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映画『バケモノの子』熊徹の大太刀の秘密とは?

こんにちは。毎日暑い日が続きますがいかがお過ごしでしょうか。
当館では、本館2階の「日本美術の流れ」というテーマ展示のうち、5・6室で「武士の装い」というコーナーを設けて古代・中世から江戸時代までの刀剣や甲冑などを陳列しています。

現在、ここでは7月11日(土)から劇場公開されている細田守監督によるアニメーション映画『バケモノの子』に登場する熊徹(くまてつ)が用いている大太刀の外装(刀装)の参考となった作品が陳列されています。

熊徹の用いる刀装について相談を受けたとき
1.舞台は「渋天街」という架空の世界
2.刀装はおおむね江戸時代のものを参考にしたい
3.熊徹はアウトローな乱暴者
という要望が寄せられました。

江戸時代の武士たちは、長い刀剣を普段身に着ける際には、刀剣の刃を上にして左腰の帯に指す「打刀」という刀装を用いていました。
また、熊徹の性格から考えてみた場合、豪快で派手な刀装が適当だと思い、まずは「朱漆打刀」を提案しました。

朱漆打刀(しゅうるしうちかたな) (重要文化財「刀 無銘元重」の拵(こしらえ)) 
朱漆打刀(しゅうるしうちがたな) (重要文化財「刀 無銘元重」の拵(こしらえ)) 
安土桃山時代~江戸時代・16~17世紀 東京国立博物館蔵
本館5室にて10月12日(月・祝) まで展示


この刀装は、徳川家康の次男で福井藩祖となった結城秀康が普段指していたものです。
鞘の全面を朱塗としたインパクトのあるもので安土桃山時代の華やかな文化の気風がよく示されています。
ただ、この刀装は、端正に巻かれた熏韋(ふすべかわ)による菱巻の柄や二匹の牛が旋廻して配された技巧的な構図の鐔(つば)、銀の磨地による洒落た栗形や鐺(こじり)など、実際の印象は派手でありながらも品格のある作品となっていてこのままでは熊徹の性格を出し切れませんでした。


そこで参考にしたのが「溜塗打刀」です。
これは戦国時代の実用本位な作風をみせる刀装で、鎺(はばき)に桔梗紋を透かしていることから明智光秀、あるいは光春所用と伝え「明智拵」と呼ばれています。
この打刀は、柄巻の巻き方が「片手巻」と呼ばれる素朴なもので、戦国時代から安土桃山時代にかけての刀装で時折みられるものです。
熊徹の刀装の、柄糸をグルグル巻きにしている柄はこの打刀が参考になっています。
また、鐔は厚い鉄で簡単な透かし文様を入れた無骨なものを提案しさらにキャラクターの性格に合わせたものにしました。

溜塗打刀(ためぬりうちがたな )(明智拵(あけちこしらえ))
溜塗打刀(ためぬりうちがたな )(明智拵(あけちこしらえ))
室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵
本館5室にて10月12日(月・祝) まで展示


このようにして熊徹の刀装が設定されました。
映画の刀装は、架空の世界ということで実際の刀装ではみられない形状や使い方もみられます。
しかし、刀装は、そもそもそれを身につけた者の階級、生きた時代、シチュエーション、そしてその人の趣向が強く反映される武士にとって重要なアイテムです。
そして、そうであるからこそ、刀装は大まかな部分だけでもこのように物語の設定に生かすことができる奥深いものなのです。

この夏、映画とあわせて当館へお越しいただき、先人たちの縮図とも言える刀装をご覧いただければ幸いです。 


 

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posted by 酒井元樹(保存修復室研究員) at 2015年08月05日 (水)