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「博物館に初もうで-午年によせて-」見どころ紹介

2014年は午年(うまどし)ですね。
馬を描いたり、デザインに使ったりするのって、実は結構難しいのではないでしょうか。作者の力量が如実に現われるような気がします。恒例の干支の展示「博物館に初もうで─午年によせて─」(2014年1月2日(木)~26日(日)、本館特別1・2室)は名品揃いで、その競演をお楽しみいただけます。
ここではこの展示のもう一つの見どころ、「馬具」について、ご紹介したいと思います。

単に馬具(人が馬に乗るための道具類)というと、あまり高級なイメージが沸かないかもしれませんが、古今東西、馬具は権力を誇示する格好のアイテムだったようで、趣向を凝らした美術工芸品をたくさん見いだすことができます。
現代的な例をあげるとすれば、世界的に有名なフランスの高級ファッションブランド、エルメスは、馬具工房として創業したのだとか。馬具も服飾品のように、使う人の個性や趣味を発信するのに最適の品物なのでしょう。

日本でも馬具には、工芸技術の粋を集めた作例が数多く見受けられます。特に鞍と鐙は、乗馬用具の根幹をなすものです。
武器や武具の多くは防水性のために漆が用いられていますが、鞍は特に、高度な漆芸技術によって美しく飾られた作品が、数多く残されています。
今回展示する作品から、いくつかご覧いただきましょう。


重要文化財 獅子螺鈿鞍 平安~鎌倉時代・12~13世紀    嘉納治五郎氏寄贈
重要文化財 獅子螺鈿鞍 平安~鎌倉時代・12~13世紀 嘉納治五郎氏寄贈

螺鈿という、貝殻の内側を平らに加工し、文様の形に切り抜いて貼り付ける装飾技法によって、様々なポーズの獅子が表わされています。その周りには金粉をふんだんに蒔き付けており、黄金色の中に螺鈿の獅子がきらきらと輝いています。
また貝の表面には線刻で、獅子の毛並みやそれぞれに個性的な表情が描かれています。獅子たちはいずれも、勇壮というよりは、ちょっとかわいい感じです。
講道館柔道の創始者として有名な、嘉納治五郎氏の寄贈品です。



菊螺鈿鞍    鎌倉時代・13~14世紀
菊螺鈿鞍 鎌倉時代・13~14世紀

現在まで伝えられた鎌倉時代の鞍は大変希少ですが、そのほとんどが、螺鈿の技法できらびやかに装飾されています。黒漆塗の地に夜光貝が白く煌くさまが、当時の武将の好みに合っていたのかもしれません。
これらは中世螺鈿鞍と総称されていますが、いずれも大変な高級品であり、戦場で実際に使われたというよりは、儀式や神前への奉納といった場面で用いられたと推測されています。また鎌倉時代には貝片を切り抜き、切り透かす技術の精度が最高潮に達しましたが、中世螺鈿鞍にはまさに、日本の螺鈿技術の頂点を見ることができます。
ここにみる螺鈿の精細さと言ったら、まさに超絶技巧です!



蕪平文鞍    室町時代・16世紀    沼田鎌次氏寄贈
蕪平文鞍 室町時代・16世紀 沼田鎌次氏寄贈

いわゆる戦国時代には、実戦用の鞍の形にも、大きな変革がもたらされました。部材は分厚く、幅広になっており、いかにも頑丈で力強い姿をしています。またこの形式の鞍の装飾には、厚い金属板を鋲で留めるなど、豪放で斬新な傾向がみられます。
この鞍でも厚い金銅板を切り抜いて、蕪と雪輪の文様を表わしています。蕪は音が頭(かぶ)に通じ、多くの人々の頭たらんとする武家の間で縁起物とされたといいます。また蕪は土に通ずるところから槌に繋がり、打つ(討つ)縁起をかつぐという説もあります。
いかにも戦国武将らしい、アゲアゲな鞍(?)かも…



重要文化財  芦穂蒔絵鞍鐙    安土桃山時代・16世紀    久松定法氏寄贈
重要文化財  芦穂蒔絵鞍鐙 安土桃山時代・16世紀 久松定法氏寄贈

戦国の世を勝ち抜き、天下統一をなしとげた、豊臣秀吉が使ったという鞍と鐙のセット。芦穂文様の下絵が付属しており、そこに秀吉の書付があるため、これらは秀吉所用で、下絵は狩野永徳が描いたものと伝えられたのです。
立体的に盛り上げた高蒔絵と金の厚い板を用いて、一本の芦穂を堂々と表わしています。
こうした派手で目立つことを志向する文様構成や、芦の茎や葉脈、穂のように黄金の輝きを強調した表現は、桃山期の工芸品ならではの特徴です。
覇者の美意識を体現したかのようなこの鞍鐙は、桃山文化期の工芸の代表となっています。

鞍は、戦野を疾駆する武将達の必需品でした。
しかし、高度な漆芸技術によって装飾された馬の鞍は、まさに美術品といっても過言ではありません。
馬具の名品を見る時、人間にとって馬に乗るということが、いかに重要なことであったのか、感じとっていただけることでしょう。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ博物館に初もうで

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posted by 竹内奈美子(工芸室長) at 2013年12月29日 (日)