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国宝 和歌体十種の魅力

現在、本館2室(国宝室)で、「和歌体十種」と「和歌体十種断簡」を展示(6/7まで)しています。
その「和歌体十種」の魅力について、先日はギャラリートークをさせていただきました。
ここでも、魅力について紹介させていただきます。



国宝 和歌体十種(部分) 平安時代・11世紀 ※~6/7まで展示

「和歌体十種」は、壬生忠岑(860?~920?)の著作とされる歌学書で、和歌を十体に分類して説明し、例歌を5首ずつあげたものです。序文や十体の説明は漢字で、例歌は仮名で書写され、漢字と仮名の美しい調和が見られます。


筆者はわからないですが、藤原行成(ふじわらのこうぜい、972~1027)の筆跡に通じるものがあります。


(左) 和歌体十種の「種」
(右) 行成の「重」 国宝「白氏詩巻」(平安時代・寛仁2年(1018) )より


この「重」のかたち、よく似ていると思いませんか?
藤原行成は、平安時代中期を代表する能書(のうしょ)・「三跡」(さんせき)の一人。行成の書風は、流行していたと記録されています。本作も、行成の書風をよく学んでいて、平安時代・11世紀の作です。


そして、料紙には、大きな藍と紫の繊維を漉き込んだ飛雲(とびくも)の装飾がほどこされています。大きな飛雲は、「歌仙歌合」(国宝、和泉市久保惣美術館蔵)にも見られますが、ほかにはあまり残っていないため、珍しいものです。小さい飛雲は、当館所蔵の「元暦校本万葉集」(国宝)や「筋切」などにあります。


国宝 元暦校本万葉集 巻第一 平安時代・11世紀 (展示はしておりません)

昭和のはじめころ、安田家でこの「和歌体十種」(巻子本)が発見され、それまでは欠脱部分もあった壬生忠岑の「和歌十体」の全貌が、初めて明らかになりました。

でも、実はそのとき、この巻子本から十体目の「両方体」の辺りが切断されていて、行方不明でした。
その行方不明だった断簡が、約20年前に発見されたのです!発見された断簡は、平成6年(1994)6月に、追加で国宝となりました。それが、今回一緒に展示している「和歌体十種断簡」です。

 
国宝
 和歌体十種断簡 平安時代・11世紀 ※~6/7まで展示

巻子本よりも、料紙が濃い色になっていて、汚れているように見えます。掛幅になったこの断簡は、茶の湯の席などで披露されてきたのでしょうか。

それにしても、断簡を発見した人の喜びを想像すると、私もうれしくなってきます。このような発見が、まだまだどこかにあるのかもしれません。


平安時代の優美な書で、内容も文学的に貴重な作品です。
これを発見した人の興奮を考えながら、ぜひ国宝室でゆっくりとご覧ください。

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

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posted by 恵美千鶴子(百五十年史編纂室) at 2015年05月21日 (木)