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「黄金のアフガニスタン」見逃し厳禁、象牙彫刻

えーっ、これ、象牙でできてるの!?
すごーい!! 
特別展「黄金のアフガニスタン―守りぬかれたシルクロードの秘宝―」の会場ではこんな声も多く聞かれます。

そーなんです。
「黄金のアフガニスタン」展ではありますが、本展で注目すべきは黄金製品だけではないのです。
今回はその象牙彫刻のすばらしさをご紹介しましょう。

第4章「ベグラム」の部屋に入ると、まず目に飛び込むのは、3体の妖艶なる女神像。それぞれ古代インド神話にも登場する怪魚マカラの上に乗り、その豊満な肉体を左右にくねらせています。
  
マカラの上に立つ女性像(左から順にNo.147、148、149)
1世紀


左の1体(No.147)は、体にまとわりつくような薄いギリシア風のチュニックをまとい、ブレスレットをつけ、左手にはブドウの房を持っています。
一方、他の2体(No.148・149)は上半身は裸で、インド風のドーティ(下衣)をまとい、髪飾、胸飾、ブレスレットにアンクレットを身につけています。
これらの像は象牙を丸彫りしたもので、その姿は極めて美しく官能的。思わず見惚れてしまいます。
これらは家具の一部だったようですが、その全体像ははっきりわかっていません。
残念!

次に進むと、まず、No.151の人物・マカラ像の象牙のレリーフがあります。

人物・マカラ像(No.151)
1世紀


中央の人物の両足を2匹のマカラが噛み付いているかのような表現。
この人物はギリシア神話に登場する海の神トリトーンを表現したものといわれています。
しかし、ポセイドンの息子トリトーンは通常、上半身が人間、下半身が蛇の姿で表現されるのですが…? この像は下半身も人間と同じです。
となると、これはトリトーンなのか!? という疑問が湧いてきます。どこかにこの回答のヒントになるものはないか。会場を探してみました。
それは次の部屋にありました! No.212のレオグリフ形腕木です。

レオグリフ形腕木(No.212)
1世紀


マカラの口からレオグリフが飛び出している、あるいはその後ろ足を噛み付こうとしているかのような造形。
そのレオグリフの背には女神が跨り手綱を引き、腹の下から男神がその女神を支えています。
この両神はインド古来の神、女神ヤクシー、男神ヤクシャと考えられています。この構図と比較してみるとNo.151の人物像はトリトーンではなく、ヤクシャではないか!?
これは珍説ですかね。しかし、会場でこんなことを考えてみるのも面白いと思いますよ。

さて、その次には脚台を飾ったと考えられる象牙の装飾板が並びます。
馬やレイヨウなどの動物と「樹下美人図」を思わせる女性像をレリーフで表現。
そして、その隣には象牙を丸彫りした象(No.152)、コブ牛そしてライオンが続きます。
特に象は頭に二つのコブをもつインド象の特徴を良く捉えています。

象形家具脚部(No.152)
1世紀



次の部屋に進みましょう。
先ほど紹介したNo.212のレオグリフ像の裏手にあるケースには二つの象牙の装飾板が並んでいます。



本生話の装飾板(上からNo.195、196)
1世紀


このNo.195・196はちょっと毛色が変わったレリーフ。本生話(ほんじょうわ)の装飾板と呼ばれているものです。
本生話とは仏教説話の中で、釈迦の前生における数々の物語。
No.195 は「ナリニカー姫本生」の一場面、No.196は「もみぬかを腹にもつシンドゥ産子馬前生物語」という本生の一場面を表現したものと推測されているようです。
しかし、このレリーフだけを見ていても、話の内容は良くわかりません。詳細は図録の解説に委ねることにしますが、そこには実に面白い物語が展開されています。ぜひお読みください。
解説でも指摘されているように、インド由来のこうした象牙製品に仏教的な題材が組み入れられているのは興味深いことですね。

さて、最後のケースにはこれまた見事な象牙のレリーフが並んでいます。

楽人と踊子の装飾板(No.194)
1世紀



後宮女性の装飾板(No.210)
1世紀



門下に立つ女性の装飾板(No.211)
1世紀


まず、樹の下で笛を奏でる女性とその曲にあわせて踊る女性が、実に繊細な線でいきいきと描かれている装飾板(No.194)。
次に後宮の女性たちや門下に立つ女性たちを繊細かつ妖艶に表現した装飾板(No.197~211)が続きます。
これらは玉座を飾ったものと推測されていますが、まさに、玉座を飾るにふさわしい象牙彫刻の技と美が融合した見事な工芸品といえるでしょう。

このように素晴らしい象牙彫刻の逸品が、本展では黄金製品の陰で密やかな美を誇っています。
みなさん、こうした作品もぜひお見逃しなく!

※画像はすべて(C)NMA/Thierry Ollivier 

カテゴリ:研究員のイチオシ2016年度の特別展

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posted by 井上洋一(学芸企画部長) at 2016年05月19日 (木)