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聖人たちのアトリビュート

特集「キリシタン関係遺品」(8月26日(火)~10月5日(日)、平成館企画展示室)では、イエズス会宣教師フランシスコ・ザビエルが日本にキリスト教を伝えた16世紀半ばから、キリスト教禁教令が廃止される直前の19世紀半ばまでの遺品と関係資料を約70点展示しています。美しい遺品として人気の高い「親指のマリア」もご覧いただけます。

キリシタン関係遺品について、知っているとちょっと得した気分で鑑賞できる情報を紹介します。それは「聖人たちのアトリビュート」です。

キリスト教美術に登場する聖人には、その人に由来する持ち物や小道具が添えられています。それらの物をアトリビュートといいます。アトリビュートは聖人を特定するヒントになります。今回の展示作品にも数々のアトリビュートをみることができます。

重要文化財 三聖人像(模写)
(左) 重要文化財 三聖人像(模写) 長崎奉行所旧蔵品 安土桃山~江戸時代・16~17世紀
(右) 部分拡大

三人の聖人たちが持っている物、これがアトリビュートになります。中央の聖人は殉教具の金網と棕櫚を持っているため、聖ロレンソ(ラウレンティス)とされています。これは聖ロレンソが格子状の金網で焼かれて殉教したという伝説に由来します。棕櫚の枝は殉教者共通のアトリビュートです。左側の聖人はマリアの純潔を象徴する百合と福音書(キリストの言行録)を持っているため、ドミニコ会の創始者である聖ドメニクス(ドミニコ)、あるいはパドヴァの聖アントニウスとされています。右側はキリストの磔刑を象徴する茨の冠をつけ百合を持っているため、シエナの聖カタリナだとされています。

重要文化財 聖人像
重要文化財 聖人像 長崎奉行所旧蔵品 安土桃山~江戸時代・16~17世紀

次は象牙の聖人像。さきほども登場した聖アントニウスだとされています。幼子キリストがアトリビュートです。これは聖アントニウスが幼子キリストの姿を幻視したという伝説に由来します。聖アントニウスにはほかにも魚、燃える心臓などのアトリビュートがあります。

重要文化財 板踏絵
(左) 重要文化財 板踏絵 無原罪の聖母  長崎奉行所旧蔵品  江戸時代・17世紀
(中、右) 部分拡大

板にはめ込まれているのは、信者から没収した大型のメダイです。星の冠、足元の三日月は聖母マリアのアトリビュートです。特に、穢れなくしてキリストを身ごもったマリアを象徴します。そのためこのマリアは「無原罪の聖母(御宿り)」とよばれます。マリアの姿はヨハネ黙示録12章にある「壮大なしるしが天にあらわれた。太陽に包まれた婦人があり、その足の下に月があり、その頭に十二の星の冠をいただいていた」に由来します。


重要文化財 親指のマリア
重要文化財 聖母像(親指のマリア) イタリア 長崎奉行所旧蔵品 17世紀

最後に「親指のマリア」にみるアトリビュートを。それは青いマントです。聖母マリアを「海の星」と称えた聖歌が由来のようです。海=青ということでしょう。このアトリビュートはとてもよく知られるもので、青色は聖母マリアを象徴する色になっています。ちなみに赤色は神の慈愛を示す色ですが、親指のマリアのマントの裏側にも赤色が見えます。

聖人たちのアトリビュート、いかがでしたか? そういえば、アトリビュートではないのですが、聖母マリアは泣いている表情で描かれることがしばしばあります。今回展示した親指のマリアも涙しています。彼女の美しい涙のしずくもお見逃しなく。
 

 

カテゴリ:研究員のイチオシ特集・特別公開

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posted by 神辺知加(教育講座室研究員) at 2014年08月27日 (水)