このページの本文へ移動

1089ブログ

中国漆芸の魅力

マーケットでの中国美術の高騰が騒がれて、久しくなります。当初は単に、投機目的の人々が増えて価格が上がったと思っていたのですが、そればかりではなくて、近年は世界中で中国美術の人気そのものが高まり、収集家や愛好家、研究者が増えているように感じます。

日本の歴史の中で中国の美術工芸品は、唐物とよばれて珍重され、将軍を筆頭とする有力武家や大寺院など、ごく限られた権力者や富裕層のものでした。近代以降も、青銅器や陶磁器のコレクターなど、中国工芸の愛好者と言えば、経済界で成功を収めた大実業家のイメージです。

ところが最近、若い女性達などの間で、もう少し気軽に中国の工芸が鑑賞されるようになってきたようです。特に人気なのが、清朝磁器。彩度の高い鮮やかな色調と精巧無比な造形は、まるで手わざとは思えないくらい。均質性の高いところなど、工業製品に囲まれて生活している現代の我々にとって、かえって親しみやすいのかも。

私の担当している漆工品はというと、彫漆の天目台や盆など、お茶を嗜む方々には格式の高い道具としておなじみですが、若い世代の方々の認知はまだこれからといった感じです。
ここでは、中国の漆芸装飾の主流を占めた「彫漆(ちょうしつ)」による出品作品で、その魅力をご紹介しましょう。堆朱や堆黒など、漆を塗り重ねた厚い層を彫刻して文様を表わす技法を、「彫漆」とよんでいます。



花卉堆朱長頸瓶(かきついしゅちょうけいへい)    明時代・永楽年間(1403~1424)
塗り重ねた漆の層は厚く、文様は立体的に量感豊かに彫り出されています。表面には、漆特有の滑らかな艶があります。



双龍堆朱碗(そうりゅうついしゅわん) 明時代・嘉靖(かせい)年間(1522~66)
小さな曲面に隙間無く龍涛(りゅうとう)文や瑞雲(ずいうん)文を表わし、龍の頭部や鱗、鬢髪(びんぱつ)に至るまで、精細に彫り出しています。


 
双龍彫彩漆長方盆(そうりゅうちょうさいしつちょうほうぼん) 明時代・万暦(ばんれき)17年(1589)
こんどは地の部分にも、ご注目下さい。このように大変細かい地文を彫り込むのは、万暦年間の彫漆の特徴です。地文にもこだわりが感じられます。



八宝文堆朱方勝形箱(はっぽうもんついしゅほうしょうがたはこ) 清時代・18世紀
台脚の足先など曲面の細い部分にまで地文を彫り込んでいて、実に精巧な作行。ここに到ってはもはや、地文の方がインパクト強いです。

年代順に見てきましたが、いかがでしょう?
彫刻がどんどん細密になって行くのが、お分かりいただけたかと。
清時代には、彫漆のみならず象牙や竹、胡桃の殻などの細工の分野でも、細密彫刻が流行しました。
これらは単に高度な彫刻技術を顕示しているのではなく、気が遠くなるほどの手間と時間の集積を、視覚的に表現しようとしたものではないかと思うのです。

日本では伝統的に、漆の質感を大事にしますので、花卉堆朱長頸瓶のような、明時代前期の作品の方が好まれてきました。私自身もこれまではそうだったのですが、今回故宮の漆器を間近に拝見して、考えを改めたところがあります。皆様にも是非、実際の作品で見比べていただけたらと思います。

カテゴリ:研究員のイチオシ2014年度の特別展

| 記事URL |

posted by 竹内奈美子(工芸室長) at 2014年08月18日 (月)