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北京故宮博物院200選 研究員おすすめのみどころ(龍袍)

特別展「北京故宮博物院200選」(~2012年2月19日(日))をより深くお楽しみいただくための「研究員のおすすめ」シリーズのブログをお届けします。

 
孔雀翎地真珠珊瑚雲龍文刺繍袍 清時代・乾隆年間(1736-1795)頃 中国・故宮博物院蔵
(本ブログの画像は全て本作品です。)
(右)作品正面の拡大部分。正面を向いた五爪の龍が刺繍で表わされている。


「孔雀翎地真珠珊瑚雲龍文刺繍袍(くじゃくはねじしんじゅさんごうんりゅうもんししゅうほう)」・・・染織の名称は長くなりがちですが、名称を見れば、大体、その技法や形態がわかるようになっています。つまり、孔雀の羽を下地にし、真珠や珊瑚で飾り、雲龍や吉祥文を主体とした模様を刺繍で表した袍(上着)ということになります。この袍は、清朝の皇帝がお祝い事の行事の際に着用した吉服で、正面を向いた五爪の龍(正龍)が胸の部分に大きくついていることから「龍袍(ろんぱお)」とも呼ばれています。異国の珍しく美しい孔雀の羽や、真珠や珊瑚などで彩られたインペリアル・ローブとは、ラグジュアリーの極みといえるものです。
 
珊瑚で赤い花を彩っている部分。 (右)左画像の拡大部分。

 
真珠をあしらって作られた龍の顔の部分。 (右)左画像の拡大部分。

皇帝と皇后のみが着用を許された龍袍は緙絲(綴織)、雲錦(緯錦)、刺繍など、さまざまな技法を用いたものが残されていますが、この龍袍をみれば「孔雀の羽!って一体どうやって作ったのだろう?」と思われるのではないでしょうか。清時代でも二例しか遺されていない珍しい袍で、ちょっと見ただけでは、その疑問は解けません。
じつはこの袍には、とてつもない繍技が使われているのです。

袍の地の部分を写した拡大写真をご覧ください。


遠目に見ると緑色に輝いて見える地が、実際には紺色(中国では「石青色」と言います)の繻子(サテン。中国では「七絲緞」と言います)を土台とし、その上を別の糸が隙間なく敷き詰められ、糸で留められています(この糸を留めていく刺繍技法を中国では「釘線針」といい、日本では「駒繍」といいます)。

さらに敷き詰められた糸を拡大してみると、なんと、撚りのかかった淡い緑色の絹糸に、孔雀の細い虹色の羽毛が一本一本コイル状に巻き付けられているのです。


この孔雀の羽が遠目に見ると、地色が緑色に輝いているように見えるのです。まさに、刺繡の技術が最高に達した乾隆帝時代における名品の1つといえるでしょう。

でもなぜ、清朝の皇帝はこのように手間をかけた珍奇ともいえる孔雀羽の衣を身に纏いたかったのでしょう?
中国には古くから美しい鳥の羽を身に纏いたいという願望があったようです。中国の『南斉書』という書物には、南北朝時代、斉武帝の子息が職工に孔雀の羽で織った衣を作らせ、その姿はとても華麗で貴高かったと記されています。また『異物彙苑』という本にも唐の安楽公がさまざまな鳥の羽を集めて裙(裳。通常、襞のある巻スカート状の下衣)を作らせたが、一目ですべての鳥の羽の色がみられるように彩り豊かであった、と記されています。また、明の第14代皇帝万暦帝の定陵からも孔雀羽を織り込んだ龍袍が発掘されたとか。美しい孔雀の羽を身に纏うことは、皇帝たちの至高の望みでもあり、権力の象徴だったに違いありません。

カテゴリ:研究員のイチオシ2011年度の特別展

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posted by 小山弓弦葉(工芸室) at 2012年02月06日 (月)