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【上海博物館展コラム】室町時代の水墨山水画との深い関係

特別展「上海博物館 中国絵画の至宝」コラム。今回は、前回のブログでお約束しました「室町時代の水墨山水画と元代文人画の知られざる深い関係」についてご説明いたします。

室町時代に数多く作られた水墨山水画の中に、書斎を周囲の自然景とともに描いた一群の作品があります。
それらを「書斎図」と呼びますが、その代表的なものに下記の作品があります。


渓陰小築図  竹斎読書図
(左) 国宝 渓陰小築図 
太白真玄序、大岳周崇等六禅僧賛 室町時代・応永20年(1413) 京都・金地院蔵


(右) 国宝 竹斎読書図 
伝周文筆 文安4年(1447) 竺雲等連序・江西龍派等五僧賛 室町時代・15世紀  
 


これらは多くの場合、実景ではありません。
中世の禅僧たちが理想とした静かな生活、すなわち人里離れた庵に住み、美しい山川に囲まれ、書斎で読書や詩作に耽りたいという、実際には実現困難な暮らしへの憧れを反映して作られた作品です。
そうした憧れが醸成された背景には、陶淵明や杜甫、蘇軾など、中国の文人たちを、室町時代の禅僧たちが相当に敬愛していたことが大きく関わっています。
これら中国の文人たちは、官僚として国政に参画することを己の第一の使命と考えながらも、しばしば、ゆえあっての辞職や、動乱に起因する流浪、政争などによって、都を離れて地方に閑居し、困難に直面しながらも、詩文の創作に大いなる才能を発揮しました。

日本における書斎図の発生と流行の原因として、そうした中国の詩文や文人への憧れと同時に、中国・元時代の文人が、自己や知人の書斎や庵を表した山水画を数多く描いていることも見逃せません。
その好例が、昨年開催した特別展「北京故宮博物院200選」の目玉だった趙孟頫(ちょうもうふ)の水村図巻(北京故宮展図録no.13)(本展図録66頁、図26)や、朱徳潤の秀野軒図巻(北京故宮展図録no.17)であり、本展出品作の、王蒙の青卞隠居図軸や、銭選の浮玉山居図巻なのです。


青卞隠居図軸
一級文物 青卞隠居図軸
王蒙筆 元時代・1366年 上海博物館蔵
展示期間:10月29日(火)~11月24日(日)


浮玉山居図巻
一級文物 浮玉山居図巻(ふぎょくさんきょずかん)(部分)
銭選(せんせん)筆 元時代・13世紀 上海博物館蔵
展示期間終了



中国の元時代は、日本では鎌倉時代から南北朝時代にあたりますが、日中間の禅僧の行き来が最も盛んに行われた時代だったことは、じつはあまり知られていません。
日本からはきわめて多くの禅僧が中国を訪れ、禅寺で修行するとともに、中には趙孟頫や王蒙といった一流の文人画家と交流した禅僧もいました。
また日本からの要請を受けて中国から多くの高僧が来日し、禅宗だけにとどまらず、当時の最新の中国文化を紹介しました。

こうした往来と文化交流によって、中国で流行していた書斎図が、実際の作品はもちろん、書斎図に関する知識や見聞も日本にもたらされました。
それらに触発されて室町時代には禅宗寺院を中心に書斎図が流行しました。

室町時代の水墨山水画には元代文人画も深く関わっているといえるのです。



救仁郷秀明研究員
救仁郷秀明
列品管理課登録室長、貸与特別観覧室長。専門は中世の水墨画。

本館3室 禅と水墨画―鎌倉~室町 の展示室にて。

カテゴリ:研究員のイチオシnews2013年度の特別展展示環境・たてもの

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posted by 救仁郷秀明(登録室長) at 2013年11月11日 (月)