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運慶だけじゃない 本館11室で慶派仏師たちが競演

現在開催中の特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」の会場である本館特別5室は、連日多くの方々にお越しいただき、にぎわいをみせています。本展には、鎌倉時代の興福寺北円堂の復興に際し、仏師運慶が一門を率いて造像した国宝仏7軀(く)がお出ましになっています。特別5室はまさに本展タイトルのごとく、「運慶一門による祈りの空間」に満ちています。

本館11室 展示風景
 
ところで、特別5室のすぐ近くにある本館11室は、東博コレクション展(平常展)の「彫刻」の展示室です。実は現在、本展にちなみ、運慶が属した慶派仏師の仏像や、慶派の作風がよく表れた仏像を展示しています。鎌倉時代前期から後期までの慶派の仏像を通じて、慶派仏師の広がりとそれぞれの作風の個性を紹介しています。特別5室が「運慶一門による祈りの空間」ならば、11室は「慶派仏師たちの競演の場」とも言える雰囲気を醸し出しています。
今回のブログでは、11室に展示している仏像のなかから、慶派仏師の作風がよく表れた仏像をいくつか紹介します。
 
阿弥陀如来立像 鎌倉時代・13世紀 
 
東大寺南大門の巨大な金剛力士立像(国宝)の造像にも参加し、運慶と並び称される仏師が快慶(かいけい)です。快慶は、力強さやリアリティを追求した運慶の作風とは異なり、優美で整った作風を創り出しました。その作風は、彼の法名の安阿弥陀仏(あんなみだぶつ)にちなみ、安阿弥様(あんなみよう)と呼ばれます。
 
阿弥陀如来立像 鎌倉時代・13世紀 部分(腹部周辺)
 
安阿弥様は後の時代にも影響を与え、この阿弥陀如来立像のように安阿弥様に基づく仏像が数多く作られました。たとえば、腹部の衣の線を一定の間隔で刻んだ形式美が特徴の一つです。
 
菩薩立像 鎌倉時代・13世紀 
 
運慶の次世代の仏師のなかでも、ひときわ独自の作風を示すのが肥後定慶(ひごじょうけい)です。肥後定慶の仏像は、切れ長な眼や涼やかな顔立ち、着ている衣の彫りが深く複雑に翻っています。こういった要素を備えたこの菩薩立像は、肥後定慶周辺の仏師の作とみられます。
 
菩薩立像 鎌倉時代・13世紀 部分(頭部側面)
 
高く結い上げた髻(もとどり)を横から見てみると、段差を付けていることが分かります。このように髪や衣を装飾的に仕上げているのが肥後定慶風の仏像の特徴です。
 
重要文化財 愛染明王坐像 鎌倉時代・13世紀 
 
鎌倉時代初期に運慶が確立した力強く写実的な表現は、鎌倉時代後期の慶派仏師たちにも引き継がれました。さらにこの時代の慶派の仏像には、工芸的な細やかさが加わっています。
 
重要文化財 愛染明王坐像 鎌倉時代・13世紀 左斜め側面
 
この愛染明王坐像にみられるように、衣の文様に絵の具を盛り上げて立体的にしたり、体には入念に作られた華やかな飾りを付けたりして、技巧を凝らしていることが分かります。
 
運慶は鎌倉時代当時から慶派仏師のなかでも大きな存在でした。ただ、上記で紹介したように、慶派のなかでも運慶とは異なる作風をもつ仏師や、運慶の作風を引き継ぎながらも新しい要素を加えた仏師がいたことも確かです。これら慶派仏師の仏像をぜひご覧いただき、それぞれの像の個性や特徴を感じていただけましたら幸いです(本記事で紹介した展示は、12月21日(日)まで)。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ彫刻「運慶」

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posted by 増田 政史(彫刻担当研究員) at 2025年11月12日 (水)

 

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