんと反映したものでした。立雛という、より古い形式の作品ではありますが、今回の展示では「立雛(次郎左衛門頭)」(写真下)がこれにあたります。顔立ちが丸いのも公家社会を中心としたおひなさまの特徴です。

立雛(次郎左衛門頭)
立雛(次郎左衛門頭)(部分)江戸時代・18~19世紀

これに対して町方のおひなさまは面長であるのが特徴的で、浮世絵の影響を見ることができるように思います。町方のおひなさまとは言え、今回展示した享保雛は大変に立派なものです。特に男雛の衿を見てみると葵の御紋が入っているので、いずれかの大名家に伝来したものかもしれません。享保雛はその流行にともなって大型化していき、こうした贅沢品を戒めた幕府によって享保6年(1721)に8寸(約24cm)以上の雛人形を禁止するお触書が出されています。おそらくこの享保雛は特別に許された上流階級のものだったのでしょう。

つづいては衣裳人形です。これは文字どおり織物の衣裳を着た人形ということで、広い意味ではおひなさまも衣裳人形なのですが、特に江戸の町人たちを写したものをこう呼んでいます。これらは子どものためではなく、もともと大人が楽しむ鑑賞用の人形としてつくられました。いわば今日のフィギアブームと近いものがありますね。フィギアがそうであるように、なかには手足を自由に動かせるものがあり、思い思いのポーズで楽しむことができます。

それではいくつか見ていきましょう。まずご紹介したいのは「台付機巧輪舞人形(だいつきからくりりんぶにんぎょう)」(写真下)です。三味線の音色にあわせて人々が花見おどりをしている様を表わしたカラクリ人形です。いまは壊れてしまって動きませんが、台についている棒をまわすと人形が回転し、内部に張られた針金をオルゴールのようにはじくことで、三味線の音が聞こえるというものでした。
この作品のすごいところは、作者と作られた年がわかる点です。台座をパカッとあけてみると、内部に書付があり、「りうご屋又左衛門」という人物の発注により、人形は京都の茗荷屋半右衛門、からくりは大阪の川合谷五郎正真という人物が作ったもので、その年は正徳3年(1713)と記されています。

台付機巧輪舞人形
台付機巧輪舞人形(部分) 茗荷屋半右衛門・川合谷五郎正真作 江戸時代・正徳3年(1713)

基本的に江戸時代の人形は作者がわからないのが普通で、作られた年が具体的にわかることはほとんどありません。そうした中、この作品は発注者、人形製作者、からくり製作者、そして製作年と製作地まで分かるという点で極めて貴重な作品です。

またそれぞれのお人形をみても精巧な出来栄えで、ふっくらとした味わいがあります。踊っているのは若衆とよばれる美少年を中心にいずれも男性とみられ(一見して女性のように見える赤い振袖を着た人物も若衆と同じ髷を結っています)、花と美少年を愛でているのでしょう。ちなみに、今回は当館が所蔵する若衆人形のすべてを展示しています。

衣裳人形 若衆
衣裳人形 若衆  江戸時代・18世紀


またもう一つお勧めしたいのが「初参人形(ういざんにんぎょう)」(写真下)です。裃を着て正座する賢そうな姿。こうしたお人形は皇族の男子がはじめて天皇陛下にお会いする「御初参内(おはつさんだい)」の際に、陛下から頂戴したものです。特に向かって右側に展示したお人形に付属している箱には書付があり、明宮嘉仁親王(はるのみやよしひとしんのう、後の大正天皇)が明治天皇から頂戴したものであることがわかります。

初参人形
初参人形(2躯のうち1躯) 明治時代・19世紀 (赤木寧子氏寄贈)

宮中の特注品だけあって、これ以上ないほど素晴らしい出来栄えのお人形。衣裳に使われた金襴も金の輝きが美しく、振袖には鶴や松の模様が繊細に刺繍されています。また展示会場ではよく見えませんが、腰にはこれまた精巧な出来の印籠を下げていますので、最後に写真を挙げておきますね。

印籠部分
印籠部分

繊細で美しく、そしてかわいらしい日本の人形。素晴らしいお人形が勢ぞろいしていますので、ぜひ博物館に会いに来てください。
 

関連書籍

おひなさまと日本の人形
東京国立博物館セレクション 「おひなさまと日本の人形」
三田覚之著
発行:東京国立博物館
定価:1200円(税別)
東京国立博物館ミュージアムショップで販売中
 

 

カテゴリ:研究員のイチオシ特集・特別公開

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posted by 三田覚之(教育普及室・工芸室研究員) at 2017年03月01日 (水)