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「平安の秘仏」私の推し仏~毘沙門天立像~

彫刻担当の丸山です。
特別展「平安の秘仏―滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち」の仏像のなかで、私がおすすめするのは、こちらの毘沙門天立像です。

重要文化財 毘沙門天立像
平安時代・10~11世紀
滋賀・櫟野寺蔵


この像、櫟野寺(らくやじ)のなかではやや異質の存在です。

櫟野寺に伝わる仏像は大きく3つに分けられます。
ひとつめは長身で洗練された表現で、本尊の十一面観音菩薩坐像の制作時期に近い10~11世紀前半につくられた作品。

重要文化財 観音菩薩立像
平安時代・10世紀
滋賀・櫟野寺蔵


ふたつめはやや鄙びた表現で、11世紀前半~12世紀につくられました。

重要文化財 観音菩薩立像
平安時代・12世紀
滋賀・櫟野寺蔵


みっつめは、12世紀末の薬師如来坐像と地蔵菩薩坐像で、都の仏師によってつくられたと考えられる優れた作品です。
 
左:重要文化財 薬師如来坐像 平安時代・12世紀
右:重要文化財 地蔵菩薩坐像 平安時代・文治3年(1187)

ところが、この毘沙門天立像は、時代的にはひとつめのグループに属しますが、第4のグループに分類したほうがいいかもしれません。
ひとつめのグループの特徴である洗練された表現と少し異なるためです。

目を見開き、口をへの字に歪めて怖い表情をしていますが、口元の皺のせいかどこか人間くささがあります。


頭を横から見ると、額と兜の中の頭の形がつながらないのは技量に拙さがあるためでしょう。


体は太く重く、腰のあたりはやや横にのびた感じがします。
そして、腹に付けた顔の滑稽さが、この像のありようのすべてを表わしているように思います。


一方で、この像はとても丁寧に彫刻されています。
甲の飾りや布の襞をこれほどよく表す天王像は多くありません。
特に膝上方の花形の飾りは見事です。


天王像の飾りは彩色で表すことが多いのですが、この像は彫刻で華やかさを表しています。
モデルとなった彫刻か絵画があったのではないかと思います。

本尊の十一面観音菩薩坐像など、大きな作品が注目されがちではありますが、櫟野寺にはこういったユニークな仏像も伝わっています。
他にも会場の仏像はどれも個性豊かな像ばかりです。どうぞ20体をそれぞれつぶさにご覧いただき、皆様自身の「ベスト仏像」を探してみてください。

カテゴリ:研究員のイチオシ2016年度の特別展

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posted by 丸山士郎(特別展室長) at 2016年11月26日 (土)