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「クレオパトラとエジプトの王妃展」~王妃ティイのレリーフの墓を求めて~

早稲田大学の近藤二郎です。
7月11日(土)に開幕する「クレオパトラとエジプトの王妃展」の監修を務めています。
エジプト学が専門で、1976年11月以来、約40年間にわたり、毎年、エジプトで調査研究を続けています。
新王国・第18王朝のアメンヘテプ3世時代の研究を中心としており、これまでマルカタ南遺跡、マルカタ王宮址、王家の谷・西谷のアメンヘテプ3世王墓(KV22)などの発掘調査や修復作業を手がけてきました。
現在でもエジプトの5つのプロジェクトに参画し、最近でも年に4回から5回ほどエジプトで調査にあたっています。


今回は、本展覧会の注目作品のひとつ、「アメンヘテプ3世の王妃ティイのレリーフ」にまつわるお話をご紹介します。

本作品は、アメンヘテプ3世時代を代表するレリーフ作品で、穏やかな王妃の姿を高い技術で見事に表現しています。


アメンヘテプ3世の王妃ティイのレリーフ
新王国・第18王朝時代
アメンヘテプ3世治世(前1388~前1350年頃)
ブリュッセル・ベルギー王立美術歴史博物館蔵
(C)Royal Museums of Art and History, Brussels


レリーフは、古代エジプトの王都が置かれたテーベ(現在のルクソール)の西岸に造営されたアメンヘテプ3世時代のウセルハトという人物の岩窟墓に施されていたものでした。
ウセルハトは「王の後宮の長官(監督官)」、「王妃ティイの家令」、「王宮の印綬官の監督」などの称号を持つアメンヘテプ3世治世後期の高官です。
ウセルハトの岩窟墓は、1902~1903年にかけての冬に、当時のクルナ村の村長によって発掘調査がおこなわれ、調査後、ハワード・カーターが、1903年の『エジプト考古局年報(Annales du Service des Antiquités l’Égypte Vol.4(1903))』に、この発掘の概要について報告しています。
(※ハワード・カーターはツタンカーメン王墓の発見で知られる、エジプト考古学の有名人です。当時はエジプト考古局の査察官でした。ツタンカーメン王墓発見の約20年前のできごとです。)

この報告にはウセルハト墓内部の壁面に施されていた王妃ティイのレリーフの写真が掲載されていました。


『エジプト考古局年報 1903年』掲載のレリーフの写真

しかしながら、その後、ウセルハト墓は堆積のため近づくこともできない状況のまま、歳月が経過していきました。
そして、このカーターが墓内部で撮影した壁面の王妃ティイのレリーフは、国外に持ち出され、ブリュッセル・ベルギー王立美術歴史博物館に収蔵、展示されることになります。

私は何としてもこの墓の再調査をしたいとかねてより願っており、その機会をずっと待っていました。
約30年間待ち続けて、チャンスがめぐってきたのは2007年のことです。
ウセルハト墓が位置すると目されていた付近の、民家の移動が行われたことで、2007年12月に念願であった発掘調査を開始します。


2007年の発掘調査の様子

そして、翌年の2008年12月の第2次調査で墓の入口部分を検出し、約100年ぶりにウセルハト墓を再発見することができました。

墓の入口上部に施されたレリーフは、これまで未報告で、太陽神のラー・ホルアクティ神、アトゥム神などの神々を礼拝するウセルハトの姿が表現されていました。

 


ウセルハト墓の入口上部に施されたレリーフ

ウセルハト墓は、前室の天井の大部分が崩落しており、発掘は難航し、壁面の多くは未装飾で碑文もレリーフも見つけられませんでした。
少し諦めかけていたところ、前室の奥壁(西壁)の南側部分で美しい文字列の碑文が見つかり、掘り進めると美しい聖蛇の並ぶキオスク(亭)が姿を現わしました。
そして、ついにその下から王妃ティイの王冠の二枚羽根が…!
ティイの顔の部分を切り取った跡も見つかり、レリーフがかつてあった場所を確認することができました。
発掘していて感動する瞬間です。

 
白く切り取られた部分に、かつて「アメンヘテプ3世の王妃ティイのレリーフ」がありました。
印をつけた部分には王冠の二枚羽根(写真右)が残っています


展覧会公式サイトでは、早稲田大学発掘隊が昨年末から今年初めにかけて行った、ウセルハト墓の最新の発掘調査の様子を公開しています。
事前にご覧いただければ、本物をご覧いただく楽しみが一層増すことと思います。

ウセルハト墓の調査を開始した翌年、私はこの王妃ティイのレリーフをブリュッセルの王立美術歴史博物館に見に行きました。
その素晴らしいレリーフが、今回なんと日本で見ることができるなんて、私自身とても楽しみでなりません。

「クレオパトラとエジプトの王妃展」に、そして王妃ティイのレリーフにご期待ください。

カテゴリ:研究員のイチオシ2015年度の特別展

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posted by 近藤二郎(早稲田大学教授) at 2015年05月04日 (月)