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建仁寺11代住職、蘭渓道隆の顔

特別展「栄西と建仁寺」(2014年3月25日(火)~5月18日(日))では、鎌倉時代から南北朝時代(13~14世紀)の禅僧の肖像彫刻を7体展示しています。すべて建仁寺の住職を務めた人です。個性的な顔はおそらく本人の風貌を写しているのでしょうが、実際のところは確かめようもありません。
ただし、同じ人物の像をまったく別々に造って、その両者がよく似ていたら、それは本人の容姿をかなり正確に写している可能性が高いと言えるでしょう。2体の像が似ていても、先行する1体を写して2体目が造られた場合と、同じものを写して造られた2体なら似ているのはあたりまえで、本人に似ているかどうかは不明です。ですから、似ている2体が別々に造られたものでなければなりません。

さて、今回の展覧会の事前調査で注目すべき発見がありました。
建仁寺境内にある西来院の蘭渓道隆坐像の像内に古い肖像彫刻の頭部が納入されていたのです。
 
蘭渓道隆坐像 延宝4年(1676) 康乗作 京都・西来院蔵
蘭渓道隆坐像 江戸時代・延宝4年(1676) 康乗作 京都・西来院蔵(会期中展示)

蘭渓道隆(1213-78)は中国から渡来した禅僧で、鎌倉・建長寺の開山、建仁寺の11代住職を歴任しました。中国式の禅を日本に植え付けた人です。


 
(左)蘭渓道隆坐像像内納入品 京都・西来院
(右)重要文化財  蘭渓道隆坐像(部分) 鎌倉時代・13世紀 鎌倉・建長寺

京都の建仁寺西来院で今回発見された頭部と、鎌倉の建長寺に伝わる蘭渓道隆像の顔を比べて見てください。(左)は目が大きく見えますが、本当は(右)と同じように落ち窪んでいた部分が破損して穴が広がってしまったのです。両者とも目が窪んで、頬骨が出て、頬はこけ、鼻の下が長く、顎がとがっています。左の顔は仮面のように頭部の前方部分しか残っていないので、耳の比較はできません。
側面から見てみましょう。


(左)蘭渓道隆坐像像内納入品 京都・西来院
(右)重要文化財  蘭渓道隆坐像(部分) 鎌倉時代・13世紀 鎌倉・建長寺

この2つの顔で特徴的なのは口です。下唇の方が前に出た受け口です。建長寺の像の方が大きく出ていますが。
 
 
(上)蘭渓道隆坐像像内納入品 京都・西来院
(下)重要文化財  蘭渓道隆坐像(部分) 鎌倉時代・13世紀 鎌倉・建長寺

上唇の端が少し上がっている点が特に個性的で、両者共通しています。
個性的な部分が共通するので、西来院の蘭渓道隆坐像に納入されていた顔(以下、西来院像とする)は蘭渓道隆のものと見ていいでしょう。

ではこの2つが原本と模写のような関係ではない証拠はどこにあるでしょう。
第一に、頭の形が違います。西来院像は角張っていて、建長寺像は尖っています。これはどちらかが正確に写していないということになります。
次に、技法的な差です。
 

蘭渓道隆坐像像内納入品 京都・西来院

西来院像の目は内側を刳って、目を貫通させてレンズ状の水晶を当てていたと考えられます。
裏面を見ると、刳っている様子がわかります。これが一般的な玉眼の技法です。


重要文化財  蘭渓道隆坐像(部分) 鎌倉時代・13世紀 鎌倉・建長寺

建長寺像は、瞳の部分にだけコンタクトレンズのように表から水晶を貼っています。中国の仏像が瞳にだけ黒い石やガラス玉を嵌めるのに似ています。
水晶を使うのは日本独自の手法なので、これは日本と中国の手法を折衷したものと言えるでしょう。

こうした違いは、恐らく西来院像は京都で、建長寺像は鎌倉で別々に造られたため生じたと考えることができます。蘭渓道隆の顔をかなり正確に写したから両者は似ているのでしょう。
建仁寺西来院の今回発見された頭部は、700年を超える歳月の中、戦乱や火災を潜り抜けて残ったもので、後頭部や体はいつの頃か失われてしまったのです。
像は、おそらく蘭渓道隆の没後あまり時を経ないうちに造られたと考えられます。
建仁寺には当初から建仁寺にあったことが明確な鎌倉時代の彫刻はこれまで知られていませんでした。その唯一の遺品として、今回あらたに建仁寺の宝物に加わると同時に、京都にある禅僧の肖像彫刻の最も古い作例の一つとしても注目に値します。

(注:西来院の蘭渓道隆坐像像内に納入された頭部は像から取り出せないため、展覧会では写真パネルで紹介しています。また、建長寺の蘭渓道隆坐像は出品していません。)

カテゴリ:研究員のイチオシ2014年度の特別展

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posted by 浅見龍介(京都国立博物館学芸部列品管理室長) at 2014年04月09日 (水)

 

 

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