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東博本「清明上河図巻」と明代蘇州の書画文化

あの感動から約二年……、お待たせしました。東博本「清明上河図巻」が東洋館で公開中です!
 
 

 東博本「清明上河図」 張択端(款)筆  明時代・17世紀 1巻 絹本着色
東博本「清明上河図」 張択端(款)筆  明時代・17世紀 1巻 絹本着色
(2013年12月3日(火)~23日(月・祝)まで東洋館8室にて展示)


東博本「清明上河図巻」は、北京・故宮博物院に所蔵される張択端「清明上河図巻」を祖本に、明代に多く描かれた「清明上河図巻」の一つです。
郊外の風景から始まり、川の流れに沿って人々が街へと向かい、繁栄する都市の様子が描かれています。

輿に乗る女性
輿に乗る女性

 大都市
人々が物資を運ぶ先には大都市があります

綱渡りの女の子
曲芸の様子も多く描かれています。これは綱渡りの女の子

橋の上
橋の上にもお店がいっぱい!

鍛冶屋さん
コッチン、コッチン。一生懸命な鍛冶屋さん

人形劇に夢中
大人も子どもも人形劇に夢中!

勉強も大事
勉強も大事ですね

色鮮やかな反物
色鮮やかな反物が染め上がっています

反物
反物をご購入の方はこちらへどうぞ

本屋さんと傘売り
本屋さんと傘売り


ところが、この作品の魅力は、細やかな人物描写だけではないようです。



画巻の後ろには、明時代の宰相・李東陽、蘇州文壇の首領・文徴明、その友人・彭年、王寵、呉寛など、錚々たる蘇州文化人の跋が続いています。しかしよくみてみると、全部が同じ人が書いたもののようです。
      

(左)李東陽の跋
(右)彭年の跋
書風は変えていますが、明らかに同じ一人が書いていることがわかります。



(左)翰林画院張択端製(偽款)
(右)巻頭の「宣和」印(北宋徽宗の収蔵印)も偽物です。

これを見ると「ニセモノを展示するとはけしからん」と、怒られる方もいるかもしれません。しかしこれは、11世紀作品の17世紀におけるとても高い質を持った複製で、当時の古画や美術のあり方を考える非常に重要な史料なのです。この「清明上河図巻」のなかには非常に大切な場面が描かれています。


店頭で書画を買う人。
赤い官服を着ているので身分の高い官僚でしょう。
日本の表具にしか残っていない風帯(表具の上のヒラヒラ)も描かれています。

宋元時代の書画は、主に親しい友人に贈られるために描かれましたから、金銭を仲介に市場に流通することは比較的稀でした。しかし、明時代になり社会が発展すると、書画を楽しむ階層が爆発的に増大します。それまでの支配者層であった士大夫官僚のみならず、商人たちも豪華な屋敷を構え、壁には書画が飾られました。
しかし古い名画には限りがありますから、その複製が行われることになります。この時代、蘇州で作られた名画の複製品は美しいことで大変有名で、それを「蘇州片(そしゅうへん)」とよび、東博本「清明上河図巻」もそのうちの一つです。当時このような書画屋さんで売り買いされ、富裕層に楽しまれていったのでしょう。


(左)文徴明の印(偽印)
(右)王寵の印(偽印)
よく見れば印朱の色が同じ。制作者が工房で手元にあった印を押したことがわかります。

ここでは、当時の蘇州片の作者たちが、同時代の文人たちの書風を完全にマスターしていたこと、また彼らの工房には、有名な文人たちのみならず、徽宗皇帝の印章までもが用意されており、江南の富裕層はそのような伝来のしっかりした書画を欲しがっていたことがわかります。北京故宮の「清明上河図巻」を知っている後世の私たちは、それを偽物と一蹴してしまいがちですが、当時は違った価値を持ち、人々に愛されていたのです。蘇州片の専門の研究もあるぐらいで、蘇州片の歴史を知ることは、本物を知るぐらい非常に重要なことと言えるでしょう。
中国文化史における書画の複製の誕生は非常に早いのが特徴です。それは、美術の受容者、すなわちそれを楽しむ人が、世界に先駆けて爆発的に増大したという、社会の発展を示しています。この背景には、16世紀以降、江南経済都市の繁栄がありました。


石濤、龔賢の巨幅
石濤、龔賢の巨幅も見所です。この石濤の作品は昭和の南画の大家・小室翠雲の旧蔵品でした。

今回の明本「清明上河図」と明清の絵画(2013年12月3日(火)~23日(月・祝)、東洋館8室)では、
東博本「清明上河図巻」を生んだ蘇州のほかに、福建、杭州、揚州、南京の個性的な四つの江南都市の絵画を紹介しています。爛熟した都市の文化をお楽しみ下さい。


 

カテゴリ:研究員のイチオシ

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posted by 塚本麿充(東洋室研究員) at 2013年12月03日 (火)