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「古代ギリシャ」海シリーズ(2)

こんにちは、保存修復室の瀬谷愛です。

古代ギリシャ展、8月5日(金)にご来場者10万人のセレモニーが行なわれました!
暑い中、上から下から照りつける上野公園を通って平成館までお越しいただき、皆様、誠にありがとうございます。

この季節、上野に通勤しながら毎日思うこと。

「海に行きたい・・・」

学生時代、スキューバダイビングサークルで毎月、海に潜っていた私には、進路を考えるときの選択肢のひとつに、「水中考古学」がありました。
海底や湖底に沈んだ遺物を探査し、状況を記録し、引き揚げ、研究する。
そんな素敵な分野を知って、感動し、早速独学を始めましたが、海中から引き揚げた資料の脱塩処理などのさまざまな化学式に直面し、あきらめました・・・。
適当な独学などせずに、その世界に飛び込んでしまえば、また違った人生があったかもしれない。
夏の日差しを浴びると、そんなこともつらつら考えたりします。

でも、その憧れの世界から!

今回のギリシャ展には、海底から引き揚げられた遺物が来ているんです。
 

青年像
前4~前3世紀
キュクラデス諸島、キュトノス島沖で発見
アテネ、水中考古学監督局蔵
ジャジャーン! 


現代のイメージでは、古代ギリシャといえば白い大理石像、ですが、
当時理想とされたのは、油を塗って日焼けした肌のように光り輝く茶色のブロンズ像。
まさにそのイメージにかなう、鍛えられた肉体美です。

このブロンズ像が引き揚げられたのは、キュトノス島沖。
500メートルの海底から、漁船が偶然発見したものです。

展覧会の事前調査の際、ギリシャ国内を案内してくださった通訳のマリアさんによれば、
地中海にはまだ多くの遺物が眠っている可能性があり、ギリシャでは自由なダイビングが禁じられているとのこと(ダイビングショップを通じればOK)。

でも、普通は500メートルも潜れませんから・・・

さて。
その事前調査で行った、テラ(サントリーニ島)。


見事なカルデラ!
3月初旬はまだ肌寒くて、あいにく空もどんよりでした。

観光シーズンは3~10月。
そのオープン直後に行ったので、町では白壁の塗り直しやいろいろなメンテナンスのため、地元の人はみんな忙しそうでした。

紀元前17世紀、この火口で大噴火が起き、島は火山灰で覆われます。
多くの人が脱出し、また多くの人が逃げ遅れ、家々は灰に埋もれました。
古代の絵画作品が現代に伝えられることは極めてまれですが、こうした自然災害で埋もれたことによって、テラのアクロティリ遺跡やナポリのポンペイ遺跡の壁画は、私たちにその文化のすばらしさを伝えてくれています。

その最たる作品が、このフレスコ画です。


漁夫のフレスコ画
前17世紀
テラ(サントリーニ島)、アクロティリの集落、「西の家」(第5室)より出土
テラ先史博物館蔵 
(C)The Hellenic Ministry of Culture and Sports - Archaeological Receipts Fund
両手にたくさんの魚を持っています。頭にある黒いものは、剃り残した「毛束」であって、「タコ」ではありません!


展覧会図録には、この青年が持つ魚について「サバ類と思われる」と解説されていますが、これはスズキの仲間の「シイラ」ではないかと思われます。


撮影協力:国立科学博物館
お隣の国立科学博物館地球館で標本をみることができます。かなり大きな魚です。
頭の形、長く連続する背びれ、とがった尾びれ、そして青と黄色の体色が特徴的です。

大学1年の夏。伊東の伊豆海洋公園でダイビングのライセンスを取ったとき、インストラクターさんが「シイラを食べて食中毒になった」話をしてくださって、それが印象的で覚えた魚です。
どうやらシイラの体表には細菌がついているとかで、調理には注意が必要のようですが、刺身でも焼いても煮ても、さまざまに食すことができるようです。(私は怖くてまだ食べたことがありません)

暖かい海に生息することから、古代のサントリーニ島周辺でもよく獲れ、食用とされたのでしょう。
食中毒に苦しんだ人もいたかもしれませんね。
大きなシイラを大量に両手に抱えたこのフレスコ画は、エーゲ海の豊穣さをよく伝えています。

今回の古代ギリシャ展は、ギリシャ国内約50ヶ所から出品されています。
現地を直接訪れてみてまわることはとてもできない量ですから、上野でご覧いただいたのちに、スカッと晴れたギリシャの島々をお訪ねになることをオススメします!

カテゴリ:研究員のイチオシ2016年度の特別展

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posted by 瀬谷 愛(保存修復室主任研究員) at 2016年08月12日 (金)